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女一匹異世界奮闘記  作者: ぼんぼん
20/36

20.救出作戦2

「まず、外の見張りを片づける」


 小声で囁くように言い、ハリスがノブに手を掛けた。


「ちょっと・・・ちょっと待って!」


 あたしは小声で叫んだ。

 ハリスが苛立ち紛れのため息を吐いた。

 

「・・・今度は何だ」


 ハリスの腕の筋肉を見る。とてもよく鍛えられた筋肉だ。

 あたしは、ゴクリと喉を鳴らした。


「・・・殺すの?」


 あたしの口からするりと出た言葉は、ペラペラと平べったくて、実際自分が言った言葉のように聞こえなかった。

 ハリスが、じっとあたしの顔を見つめる。


「そうなるかもな」


 あたしの喉から変な空気が漏れる音がした。

 ・・・確かに、カエル男のことを好きか嫌いか聞かれれば、『嫌い』と即答できる。悪い奴らは全員消えてしまえとも思う。でも、文字通り目の前で死んで行くのを見たいかと言われれば、それは見たくないのだ。平和ボケしていると言われても構わない。

 物語ならバッタバッタと敵をなぎ倒すのもいいだろうけど、現実問題、『それではどうぞー!』とは中々言えない。


「・・・殺さないでどうにか出来ない?」

「見なきゃいい」

「あたしはこんなことには慣れてないのよ」

「草原で男どもに飛びかかってたじゃないか」

「殺そうと思ってやったわけじゃないわ。あれは・・・言い訳するなら、色々なことが重なったせいよ。まず、暴言に始まって、それに子供への暴力でしょ、貞操の危機、Tシャツのシミ・・・。あたしはただ身を守っただけだわ」


 ハリスは、ふーっと長く静かな息を吐き、視線を合わせないまま言った。


「・・・ともかく、約束は出来ない」


 元々ハリスの出す答えにあまり期待はしていなかった。・・・当たり前だ。ハリスは軍人で、任務でここにいる。必要と思われることは全て、躊躇いなくするのだろう。

 自分が滑稽なことを言ってる自覚はある。

 覚悟を決めるしかない。あたしは奥歯をぐっと噛みしめた。





「行くぞ」


 そう言ってハリスはノブを回し、そして、一気にドアを開け、カエル男に殴りかか―――らなかった。

 

「・・・どうしたの?」

 

 おっかなびっくりドアの外に顔をのぞかせると、そこには、カエル男が仰向けで横たわっていた。

見張りのくせに ・・・寝てるわけ?

あたしはパチパチと瞬きをした。何だか・・・首の角度がおかしいんじゃない?少し、後ろに回り過ぎている気がする。それに、わずかに見える口もとから舌がだらりと飛び出していて、まるで・・・。


「・・・い、いい生、きてる、わ、よね?」


 甲高くうわずって震えている声は、あたしの声?どこか遠くから聞こえて来ている気がする。


「間違いなく、死んでるだろうな」


 カエル男の横にしゃがんで息を確認しているハリスを視界におさめていた。視界におさまっているだけで、あたしの頭は真っ白だ。ノブを回す前にした覚悟なんて、所詮砂上の楼閣。頭の中では何処からかガンガンと大きな音が鳴り響いていて、目の前の壁がぐにゃり、と歪んだ。


「あ・・・う・・・」


 ぐらぐら揺れるあたしに気付いたハリスが、肩を押して強引に座らせ、壁に頭を持たせかけてくれた。









「泣きやめ」

「泣いてないわ」


 あたしの顔は涙と鼻水でぐちゃぐちゃだった。拭っても拭ってもぼろぼろだらだら零れ落ちるそれらに、もはや為す術もない。

顔を見られたくなくて、ふいと顔を逸すと、ハリスは呆れたような顔で言った。


「お前とその男は、そんなに仲が良さそうには見えなかったが・・・」

「そーゆーことじゃないのよ!」


 これは、悲しいとかそういう感情ではないのだ。この気持ちに名前なんて付けることは出来ない。言うなれば、衝撃的な出来事で目と鼻の栓が一気に吹っ飛んだみたいなものだ。

 ハリスは溜息を吐いて天井を扇ぎ、軽く首を振った。


「泣くな」

「泣いてないってば!」


 







「死んでる人、なんて見たことないもの。ちょっと動揺しただけよ」

 

 あたしは真っ赤に充血しているであろう目に力を入れて、自分のつま先を睨みつけていた。目的は、目玉の乾燥と心の安寧だ。絶対に、絶対にカエル男を見てはいけない。

 ハリスは、先ほどから叩いてるのか撫でているのか判断に困る強さであたしの頭をボフボフとリズミカルに触っている。

 たぶん慰めてくれてるんではないだろうか。ちょっと痛いけど。


「・・・誰がやったのかしら?」


 ハリスは手を止めて、考えあぐねるように言った。


「・・・俺たちの他にもいるようだな」

「味方?」

「何とも言えん」

「ハリス、『影』とかいうので偵察してたじゃない。誰が・・・これをやったか見てないの?」


 いや、とハリスは首を振った。


「この建物全部を見回ったわけじゃない」

「どうして?」


 もしあたしに同じ能力があったなら、きっと隅から隅まで見て回るだろう。回避できる危険は極力回避したい。


「『影』はそういう能力だ」


 えっと、さっぱりわからないんだけど・・・。

 そういう能力って?

 あたしが首を傾げていると、ハリスが言った。


「『影』は物陰から偵察するのが得意なんだ。『影』は明かりの付いた廊下を歩いたり、昼日中の外を走り回ったりはしない。俺が『影』を飛ばしたのは、子供の監禁部屋とあの恐ろしいばあさんの部屋だ。あとは、外で待機している追跡チームに、一瞬だけ作戦開始の合図をしただけだ」


 よく分からないけど、色々と限定的らしい。物陰って・・・キラキラしいハリスの見た目に似合わない地味な能力だ。なんだか使い勝手が良くなさそうに聞こえる。


「うーん、ちょっと繊細?な力なのね?」

「・・・・・・」


 出来るだけオブラートに包んだつもりでそう言うと、ハリスの眉間にしわが増えた。



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