分裂
焚き火の火が、ぱちりと弾けた。
夜の荒野に、赤い光が揺れる。
その周りに、男たちが座っていた。
誰もが疲れ、汚れ、そして——
どこか壊れていた。
BLACKWOLFは、その中央に座っていた。
しばらく、誰も口を開かなかった。
やがて一人が、低く言う。
「……で、どうだった」
BLACKWOLFはゆっくりと口を開く。
「会った」
ざわめきが広がる。
「あの女にか」
「黒い月の……」
「高位の呪術師だ」
BLACKWOLFの言葉に、空気が変わる。
「俺は、神の意思を聞いた…」
静かに続ける。
「そして——答えを得た」
誰かが唾を吐く音がした。
「……なんだと?」
BLACKWOLFは迷わず言った。
「神は、戦いを望まない…対話を望んでいる」
一瞬の沈黙。
次の瞬間——
怒号が弾けた。
「ふざけるな!」
立ち上がる男。
顔には深い傷跡。
「何を聞いてきたんだお前は!」
「俺の家族は焼かれたんだぞ!」
拳を握りしめる。
「子どももだ……女もだ……」
声が震える。
「それで、話し合えだと?」
BLACKWOLFは黙っている。
別の男が立ち上がる。
「その女、本物なのか?」
鋭い目。
「神の言葉を語る?笑わせるな」
鼻で笑う。
「ケルムの犬に飼われた呪術師だろうが」
「そんな奴の言葉を信じるのか?」
「違う」
BLACKWOLFが静かに言う。
「彼女は——本物だ」
その瞬間、さらに空気が荒れる。
「騙されてるんだよお前は!」
「目を覚ませ!」
「偽物だ!」
「その女も!お前もな!」
笑い声が混じる。
冷たく、乾いた笑い。
「黒い狼だと?」
「ただの腰抜けじゃねえか」
「戦うのが怖くなっただけだろ」
ざわめきが大きくなる。
しかし、その中で別の声が上がった。
「……やめろ」
低い声。
年長の男だった。
「BLACKWOLFがここまで何をしてきたか、忘れたのか」
睨み合う視線。
「こいつが現れる前はどうだった?」
「同族同士で土地を奪い合ってた」
「村同士で殺し合ってた」
焚き火の火が揺れる。
「いまはどうだ」
「少なくとも、同族同士では殺し合ってない」
沈黙。
別の男が続く。
「俺たちは、生き延びてる」
「土地も、少しは戻ってきた」
「それは誰のおかげだ」
視線がBLACKWOLFに集まる。
だが、すぐに別の声が割り込む。
「だから何だ!」
怒鳴る男。
「それで終わりか!?」
「まだ足りないだろ!」
「全部取り返すまでやるんじゃないのか!」
拳で地面を叩く。
「俺の村は戻ってきてない!」
「家族も帰ってこない!」
息が荒い。
「それを……話し合いでどうにかできるのか!?」
沈黙。
誰も、簡単には答えられない。
その沈黙を裂くように、別の男が言う。
「俺は従う…」
静かな声だった。
「BLACKWOLFに…」
驚いたような視線が向く。
「理由はそれだけでいい」
「ここまで来れたのは、あんたのおかげだ」
「なら、今回も信じる」
焚き火の火が揺れる。
だが、すぐに嘲笑が返る。
「好きにしろ」
「俺は降りる」
一人、立ち上がる。
「話し合いだと?くだらない」
「それでは土地は戻らない」
銃を手に取る。
「俺は奪い返す」
「力でな」
背を向ける。
「ついてくる奴は来い」
数人が立ち上がる。
迷いながら。
怒りを抱えたまま。
「……BLACKWOLF」
去り際に振り返る。
「お前は終わりだ」
「偽物に騙された愚か者だ」
そのまま、闇の中へ消えていく。
残された者たちは、動かない。
火の音だけが響く。
やがて、誰かが問う。
「……どうする」
静かに。
BLACKWOLFは答える。
「対話する」
その声に、迷いはなかった。
「神の意思だ」
短く、それだけ。
反論は、もうなかった。
納得ではない。
諦めでもない。
ただ——
それでもついていくと決めた者たちが、そこに残っていた。
焚き火の火が、ゆっくりと小さくなる。
そして夜は、深くなっていった。




