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12.

 灯里が巽一家にかくまわれてから一月。

 彼女の義姉である加奈子は、内心穏やかでない日々を送っていた。


 いつもの彼女からすれば、邪魔な妹がいなくなってせいせいしたと喜ぶところである。

 実際、最初に加奈子がそのことを聞かされた時は、内心「やった」と、人のいないところで小さく飛び上がったくらいだった。

 だがその後で、父である壮馬が発した言葉が、彼女の心をざわつかせる。


「加奈子。(たつみ)白怜(はくれい)という男が、灯里とどこで知り合ったのか、お前は聞いているか」


「えっ、たつ……誰ですか?」


「……知らんならいい」


 壮馬は問いかけ、加奈子が何も知らないのだとわかると、小さく舌打ちをしてその場を後にする。

 一瞬呆然とし、それから父に失望されたと理解した加奈子は、爪が食い込むほどに強く拳を握った。


「……何よ、何なのよ。灯里、灯里って」


 まるで意味が分からなかった。

 どうして父はそんなに妹に執着するのか。

 養ってもらった恩にも報いず、女学校から勝手に出て行った灯里。あんな冴えない娘を気にかけて、父はこちらに見向きもしない。

 由緒正しい四条家の娘は、自分だけのはずなのに。


 思えば数年前、妹として初めて会った日から、加奈子は灯里が気に食わなかった。

 おどおどしてこちらの機嫌をうかがうような、卑屈でつまらない娘。どう考えても四条にはふさわしくない。

 表面上は灯里に対して寮生活をさせ、本家の敷居を跨がせないなど、待遇に差をつけてはいたが、そもそも養子になること自体がおかしいのだ。

 にもかかわらず、何故か父の関心はずっと灯里に向けられていた。明らかに灯里しか見ていなかった──加奈子はそう感じていた。


 その直感は、ある意味間違いではなかった。

 壮馬の関心は、出資先である研究所の発展にある。

 さらに言うなら、真の目的はそれによって得られる己の出世と栄達にあり、灯里はそのための重要な手駒の一つだった。

 一体どういうわけなのか、灯里の身体は通常の術師を遥かに凌駕する、莫大な霊力量を秘めていた。

 灯里が養子にされた経緯、それは研究所の術師が偶然灯里の霊力を感知し、壮馬が後の研究に利用するために孤児院に金を握らせて身柄を押さえたというものであった。

 壮馬が加奈子に関心がない、という認識も合っている。

 彼は家庭を顧みず、父親らしい愛情を注ぐことはない。

 ただ、養子にした灯里にも同じように愛情はなく、むしろ利用して使い捨てるくらいの意識しかないのだが……父の愛に飢えている加奈子の瞳には、それが正しく映ることはなかった。


(灯里さえ、あの子さえいなければ、お父様は私の方を向いてくれるのに……!)


 筋違いの嫉妬と怒りが、彼女の中で大きく渦巻く。

 加奈子にとっての一番の価値基準は、家柄。華族という高貴な己の身分にある。

 ゆえに、四条の血を受け継ぐ父や自分こそが絶対であり、その他は有象無象。

 であればこそ、どこの馬の骨とも知れない灯里が四条を名乗るなど、あってはならない。父から愛されるのも、当然自分だけであるべきだ──それが加奈子にとっての正しい理屈であった。


「……そうよ。灯里がいなくなれば……こっちから、私の手で排除してしまえばいいんだわ」


 ハッと気付きを得たように、加奈子はつぶやく。

 まったく論理的ではない思考。灯里がいようといまいと、壮馬の態度は変わらない。

 少し冷静になればわかることだが、歪んだプライドと愛情を欲する心が、彼女の目と正しい認識を曇らせていた。


 加奈子は父が出て行ったのと同じ方向に歩みを進める。

 その口の端は吊り上がり、醜く歪んだ笑みが浮かんでいた。

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