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オレンジ色の木の実  作者: のみのみの
第一部・日常の中で
6/7

魔法陣1

 書類、書類、書類。

 書類書類書類書類書類書類書類書類書類書類。

 渦高く積みあがった書類は全て来月に迫った期末試験に関するものだ。

 運営会試験課長である私、ことメイーシア・アングロスは教務会や運営会長から回ってきた書類の整理、確認に大童である。

 そもそも筆記試験に関しては教務会が全てを行うのだが、実技に関しては運営会も協力することが毎年の慣習なのだ。前学期の時に散々思い知ったというのに、これはまるで


「地獄だー!!」

「私の言葉を盗らないでください」


 副課長のシュリが、まるで私の心を読んだかのように叫んだ。彼女の机の上には私に負けず劣らずの紙束がある。

 普段は外回りという名目のサボりをする彼女だが、流石にピンチの時には助けに来てくれる頼れる副課長だ。


「やっぱりメイもそう思うよね、この量って異常だよね?」

「どうやら初等部試験場で正体不明の魔法陣が発見されたようで、全試験場に別の人材で再調査しなければならなくなったようです」

「うぁ~最悪。誰よそんな厄介なもの見つけたのは」

「中等部6年のサン・メグさん」

「あー、この前の競技祭で総合6位の子か。ミナール会長にスカウトされてたね」


 サン・メグさんは中等部6年の魔法科所属で精霊使いとして学園内ではわりと有名人だ。余談だが、精霊とは主にマナを食料としている生命体のことをいう。進化論的には哺乳類に近いとされていて、霊長類(ヒトも含まれているので注意)にはその名残といわれる魔臓が存在している。

 そんな精霊が人に従属することは珍しいことで、教諭陣の中にも混色性精霊だと3匹、純色性精霊だと1匹を使役している人がいるくらいで、普通なら混色性精霊1匹が使役できればいい方である。だがサン・メグさんは純色性精霊を8匹、しかも魔法の8属性分類方に照らし合わせると全ての属性を保有していることになる、らしい。

 連絡会の知り合いから聞いた話だが、恐らくは間違いないだろう。


「試験で死人は出したくないでしょ。これでも他の所に回した結果なの。まだ猶予はあるから、さっさとやってしまいましょう」

「うーい」


 そして再び書類の処理に戻ろうとすると。


「お茶をお持ちしました」


 トルネがお茶を三つ持ってきた。

 三つ?

 この部屋には私とシュリ、それと今入ってきたトルネしかいない。

 シュリは受け取ると一気に飲み干し、直ぐに書類の山に取り掛かっている。トルネはこの部屋に長居するような性格ではない。


「ありがとう。誰か来客?」


 そう聞いてみると、トルネは頷いた。

 来客自体は珍しいことではないが、長居するような来客は今は遠慮してもらいたい。


「リン・ミドリ連絡会長です」

「は?」


 この時の私はまだ、この出会いを些細なものだと認識していた。





 運営会試験課は、暇な時と忙しい時の差が激しい。

 年四回ある試験の前一ヶ月程が忙しいので、一年の半分ほどが忙しいことになる。

 私、メイーシア・アングロスは高等部5年技術科音楽コース声楽専攻なのだが、毎年の学園祭と、後期期末試験を兼ねたコンサートの二回、公の場での発表会がある。

 そして今はコンサートの練習をしているのだが、その地獄のような書類の処理もあり休む暇もなくへとへとだ。


『イリスによるカンタータ第7番』


 専攻長との直談判によりその一曲だけで成績評価をしてもらえることになったが、メインの曲ということもあり難易度は高い。


「メイ、大丈夫?」


 どうやら疲れているのが顔に出ていたらしく、六年の先輩から声をかけられた。


「大丈夫です。なんとか間に合わせます」

「無理しないでね? 体調管理も大切よ」


 はい、と返事をして、音程がなかなかとれない所を練習する。

 友達と音程や発声方法などの擦り合わせをやっているうちに、いつの間にか放課後になってしまった。

 明後日にホール練習を行うとの放送が入り、嬉しそうだったり焦ったりといった顔をした専攻仲間を見て、少しだけリフレッシュできた。

 帰りの誘いがあったが、試験課長としての仕事があるので断り、運営会試験課室に向かう。


「アングロスさん」


 音楽コースの存在する12号館から運営会本部のある1号館に移動している途中で、声をかけられた。

 振り向くと、人文科の制服を着た男子が一人、立っていた。


「はい?」


 忙しいのだが、運営会幹部としては無視するわけにもいかない。

 青みがかった黒い髪の毛は肩下まで伸ばし、紺の瞳はパッチリとしている。頬は仄かに赤く、ぷっくりとしている。女子用の制服を着せても似合うのではないだろうか。

 そんなことを思っていると、男子の口が口呼吸をする魚のように動き出した。


「ご、ご……ご」

「ご?」

「ごめんなさいっ!」


 突然大きな可愛い声をあげたかと思うと、目の前が真っ白に染まった。

 いくつかの足音が聞こえてきた所で私の意識は途切れた。

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