鱗雲
川沿いに自転車をこいでいた。
浮かない顔で、キーコキーコと油の切れた音を出しながら。
ゆっくりゆっくりこいでいた。
ふと横を見た。
その瞬間目を見開き、キッという音を立て、止まる。
地平線に沈みかけた夕陽。
その赤い光は影を映し出す。
家も、山も、電柱も。人の心までも。
そして照らす。
稲穂と、水面と、鱗雲を。
刹那、風が吹き、その全てが揺らぐ。
まるで世界が動きだしたかのように。
知らぬうちに頬に涙が伝う。
明日はきっと雨だろう。
でも、その次は晴れると良いな。