師 (2/47)
殆ど面識のなかった学友が、私を見込んで相談があるといってきた。
先生を殺してしまったのだという。
なんでもこの教師は、少年を密室に連れ込み何時間にも渡るヒステリックな説教の挙句、欲情し彼を手篭めにしようとしたらしかった。
死体をこさえて途方に暮れた少年がなぜ私を頼る気に成ったのか。その理由は今もって謎である。それ以前には話した事すらなかったのだ。
ただ私はこの教師が嫌いで、よく殺意を口に出していたのを、この少年は憶えていたらしい。
先生は、体育の時間に使う汚らしいマットが敷かれた、汚らしい準備室で、頭から血を流して絶命していた。
レイプする側は被害者を人間として見ているのだろうかという疑問が脳裏をチラリとかすめた。 せめて清潔な環境で、などとは考えないものなのだろうか。どうせ酷い目に遭うのだから、ちょっとくらいマットが汚くても大した問題では無いと考えてしまうのだろうか。
私たちは横たわる先生の屍を挟んで、彼が生前如何に碌でもない人間であったかを語り合い、如何すれば罪を免れれるか頭を捻った。
出来る事なら助けてやりたくて、私は一生懸命考えたのだが、いかんせん私は頭もそんなに良く無いし、小説のようにトリックを考え出す事は無理な話だった。
結局、隠し立てせず正直に全て話すのが一番と言うことに落ち着き、警察に電話することに成った。少年は可哀想に泣き出してしまい、私は彼を抱きしめてやりたかったが勇気が足りず出来なかった。
パトカーが到着し、少年が連行されようとした時、彼はありがとうと私の耳元に囁いた。 彼は最後に私を抱きついて怯えた息を吐き、車両の中に消えて行った。