学園祭2
初等中等高等合わせて約6000人、更に教師や研究生等を含めて8000人程を収容した闘技場は、学園祭の最後のイベントである後夜祭の開幕間近とあって物凄い熱気が篭っていた。
ルルやジョンを捜そうと思ったのだが、この様子では見付けられそうにない。
仕方なく壁際に寄りかかり、始まるのを精霊達と話をしながら待つ。
暫くすると突然、全体が真暗になった。それと共に会場が静寂に包まれる。
「諸君!」
鋭い言葉と共に会場のど真ん中に作られたステージの上にスポットライトと共に現れたのは、真白な衣装に身を包んだエイコ運営会長。そしてその隣には対照的に真黒な衣装に身を包んだクライシアスク学園祭実行委員長が立っていた。二人とも高等部6年生だ。
「学園祭は楽しんでもらえたかな?」
うぉーー!! という野太い歓声が響く。恐らくステージ近くにいる運営会長応援団のものだろう。
会長はその反応に天使のような笑みを浮かべる。
「それはよかった。さて、本来ならばもう少し話していたいのだが、生憎と時間がない。という事で早速だが最期のイベントを開始する」
会長、字が違っています。
「冗談だ。それでは詳しいことをクライスシアク学園祭実行委員長よりお願いする」
まるで私の心を読んだかのように私を見ながらそう言った会長は、その場でクルリと一回転をすると衣装を残してステージ上から消えてしまった。
残された実行委員長は溜め息を吐き、クライシアスクです、と小声で訂正してから説明を始めた。
「えー、ルールは簡単、最後までここに立っていられた人の優勝です。戦闘不能になること、生物を殺すこと、過剰攻撃をすること、闘技場から出ることの四条件の何れかに当てはまったと判定された場合は失格となり、研究員の方々によって客席の方へ移動してもらいます。いいですかいいですね、それでは始め」
やる気なさそうにそう言い残すと、実行委員長も会長と同じように消えてしまった。会場が明るくなる。
残されたのは困惑する生徒達約6000人。毎年、運営会長がこの最後のイベントを独断と偏見で決めるからといって、これは余りにも酷いと思う。
「……」
ティックがこちらを見ていたので、横を向く。
「暫く排他結界」
「わ、分かった」
そう言われて慌てて光の精霊にお願いした。
(物理、魔法、精神の干渉を排他する結界をお願い)
するとすぐに私とティックを中心とした小さなドーム状の幕が覆った。どうやら光も遮断してしまったようで、真暗になる。
ティックを見ると、どこから取り出したのかノートパソコンで何やら操作をしていた。画面には闘技場を斜め上から映した映像が流れている。なぜ外部の情報が、と思ったがこの結界は排他的であるだけなので不可能ではない。非連続なデータ通信を行っているのだろう。
「それは?」
「闘技場の現在状況」
なるほど。よく見ると、中央から少し外れた辺りでルルとジョンが人の山を築いている。そして動きの流れでこちらを見てきたかと思うと、ニヤリと笑った。
何か嫌な予感がする。
慌てて真黒な結界を見るが、流石に破られてはいないようだ。
(私の張る結界は、人間には破壊できませんよ。うふふ)
そう言ってきた精霊に苦笑をもらし、しかし頷いた。備えあれば憂いなし。
そうこうしているうちに、画面の闘技場に立っているのは残り八人となっていた。ルルとジョンの二人だけが中等部のようで、残りの六人は高等部、それも去年の競技祭で上位に入った人達だ。
ジョンが奇襲をかけ、それをルルが援護するという形で更に一人が脱落し、その間に他の五人の中の三人が脱落していた。中等部の二人と高等部の二人という、少し奇妙にも思える組み合わせが残る。
高等部の二人は、さっきステージに立っていたクライシアスク実行委員長と、連絡会の幹部のナミ先輩だ。
しかし、これは出来すぎては?
「……」
「ん?」
「結界の解除、10、9」
ティックがカウントダウンを始めた。慌てて精霊にお願いする。
(カウント0になったら解除して)
(了解ですわ。うふふ)
「5、4」
始めるならちゃんと言ってほしいが、ティックにそれを期待するのは無駄というものだ。
画面には相変わらず動こうとしない、あるいは動けない四人が立っている。
「1、0」
途端、視界が真白に染まり、慌てて目を閉じた。
収まっていく刺激に、恐る恐る目を開けると目の前数メートルの所にルルが立っていた。その隣にはジョンがいる。まさかと思い後ろをみると、高等部の二人がいた。
突然現れたように見えた私に四人は驚いているようだったが、私こそ驚きだ。いつの間にこんな場所に移動したのか。
(俺だ)
(おまえかー!)
土精霊が淡々と言った言葉に猛烈に心の中で突っ込みを入れる。
そんな漫才をしているうちに、周りでは戦う心構えが出来たようだ。ティックはいつの間にか離れた場所に移動していた。
溜め息を一つ、私も周りに八精霊がやってきていることを確認して、そっとお願いした。
(さっさと終わらせよう)
こんな茶番、誰が用意したかなんて決まっている。