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15/18

15.

 灯里は大きく戦慄した。

 それは、自分の置かれた窮地にでもあるが、それをもたらす加奈子の思考回路にである。

 使い捨てられるだけの自分にすら嫉妬し、妨げ、痛めつけようとする。

 それが父の望む道とは真逆であるにもかかわらず。

 完全に常軌を逸している。

 

(正気じゃないわ……結局のところ、この人は自分の感情だけで動いている。自分のことだけを考えて、周りがまるで見えていないんだわ)


 恵まれた境遇のせいか、生来の気質か。

 そもそも、話し合うという選択肢がこの姉にはないのだ。


「なぁ、お嬢さんよ。ちょいと脅かしてやるだけじゃなかったのかい。聞いてた内容と違うみてえだが……この娘、あんたの妹じゃないのかよ」


 すると、加奈子に雇われたであろう者たちのうち、リーダーらしき男が尋ねた。

 加奈子は怒りのこもった声で答える。


「だからこそよ。こんな女が私の妹であること自体、間違ってるのよ。だからそのことを思い知らせてやらなくちゃいけないの」


 男は加奈子の返答に「はは、怖いねえ」と笑う。

 加奈子は彼に「依頼を変える分、報酬は色を付けさせてもらうわ」と言った。


「おお、そいつはありがてえな」


 男は大仰におどけた後で、ふところから白鞘の短刀を取り出す。

 そして、前に出て、気怠げな様子で灯里を見下ろした。


「悪いね、お嬢ちゃん。俺らみてえな貧乏極道には、何かと先立つものが必要でね。ま、裸にひん剥くような無粋な真似はしねえよ。ほんの少し傷が残るだけだ」


「って、ちょっと! 私は辱めろって言ったのよ? 服も脱がせないで、何するつもりなのよ!?」


「要は外を歩けないくらい、恥をかかせりゃいいんだろ。何、顔に刃物傷の一つでもつけりゃ十分ってもんよ」


 軽い調子で男は言うが、その目論見は十分に苛烈なものだった。

 確かに、性的な意図が無いのなら、そういう意味での『辱め』にはならないかもしれない。

 だが、男は短刀を、自らの顔の前で横に薙ぐ動作をした。

 すなわち、灯里の顔をそうしてやるという予告。

 嫁入り前の乙女が顔に深く残る傷をつけられる──結局のところ、受ける“傷”としてはどちらも大きなことに変わりはない。


「……!」


 男のジェスチャーで意味を悟った灯里は、その身をわななかせた。

 それを見て、ニヤリと笑う加奈子。

 灯里は思わず後ろに足を引くが、壁に背が当たってしまう。

 いつの間にか、路地裏に追いつめられていた。

 左右は他の取り巻きたちが塞ぎ、正面には煌めく刃。それを差し向けて、男は言った。


「あきらめな。生きてりゃどうにもならないってことはあるもんさ」


 飄々とした姿勢を崩さず、さらに距離を詰める。

 「抵抗すると、余計危ねぇぞ」と警告し、彼は短刀を持たない方の手で灯里を押さえつけようとした。


 しかし、絶体絶命と思われたその刹那、灯里に触れる直前で──何故か男はピタリと動きを止めた。


「……何? どうしたのよ? さっさとやっちゃいなさいよ!」


 加奈子が急かす。

 だが、そのまま動かない。


「な……んだこれ」


 男は小さく声を漏らした。

 それは動かなかったのではない。

 彼はそれ以上、足を前に出すことができなかった。


「なんで、蛇、が」


 途切れ途切れの言葉に、加奈子は不審がり、のぞき込む。

 ふと下に視線をやると、真っ白な蛇たちが密林の蔓のごとく、男の両足に絡み付いていた。


「ひっ……!?」


 蛇の赤目と視線が合い、加奈子はおぞましさに青ざめる。

 叫びそうになるのをこらえ、彼女は反射的に身を引いた。


 その一方で、灯里はハッと気づく。

 それらの蛇、この光景、見たことがあった。

 いつかの時と同じ状況。灯里の窮地を救ってくれた白蛇たち。それが今も男を留めてくれている。


 ──そう、大切な彼の、本当の姿。

 決しておぞましくなどない、灯里にとっては清廉たる超常の存在。


(白怜さん──!)


「──そこまでだ」


 路地裏の入り口から声が響く。

 凛然たる声に導かれるように、その場の全員があやかしの主、白怜へと振り向いた。

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