対策会議
共和国防衛隊駐屯地の会議室は、昼間だというのに薄暗かった。
壁には新大陸西部の地図が広げられ、赤い印がいくつも打たれている。
すべてBLACKWOLFの襲撃地点だった。
長机の周りには共和国防衛隊の将校たちが並んでいる。
空気は重かった。
「……つまり、また逃げられたということか」
年配の少佐が言う。
報告していた将校がうなずいた。
「はい。我々が到着したときには、すでに姿はありませんでした」
部屋のあちこちでため息が漏れる。
「毎回これだ」
「幽霊でも相手にしているのか」
「幽霊など、どうやって捕まえる」
なにも知らない人が聞いたら、ふざけた冗談だと思っただろうが、ここにいる限りは、それは冗談に聞こえなかった。
地図の前で腕を組んでいた男が、ゆっくりと口を開いた。パトリック・オコンネル少尉だった。
「……拠点がないから捕まえられないんです」
数人の将校が振り向く。
「少尉、何か案があるのか」
司令官が言った。
パトリックは一歩前に出る。
「あります」
部屋が少し静かになる。
「今までの作戦はすべて同じです」
地図を指す。
「騎兵。歩兵。大部隊、あまりにも目立ちすぎる。わかるんです。大規模な戦闘はもう彼らには必要ないんです。だが、我々は未だに彼らの大規模な反乱を基準に部隊を動かしています。」
赤い印をなぞる。
「BLACKWOLFはそれを知ってる」
パトリックは振り返った。
「彼らは軍隊ではありません」
「だから軍隊では捕まえられない」
少佐が鼻で笑う。
「ではどうする」
パトリックははっきりと言った。
「少人数で行動します。そうですね…3人か、4人か…」
一瞬の沈黙。
そしてすぐに反発の声が上がる。
「無茶だ」
「三人や四人で何ができる」
「遊撃隊でも気取るつもりか」
別の大尉が言う。
「少尉、これは戦争だ」
「猟じゃない」
パトリックは冷静だった。
「BLACKWOLFは大部隊を見れば逃げます。私は彼を探すだけなんです。どこに潜伏するのか、どういうルートをたどるのか、彼らの特性を探るのです。それがわかれば、また、別の打つ手もあるでしょう」
部屋の空気が少し変わる。
「私服で行きます」
「目的はできるだけ隠す」
「地元民として動く」
パトリックは続ける。
「BLACKWOLFは部族の中にいます」
「ならば我々も部族の中に入るしかない」
少佐が机を叩いた。
「危険すぎる!」
「少人数では支援も呼べん!」
別の将校が言う。
「もし捕まれば拷問だぞ!」
「PNの連中は容赦しない」
パトリックは短く答えた。
「承知しています」
司令官が椅子に深く座り直した。
しばらく黙っていたが、やがて口を開く。
「……面白い」
将校たちが一斉に振り向く。
「司令官?」
司令官は地図を見たまま言った。
「中央司令部から今朝、電報が来た」
机の上の紙を指で叩く。
「鉄道建設を優先しろ、とな」
将校たちの顔が曇る。
司令官は続ける。
「部隊の半分は鉄道警備に回す」
「つまり」
彼はゆっくりパトリックを見る。
「BLACKWOLF討伐に割ける兵力は減る」
沈黙。
司令官は椅子から立ち上がった。
「少尉の案を採用する」
「試験的にな」
少佐が言う。
「しかし――」
司令官は手を上げた。
「責任は私が取る」
そしてパトリックを見る。
「オコンネル少尉」
「はい」
「人選は任せる」
「三人までだ」
パトリックは敬礼した。
「了解しました」
夕方。
兵舎の裏庭。
パトリックは二人の兵士の前に立っていた。
一人は背の低い男。
日焼けした顔。
鋭い目。
「ルイス・アギラル曹長」
パトリックが言う。
男がうなずく。
「この土地の出身だな」
「はい少尉。生まれは南の谷です」
もう一人は大柄な男だった。
赤毛で、ゆったりした立ち方。
「トマス・マクレガー軍曹」
「呼びましたか少尉」
「お前もこの地方の出身だ」
マクレガーが笑う。
「山の向こうの牧場です」
パトリックは二人を見る。
「理由はわかるな」
ルイスが言った。
「地元だからですね」
「そうだ」
パトリックは言う。
「我々は軍隊ではない、探索者だ」
「旅人だ」
「商人か、猟師か、放浪者か(笑)」
パトリックはゆっくり言う。
「BLACKWOLFを探す」
二人は顔を見合わせた。
マクレガーが笑う。
「少尉」
「面白そうですね」
ルイスも静かに言う。
「やりましょう」
パトリックは頷いた。
「明日出発する」
彼は遠くの地平線を見た。
その向こうにあるのは
BLACKWOLFの土地。
静かな戦いが、始まろうとしていた。




