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女一匹異世界奮闘記  作者: ぼんぼん
15/36

15.お風呂4

しれっと久々に更新しております。・・・申し訳ない。

「すごく、キレイな髪」


 白い布から現れたのは、柔らかそうな濃い金色の髪の毛だった。耳に少しかかる長さで、くせ毛なのか毛先がいい感じにくるくるとしている。心もちペタンとしてるのは巻いていた布のせいだろう。


 あたしは自分の肩より少し長い黒髪を指先でつまんで見比べた。それは、油っぽく汚れているだけでなく、蒸し暑い荷台に長時間放りこまれていたせいで湿気を吸ってウネウネと縮れていた。


ここ2年ほど、あたしの髪形は、当時雑誌の特集で見た『これであなたも愛されガール☆ゆるふわ内巻きカール』というものを参考にしている。つまり、かなりガーリーだ。雑誌に書かれていたキャッチコピーが、見事にあたしの心をがっちりとキャッチした。2年間彼氏のいなかったあたしに、それはぴったりなように思えたのだ。ちなみに髪形を変えてから2年経つが、まだ彼氏は出来ていない。これは、一体何を意味するのか。


 ・・・話はそれたが、あたしが出来る髪形は限られている。父譲りのひどく自由なくせっ毛に加え、母からは敏感肌を受け継いでいるせいで、くせをどうにかしようとストレートパーマをかけると、頭皮がパーマ液に負けてかぶれてしまうのだった。そんな厄介な遺伝を受け継いだあたしは、コツコツと日々努力を積み重ねるしかない。石油成分の入っていないシャンプー、保湿力の高い(値段も高い)トリートメント、ブロー前のドライトリートメントに週に1回のヘアパック・・・それに加え、暇さえあればつげの櫛で艶が出るまで梳かし続ける。ここまでしてやっと『ゆるふわ』と言ってもいいレベルまでくせを落ち着かせることができるのだ。それからキープ剤をつけてこてで内巻きに巻き、ようやく『これであなたも~』が完成する。


 それがどうだ。何の手入れも出来ない今、あたしの髪はこんがらがってとんでもなく膨れた状態にある。あたしはもう一度ハリスの髪に目をやって溜息をついた。


「どうした?」


 気付いているのかいないのか、ハリスは額に落ちる前髪を邪魔くさそうにかき上げて訊いてきた。キラキラと輝く髪がサラサラと指の間を流れる。頭の白い布を取ったハリスは、まだ体の白い布は纏ったままだ。その姿はまるでフラスコ画から抜け出た天使のようだった。今、あたしは下着姿でほぼ裸と言える。髪の毛は爆発している。この姿はまるでド○フから抜け出た雷様のようだった。


 不思議そうに首をかしげたハリスの額に、またも髪が落ちた。

理不尽な感情がむくむくと頭をもたげ、気付けばあたしは両手で自分の髪をワシッと掴んでいた。


「『どうした?』じゃないわ、あたしの髪をよく見てよ!とんでもなくモジャモジャで満遍なくベタベタしてるわ。なのに、ハリスの髪はサラサラのツヤツヤ!しかも―――」掴んでいた髪をグイッと引っ張り、臭いを嗅ぐ。「臭いのよ!・・・ううん、髪だけじゃないわ、身体全部よ。あたしの全身から腐った井戸水みたいな異臭が・・・!」


 

「お、おい・・・」

「もう嫌よ!こんなの耐えられないわ。今すぐお風呂に入る!」


 あたしは、着けていた下着をパパッと脱ぐとお風呂場のガラス戸に突進した。










「・・・出ない」


 あたしはシャワーヘッドを持って茫然とつぶやいた。蛇口らしきものを押しても引いても捻ってもお湯どころか水さえ出ない。


「何をやってるんだ」


 呆れた声とともに、腰にタオルを巻いたハリスがお風呂場へと入ってきた。


「これ壊れてるわ」


 シャワーヘッドをバシバシと叩き、ブンブンと振り回す。しかし、1滴の水さえ出てくる気配はない。


「壊れるからやめろ」

「手遅れよ、もう壊れてるわ!」


 やりきれなくて視界が滲み始めた。


「こんなのってないわ」

「そんなにシャワーヘッドを睨んでもお湯は出ないぞ」


 視界がぼやける。こんなことで泣くまいと目に力を込めたが、情けないことにあたしの声はちょっとばかり掠れていた。


「こんなことで泣くな」

「まだ泣いてないわ!」


 ハリスは片方の眉を上げ溜息をついた。


「お前は何ていうか、いろんな意味で非常に奇怪な生き物だな」


 そう言って蛇口に手をかざした。その途端、勢いよくお湯が飛び出した。あたしは、なすすべもなくそのお湯を顔面で受け、ゲホゲホと咳き込んだ。


「話を聞いてないからこうなる」

「ケホッ・・・!話って・・・」

「最初に説明した『珠』のエネルギー変換だ」

「・・・ゲホッ・・・!ちょっと、待っ・・・て・・・き、気管に・・・ガホッ、ウェェ・・・!」

「・・・・・・」


 呼吸を落ち着けてなんとか苦しさから脱したものの、あたしは肩で息をしていた。ハリスの視線が突き刺さる。


「落ち着いたか?」


 あたしは大きな深呼吸を何度か繰り返し、コクリと頷いた。お湯は今止まっている。


「どうやったの?」


 あたしが何をしても出なかったのに、ハリスが手をかざしただけで簡単にお湯が出た。『珠』っていうのは、あたしの場合あの青いやつのことだ。エネルギー?変換?あたしは首をかしげた。


「『珠』について初めに教えただろう。生活に関することのほとんどは、エネルギーを変換する必要がある。お前の両親は何も言ってなかったのか?生命体における力の現出は、まず平衡状態での熱量の―――」

「っちょっと待った!」


 ハリスの口からまたもや呪文があふれ出した。どうやらあたしは何か重要な説明を聞き逃していたようだ。申し訳ない気持ちがちらりとのぞく。が、いつ終わるともしれないこの呪文を延々と聞く気はない。今あたしには、もっとやらなければならないことがあるのだ。


「あーそのハリス、ごめん。あとで聞く。ちゃんと聞くから。だから、頭洗ってからでもいい?」



 ハリスは何かに耐えるような顔をしたあと、無言でお湯を出してくれた。ごめんってば。


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