結実(1/47)
机に盛られたフルーツの一つを無造作に手に取り、放り投げる。
放物線を描き、コロコロと転がって、壁に当たって跳ね返り静止した。
桃だった。
僕はツカツカと歩いて行くと、踏み躙る。 柔らかい果肉が潰れる。
足をどけて見てみると、皮が裂けてむき出しに成った果肉がグチャグチャになり、種子が覗いている。
「何だか哀しいね。こんなものでも、いのちだというのに」
「まあそう言うなよ 」
彼女は笑って、歩いてきてしゃがみ込むと指をそのひしゃげた蜜壺に突っ込んだ。果汁があふれる。
「甘い衣に纏わせ、強固な殻に包み送り出す。植物は甘い香りと味で虫や獣の協力を購って居る。か弱く見えて最後に笑う。儚いばかりじゃないさ」
桃だったものを穿り返し、黒くテラテラと光を照り返す、蜜に濡れた種子を摘出した。
「そういう厭らしい逞しさが、私は好きだな。ご覧。コレが、本体だ」
彼女は種を口に含み歯を立てて、噛み躙る。
ゴキリビリビリと嫌な音がして、彼女の表情が痛みに歪む。
彼女は口中のものをぺっと吐き出す。砕けた種の殻だけが散らばった。
「死んだ」
彼女は僕のほうを見て微笑み言った、ねえ、もし私たちに子供が生まれたら・・・
「結実と名付けましょう」
いい名前だねと僕は答えた。