BLACKWOLFとは
村の火はまだ完全には消えていなかった。
焦げた木の匂いが漂い、夜の風が煙を低く流している。
エルザは倒れた柵のそばに立っていた。
その足元には、縄で縛られた男が一人転がっている。
襲撃者の一人だった。目は獣のように鋭い。
エルザは静かにしゃがみ込んだ。
「名前は?」
男は吐き捨てる。
「言うかよ」
エルザは怒らなかった。
ただ男を見つめる。
赤黒い瞳。
男はその目を見て、わずかに顔をしかめた。
「その血の瞳……魔女め」
エルザは短く言う。
「質問は一つ」
「誰かの命令か?」
男は笑った。
「命令?」
喉の奥で笑う。
「そんなもんねえ」
「俺たちは好きにやってるだけだ」
エルザの眉がわずかに動く。
「好きに?」
男は肩を揺らす。
「そうだ」
エルザは黙った。
「BLACKWOLF……違うのか?」
男は鼻で笑う。
「BLACKWOLFだと?」
吐き捨てるように言う。
「腰抜けだ」
エルザの目が細くなる。
「なぜ」
男は吐き捨てる。
「あいつは怒りを忘れた」
「ほんとの英雄だった。俺達も一緒に戦った。この土地を取り戻すために。」
エルザは静かに聞いた。
「じゃあ、お前たちはなぜ村を襲う?」
男は無言だった。
「………」
「食料」
「馬」
「金」
「それだけだ」
エルザはさらに聞く。
「お前たちだけ?」
男は首を振る。
「いや」
少し考えてから言う。
「似た連中は他にもいる」
「いくつかの群れだ」
エルザの瞳がわずかに揺れる。
「……開拓民と結託している者も?」
男が一瞬黙る。
そして笑った。
「よく知ってるじゃねえか」
「銃も弾もをくれるやつもいる」
「村を襲えば、金ももらえる」
エルザは何も言わない。
ただ男を見ていた。
(利用されているだけだ…それでも生きていくためにやってるのか…ここまで追い込まれてるのか…BLACKWOLFはなぜ見て見ぬふりをする…こんな奴らをのさばらせておくなんて…助けもしないで…)
エルザは立ち上がった。
男は叫ぶ。
「どうした!」
「殺さねえのか!魔女め!」
エルザは振り向かない。
「必要ない」
彼女は静かに言った。
「もう聞くことはない」
村の中央では、生き残った人々が集まっていた。
怪我人の手当て。
焼けた家。
エルザが近づくと、村人たちは静かに道を開けた。
老人が一人、彼女の前に立つ。
そして深く頭を下げた。
「高き位の呪術師よ」
周囲の人々も頭を下げる。
「我らを救ってくださった」
「あなたは偉大な精霊の使いだ」
エルザはすぐに首を振った。
「違う」
老人が顔を上げる。
「私はそんな偉くはない…」
周囲の人々も言う。
「神の力です」
エルザはしばらく黙った。
そして静かに言った。
「神は」
空を見上げる。
「ここにいる」
彼女は地面を指す。
「風にも」
「水にも」
「鳥にも」
「私ではない」
村人たちは黙って聞いていた。
エルザは続ける。
「私はただ、力を借りただけ」
それ以上は言わなかった。
夜。
エルザは村の外に立っていた。
焚き火の光が遠くで揺れている。
彼女は空を見上げた。
星が広がる。
頭の中に、男の言葉が残っていた。
(BLACKWOLFは腰抜けだ…)
エルザは小さく呟く。
「……本当に?」
もしそうなら。
なぜ人々は彼を英雄と呼ぶ。
なぜ村人たちは彼を誇る。
なぜ彼は街を襲わない。
エルザの中で、疑問が少しずつ形を作り始めていた。
彼女は帽子をかぶり直す
BLACKWOLFを探す旅は、まだ終わらない。
だが今、彼女の心には
復讐だけではない感情が芽生え始めていた。




