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オレンジ色の木の実  作者: のみのみの
第一部・日常の中で
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魔法力学基礎 第十一回講義

 教室の扉が開かれ、そこから30を過ぎたくらいの年若い男性が入ってきた。

 彼は教壇の上に立ち、目の前に座る60人程の生徒を見回す。


「おはよう」

「おはようございます、先生」


 彼の担当授業の一つ、中等部魔法科6年と自然科6年共通の魔法力学基礎の、13回の講義の内の11回目である。


「おや、サンは欠席か」

「運営会長に呼び出されたようです」

「そうか」


 一つの席が珍しく空いていたので聞いた先生は、返された言葉に頷くと黒板に向かう。


「11回目の今日からは、スミレの第四方程式の説明を行う。第一から第三まではこんな式だったな。それじゃあ、サミュエル、第一方程式を説明してくれ」


 指名された生徒は立ち上がり、教科書を見ながら説明を始める。


「スミレの第一方程式とは、体内に存在する魔臓一つが行うことを数式化したもので、理想的な条件下での魔力から魔力線がもつ最大エネルギーへの変換効率を表した方程式である」

「そうだな。それじゃあ第二方程式は、ケシー、説明してくれ」


 先生は生徒に頷くと、別の生徒を指名して第二方程式の説明を求めた。


「スミレの第二方程式は魔力線の状態を表す微分方程式であり、別名魔場方程式とも呼ばれます」

「それじゃあ第三方程式をアイリーン、説明してくれ」


 先生は更に別の生徒を指名して、第三方程式の説明を求めた。


「第三方程式は魔力線のもつエネルギーの分布とある領域のマナ密度から発生する魔力ベクトルを表した方程式です」

「よし、全員復習はできたか。分かんなかったら隣のやつに聞くなりしろよな。それじゃあ、第四方程式の説明に入るぞ」


 先生は黒板に向き直ると第四方程式と、式の側に各変数の説明を書き始めた。


「えー、第四方程式だが、これは飯倉菫が晩年に発見したものだ。簡単に言ってしまえば、魔法陣とそこに注がれた魔力の量と、そこから発生するエネルギーとの関係をあらわす方程式だ。魔法陣学を取った生徒は教えてもらったと思うが、この頭についたrの二乗分のmからも分かるとおり、威力は距離の二乗に反比例する。ここからも分かるとおり、この第四方程式は他の三つとは関係が無いと言ってもいい。rについて、0から無限遠まで積分した式はベルリの方程式という名前がついている。今日の課題はこの第四方程式からベルリの方程式を導いてもらう。第二方程式でやったのとほとんど同じだから、直ぐにできるだろ」

「先生」


 一人の生徒が手を挙げた。


「何だ?」

「詠唱が第一から第三までの方程式三つで書かれているのに、なぜ魔法陣は一つだけなのですか?」

「いい質問だ。これには以前説明した歴史的な経緯が大きき関わってくる」


 そう言うと先生は黒板に一つの方程式を書き込む。


「前回説明したジャクモの詠唱方程式だ。これが第一から第三までの三つの方程式をまとめたものだというのは納得してもらったと思う。言ってしまえば詠唱方程式と対になるのがこの第四方程式だ」


 先生は生徒に向き直った。


「さて、飯倉菫が最初に見つけた方程式は? ミール」

「第三方程式です」

「そうだ、第三方程式が最初に見付かった。これは当時、マナという物質が発見されたことに起因する。マナについての詳しい話はこの授業ではやらないが、電子と陽子のように陰性マナと陽性マナの対で出来ていることが実験的に示されているんだが、この事を最初に発見したのが飯倉菫だ。そして、この実験から第三方程式を導いた」


 先生はここで一拍をおいた。


「ここから魔法の発現順序を遡るように、第二方程式、第一方程式と発見した訳だが、どうしても魔法陣にこれらの式を当てはめられなかったそうだ。実際のところ、第四方程式は晩年の手記にメモのように書かれていて、導出過程が全く書いてないので、偶然この式を思い付いたのかもしれない。ジャクモの詠唱方程式を元に書かれたとも言われているが、真相は明らかにはなっていない」


 先生は黒板に更に三つの式を書き足す。


「第一から第三方程式と対になるこんな方程式も存在する。導出は対応するスミレの方程式から簡単にできるから、興味があったらやってみろ。まあこれらの方程式から第四方程式が導かれる事が証明されたので、一時期は六つの方程式を基準にしようとする主義もあったんだが、飯倉菫が見つけた四つの方程式を使うことが主流になっていったんだな。まあ単純に使いやすかったからだろう」


 ここで先生は生徒を見回した。


「それじゃあ、第四方程式の詳しい説明に入るぞ」


 先生は一旦黒板の文字を全て消し、再度第四方程式と変数の説明を書いた。


「これが魔法陣に一様に魔力が込められた理想的な条件下での式だ。rは魔法陣の重心からの距離、mはマナ密度、pが魔法陣に込められたマナの総量、μは魔力定数、nは魔法陣の要素の種類の個数で、n次元ベクトルaは各要素の個数、行列Aは各要素の重みだ。魔法陣の要素分解についてはもうやったと思うが、その要素の組ごとに重みは決まっている。その一部が教科書102ページの表だ」


 大きな表が4つ並べて書いてある。


「四つの表はそれぞれ魔力ベクトルの各要素に対応したものだ。第一方程式と似たようなものだが、若干異なっている。詠唱の要素と魔法陣の要素が対応している場合は同じだな。まあこの表は覚える必要はない。試験でも必要な部分は必ずどこかに載せる予定だ」


 それから先生はいくつかの例題を解きながら方程式の使い方を説明していく。


「それじゃあここまで説明した所で、後は章末問題の7と、始めの方で言ったベルリの方程式の導出過程をレポートにして提出してくれ。出した人から退出していいぞ」


 先生はそう言うと近くの席に座った。

 教室には生徒たちの話し合う囁き声が響いている。

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