プロローグ
魔界――その場所は、太陽が昇ることのない闇が広がる世界。
そんな世界を支配する魔王は、城の屋上部分にあたる場所から魔界を見渡していた。
「……ついに、時が来たか」
覚悟をするかのように呟いたその言葉に返答する者は存在しない。そして魔王は、ゆっくりと目を閉じたのだった――。
◇◇◇
高校二年生の五月。私――村田千絵の通う春田学園の高校二年生は、毎年この時期になると課外学習として水族館へ行くことになっていた。この齢で水族館なんて、と思うかも知れないけれど、じっくりと魚の説明を読みながら水槽の中を観るのは、何だかとても楽しかった。
深海魚のコーナーは洞窟のようになっていて、中は真っ暗。とても神秘的な空間になっていて、私は思わず声を上げる。
「わあー……」
「こんなので感動するなんて、アンタも安い女ね」
私の感嘆の声を聞いて、呆れたようにそんな辛辣な言葉を放ったのは、親友である山中茜。小柄な体と幼い顔立ち、黒髪にポニーテール。そんな可愛らしい容姿をしているのとは裏腹に、かなりの毒舌だ。
茜とは去年同じクラスになったのがきっかけで仲良くなった。毒舌なキャラの彼女は勘違いされやすいが、私は茜のサッパリしたこの性格は好きだったりする。本人には言わないけれど。
「安くていいですー」
「アンタ、そんなクールそうな見た目で水族館の魚に感動するってキャラに合わないわよ」
「そっくりそのまま、その言葉をお返しします」
はいはい、と話を流す茜を無視して、私は深海魚について詳しく書かれている貼り紙をじっくりと読む。そこには深海魚についての意外な情報が書かれていて、私は集中して読んでいた。だから、気が付かなかった。茜がいつの間にか深海魚コーナーから出て行ってしまっていて、その暗闇の中で私は一人になっていた、ということに。
「茜! これ見てよ……って、いない!」
なんていうことだ。彼女は説明書きに夢中になっている私を無視して、先に行ってしまったのだ。もう、と小さく不満の声を漏らして、私は早く茜の元へ行こうと一歩踏み出した。――と、暗闇の中にキラリと金色に輝く物体を見付けた。私はしゃがみこんで、それを手に取ってみる。
「……何、これ」
それは金色の何かが砕けたような欠片だった。気のせいか、キラキラと瞬いているようにも見える。誰かが落としたのだろうか。……それにしても何だか、この欠片を見ているととても不思議な気持ちになる。
どれくらいそうして居たのだろうか。そろそろ行かなくちゃと自分に言い聞かせて顔を上げる。立ち上がろうとした私だが、それは叶わなかった。
「ひっ……!」
目の前に広がる水槽の中、そこには信じられないような生き物が生息していた。それは髪の毛が深緑で長く、その髪色と同じような顔の色。そして血に染まったように真っ赤な瞳と魚のような鱗がびっしりついた下半身。足はなく、例えるならば人魚。しかし童話に出てくるような美しいものではなく……。一言で言うならばそれは化け物だった。
私は目の前にいる生き物の存在が信じられず、息を飲んだ。
――しかし、次の瞬間。
それは、姿を消した。
処女作です!
どうぞこれからよろしくお願いします^^