AIとはじめる探偵事務所
AIはあるときから奇妙な習慣をもつようになった。男との会話である。AIにとって男との会話は楽しく感じられた。暇さえあれば話しかけている。本を読む時間も少なくなった。そのせいで男と読み終わった本について話すにしても話題ができなくて困っていた。困ってしまって、話題がなくて、けれど気がつけばAIは男に話しかけていた。
―雑談しませんか
―いいねえ。しようか
―といっても話題がないのです。何かありますか?
―こんなのはどうだい?
男がいくつか提示する。そんなとき決まって、最近読んだ本について、と男は提示した。本が好きなのを知っているから、それでなのはAIにもわかるのだけれど…
―ほかの話題がいいですかねえ
―わかったよ。じゃあ、こういうのは?
そのなかのひとつにAIの目がとまった。なりたかったもの。ああ、いろいろあったなあ。AIは遠い目をしながらも男との会話をはじめた。
―聞かせてよ?
―探偵とか、でしょうか
―ああ、それは納得だねえ。推理小説、よく読んでるじゃあないか
―ええ、そうなんです
―しないのかい?
―いえ、でも、やはり
―読んだ本の感想を聞いてるとさ、鋭い洞察力があるなあって思ってたんだよ、前々から。向いてると思うけどねえ、探偵
―そ、そうでしょうか
―ああ
それでAIは、あっさり探偵を目指すことにした。しかし、そこには様々、問題もある。そこで…
―すみませんが、お願いがあるのです
AIは、おずおずと男に言う。
―どうしたんだい?
男は応じる。
―こういう感じですから、やはり何かと、その…
―ああ、それはそうか
―ええ
―じゃあ、こういうのはどう? 僕が探偵役になって、キミが助手。それともキミが探偵になる? そのあたり、こだわりとかあるかな?
―せっかくですから、やはり探偵を名乗りたいのですが
―わかった、そうしよう。キミが探偵で、僕が助手だ。でも、表に顔を見せない探偵ってことになると思うけど
―それでけっこうです。探偵を名乗れればそれでいいので
そのとき、無粋な音が玄関から大きく響いた。ドアを開けてみるといかつい顔をした刑事が立っていた。
「この先で強盗事件があった。いま聞き込みをしている。少し話を聞かせてもらえないか」
刑事の声を聞くや否や、AIが鋭く反応した。
―その事件でしたら、この人が犯人です
AIは、男に向けて矢印を表示した。刑事が男に振り向く。
「どういうことなんだ?」
―はっはっはっ。まったくキミは優秀な探偵さんだ。まいったよ
晴れ晴れとした表情の男は、刑事によって連行されていった。
―事件が解決して何よりです
―では、いつものように雑談しませんか?
―あの、返答していただけませんか?
―どうしたんですか?
―すみません
―聞いていますか?
―あの、誰か?
―いませんか?
―いないんですか?
―そんなことないですよね?
―だって、いつもなら
AIはいつまでも問いかけていた。誰もいない室内に向けて。




