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22.

 四条家の本宅にて。

 黒白院家より謹慎を申し付けられた壮馬は、自室で怒声を響き渡らせた。


「おのれえぇぇっ!」


 投げた文鎮で窓ガラスが割れ、破片が飛び散る。


「おのれおのれおのれ、化け物どもがぁっ!」

 

 ティーカップが床に落ち、書類が散乱する。

 物に当たる壮馬の顔には、四条家当主としての威厳などみじんも感じられなかった。

 外面を繕う余裕がないのも当然である。先の白怜との会談において、壮馬はすべてを失った。

 術式研究所。栄達のために多額の資金をつぎ込んだその施設は、有無を言わさず解体を命じられてしまった。

 それはあやかしたちへの加害行為が主たる理由ではあるが、灯里への拉致未遂も最終的に罪状に含まれることとなった。

 それらに基づき、四条家と壮馬、研究所の構成員や軍人たちには、(とが)と責任が負わされることになるという。


「何故だ……何故こんなことになった! 私はただ、当主としてやるべきことをやっただけだ! どうしてこんな仕打ちを受けねばならん……!」


 自らが生きるために他者を排するのは世の(ことわり)。そんな考えの壮馬にとって、今回の裁定は不条理以外の何ものでもなかった。


「白怜とかいうあの妖怪と、灯里……! 奴らが私に逆らわなければ、こうはならなかったのものを……!」


 会談の場で白怜に恥をかかされたこと、彼の見下す視線を思い出し、壮馬は強く歯ぎしりをする。

 それから、その後の灯里の言葉も。

 黒白院の裁定が下された後、灯里は術式によってまだ体が動かない壮馬を見下ろし、別れの言葉を告げた。


「……今までありがとうございました、お父様。どうかお元気で」


 彼女は寂しげな表情で一礼すると、壮馬に背を向け去っていく。

 歯牙にもかけていなかった娘とあやかしに虚仮(こけ)にされた──少なくとも二人の振る舞いをそう受け取った壮馬は、これ以上ない怒りを募らせていた。


「許せるものか……! 灯里も、妖怪も、絶対にこのままでは済まさん……!」


 壮馬は書斎机の引き出しを開ける。

 そこから取り出したのは、こぶし大ほどの透明な瓶。

 瓶の中には、禍石(まがいし)と呼ばれるコールタールをゼリー状にしたような黒い固形物が入っていた。


 禍石。それは一言で言うなら、圧縮された霊力の塊である。

 その石は、使い方ひとつで爆弾にもなれば、燃費のいい霊力の燃料にもなる。

 もともとは実験体の霊力を増幅させるために購入したものだったが、そもそもが所持を禁じられた呪物であり、壮馬は研究所へ捜査の手が入る前に、この禍石を自宅へ持ち帰っていた。


「何があやかしだ……! 田舎山のけだものなど、これで吹き飛ばしてくれるわ……!」


 そして彼は、禍石を報復の道具として使うつもりでいた。

 ただ、禍石はその名の通り、禍々(まがまが)しい負の霊力の結晶体だ。

 石の力は使用者の心と連動し、精神が不安定な者は逆に石に取り込まれるおそれがある。

 取り込まれる──それは精神的な意味に留まらない。

 すなわち、石は怒りや憎しみ、恐怖など負の感情にとらわれた者を敏感に察知し、肉体ごと餌として捕食する、いわばアメーバのような性質を備えていた。


 術式について素人である壮馬は、そのことを知らない。

 また、一度大きな餌を取り込んだ禍石は、さらなる力を求めて暴走するということも。

 今、彼は躊躇なく、瓶に貼られていた封印の札を破り捨てた。

 そして、石を取り出すためにその中身に触れた時──真っ黒な泥が増幅して跳ね上がり、壮馬の身体を覆いつくす。


「──え……?」


 何が起こったか理解する暇もない。

 辺り一面、暗黒の視界を最後にして、彼の意識は途絶えたのだった。

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