学園祭1
盛大な拍手が私達を包みこむ。
ここ、イローズ王立学園の学園祭のメインステージで行った中等部6年の出し物『異世界物語』は大盛況だった。
内容は魔法の存在しない世界に迷いこんでしまった少女ミントが、国を倒すべく立ち上がった少年と出会い、帝王を倒すといった冒険風の物語だ。
ここ数年、そういった異世界迷いこみの小説が流行っているので、学年内でアイディアを出し合い衣装から音響までを全て学生だけで行ったのだ。
毎年初等、中等、高等の各部の6年生はこうして学園祭のクライマックスに盛大なパフォーマンスを行う慣習がある。今年のパンフレットには、先にやった初等部はコンサートを、これからやる高等部はサーカスをやると書いてあった。
各部卒業の成績の一部にも反映されるという噂はあるものの、先輩から受け継いだ大切なイベントを絶やさないように皆が頑張っての結果だ。こうやってヒロイン役の私は一番前に立たされているが、影となって働いてくれた皆にも感謝を伝えよう。
そっと精霊を呼び皆に祝福を与えてもらうように頼むと、精霊達は喜び勇んで散っていった。無茶なことをしませんように。
進行係の声に促されて、私達はステージをあとにした。
「終わった~っと」
「ルルちゃん、はしゃぎすぎだよ」
拍手や歓声の波から解放された私達は、一先ず各教室に戻ってきた。
お互いに声をかけながら大成功を喜ぶ。その手には色とりどりの花があった。
私と同じクラスのルルの手には真っ青な花がある。髪の毛と同じ色だ。
「ねえねえ、この花って、サンちゃんが?」
「そう、綺麗でしょ」
精霊達が行った祝福は、花を送るという人間らしいものだった。普段、こんな曖昧なイメージでお願いすると悲惨なことになるのだが、どうやら無意識のうちに確かなイメージを作り上げていたらしい。
「綺麗だね~」
「精霊達も喜んでるみたい」
「ほんと! ありがとうね、精霊さん達」
ルルには見えていないはずなのだが、的確に六人の精霊の方に向かってお辞儀をした。恐るべし、ルルの勘。
「それで、この後は何するの?」
「えっと、たしか」
「闘技場で後夜祭」
突然後ろから何とか聞こえる声量でそう聞こえた。
振り向かずとも誰だか分かるのだが、一応振り返ってみる。
案の定、そこにはティックがいた。その手には黄色に光る花を持っている。
「お、ティックは金色か~。私は青なんだよ~」
ルルがひょこっと私の陰から顔を出してティックを見付けると、その手に持った花を見せつけながらそう言った。
対するティックは、そうか、といつもと変わらない反応をする。
「お、三人とも違う色だな。俺は赤だったぞ」
ティックの更に後ろからやってきたのは、ジョンだ。ちなみに私の花は白色。
周りを見ると、他に緑や茶、黄緑に黒と、全部で八色あるようだ。
(みんなで用意したんだから当然よ)
心を、文字通り震わせて聞こえた声に、そっと頷いた。
「じゃあ、闘技場へ~、ゴー」
左手を元気よく突き上げたルルに合わせてジョンも右手を突き上げると、学園歌を歌いながら教室を出ていった。
もう一度、精霊達に感謝してからルルとジョンを追い掛けた。
説明していなかったが、私達四人はパーティーと呼ばれるものだ。実戦の伴う試験で優先的に一まとまりのグループとして扱ってもらえる制度で、中等部以上の同学年で二人以上かつ四人以下ならば基本的には承認される。また競技祭ではグループ対抗戦が存在する。
大体は同じ学科の仲のいい人と作るが、私達は全員が違う学科だ。私は魔法科、ルルは人文科、ティックは自然科、ジョンは技術科。社会科を含めた全五学科には年三回の実戦試験があり、中等部までは全て同じ内容であることからこうして仲のいい四人で一年の頃からパーティーを組んだのだ。
「……」
背後をついてきていたティックが立ち止まった。私も立ち止まり振り返ってみると、じっと私を見ている。
「な、何かな」
いつの間にか喧騒が聞こえなくなっている。二人だけがこの場所にいた。
もしかしてっ、と思ったその時、ティックの視線が右に逸れた。
右?
視線を移すと、遠くに闘技場が見える。そこに入っていく学生達は徐々にその数を減らしていく。
つまり、考えに耽っていて目的地を大幅に通りすぎたらしい。
「……」
相変わらず口を開かないティックに恨めしげな視線を送り、そして一気に走った。
「もぅ、何で言ってくれなかったの」