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「さて、くだらない話でも聞いてもらおうかな。
俺はこの世に関連している、全ての人間が嫌いだ。
もちろん、俺自身も大嫌いだ。でも自殺はしないよ?
そんなことしたら、負け犬みたいじゃないか!
死にはしないよ?でもね、他の奴らの事なんてどうでもいいと思っているんだよ。災禍君。
君は人間という、この憎たらしい世界を構成するものを、なんだと思っているんだい?
屑かな?塵?虫けら?それじゃぁ虫けらや屑や塵に失礼だな、なんだい?
なんだと思っているんだい?
答えてくれよ、災禍君。君への質問なんだからさ。ねぇ?」
「玩具――。」
災禍と呼ばれた少年はぼそりと答えた。
少年は目を男に合わせない。絶対に見ようとしない。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!
そりゃぁいい!最高だ!実に最高だ!
そうだな、玩具だ!最高の玩具だ!
予想通りに動く人間はモノクロの盤の上で踊る兵士の様じゃないか。
じゃぁ俺達はそのゲームを動かすものだ!
王も女王も最高の玩具だ。君もゲーマーだなぁ、まぁ俺もだけどねぇ。
でもこの世界には予想通りに動かない人間も居る。
たとえば、魍魎やコール。どちらも俺等ゲーマーの裏の裏のそのまた裏をかいてくる。君はそんな奴らまで玩具だと思っているのかい?
ねぇ、思っているのかい?災禍君。
だとしたら君は世界をなめすぎているよ。この世界は最悪だ、でも最高に面白い。
絡まり合う人間関係。
発狂した科学者の末路。
他殺者の自殺行為。
滅びて行く世界の核。
四肢を亡くしたピアニストの終わり。
柩に入った柩屋。
可笑しいんだ。片腹痛いね。涙が出るよ。
無理に予定を通そうとすると、途中で投げ出してしまう事があるから易々と指示できない。ん?何を投げだすかって?決まってるだろ?
命だよ。
死んだら玩具が減るから嬉しくないんだよ。
どうせ死ぬなら、最高に楽しませてから死んでほしいよね。」
男はとんでもないことを楽しそうに、玩具の山を見つめる子供の様な顔でそう言った。
真っ白なスーツに身を包んだ男は、機械的な、でも楽しそうな笑いを零すと災禍に言った。
「今度は玩具でどんな事をするつもりなのかな?」
言いながら、革の黒いソファーから立ち上がる男を、心の宿っていない目で災禍は見上げた。男はひらひらと手を振りながら、仄暗いマンションの一室から出て行った。
災禍は濁った瞳を俯け、手に握った携帯のボタンを流れるように押して、ある三人のアドレスへ一斉送信した。
【魍魎ととコールという名の人間を殺せ。
いいな?『パラノイア』諸君。】
『パラノイア』それは、裏社会ですら公にされていないある集団で。殺人鬼の一族がトップに居るのだそうだ。
その一族を禍罪一族といい。それはその一族の子供に生まれたから、姓が禍罪なのでは無い。ただ、禍罪一族の人間は物心が付き始めると、体に溢れる力を持て余すようになる。
未来を予測することができる。触れずに『もの』を壊すことができる。死なない。怪我や病気をしない。努力をしなくとも最高で最強。怪力。
そんな、力をもつ者を見つけ、禍罪一族の養子にするのである。
パラノイアに入っている人間の殆どが、殺人鬼や詐欺師である。前科持ちも数知れない。そのトップに立っているのがこの少年。禍罪であり。禍罪一族の最後なのである。
なぜ最後かというと、遺伝子の改造があり。禍罪の血が生まれる前に消されてしまうからである。
災禍はそんな中での生き残り、戦場から逃れきった兵士。モノクロの盤から脱戦し、その駒を動かす側に回った勝者だ。




