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空の神、森の精霊

乾いた風が、草原を波のように揺らしていた。

エルザは丘の上に立っていた。

遠くに続く土地――それはかつて彼女が生まれた場所でもあり、今はBLACKWOLFの支配地と呼ばれている土地でもある。

彼女は黒いマントの裾を押さえ、ゆっくりと膝をついた。

小さな石を円に並べる。

中央に鳥の羽を一つ置く。

そして空を見上げた。

「……空の神よ」

声は静かだった。

「風を渡る者たちよ」

頭上を一羽の鳥が横切る。

高く、鋭く、滑るように飛ぶ。

エルザは手を胸に当てた。

「私は黒の月…力を貸してほしい」

「私は一人では遠くまで見えない」

彼女は羽を手に取ると空に投げた。

「お前たちの目を、少しだけ借りたい」

風が変わる。

草がざわめく。

エルザの視界が揺れた。

そして――

世界が空へと持ち上がる。

翼。

風。

冷たい空気。

彼女は鳥の目で世界を見ていた。

大地が広がる。

川。

森。

小さな村。

鳥は旋回する。

エルザはその視界を通して、土地を探る。

人影。

焚き火。

馬。

しかし、それはBLACKWOLFではない。

やがて視界は途切れた。

エルザは地面に手をつく。

息が少し荒い。

「……まだ遠い」

彼女は立ち上がった。

旅は続いた。

何度も儀式を繰り返す。

丘の上。

川辺。

森の縁。

石の円。

空への祈り。

鳥の視界。

そのたびに、彼女は空から大地を見る。

そして歩く。

BLACKWOLFを探して。森の奥に入ったときだった。

風が止まり、空気が重くなる。

エルザは足を止めた。

鼻をかすめる匂い。

焦げた木の匂いだった。

「……焚き火」

彼女はゆっくり周囲を見渡す。

森は静かだ。あまりにも静かすぎる。

数歩進むと、地面に黒く焼けた跡が見えた。

まだ新しい。灰の中には微かな熱も残っている。

エルザはしゃがみ込んだ。

誰かがここにいた。

しかも、ついさっきまで。

(旅人……じゃない)

焚き火の跡は一つではなかった。

複数の靴跡。踏み荒らされた草。

彼女の胸の奥で、嫌な予感が広がる。

エルザは目を閉じた。

両手を地面に触れる。

「森の精霊よ」

小さく囁く。

「教えて」

風が枝を揺らす。

葉が擦れる音が広がる。

エルザの耳に、かすかな声が届いた。

木々のささやき。

精霊の断片的な言葉。

――人。

――多い。

――銃。

――村。

――近い。

エルザの瞳が開いた。

その瞬間、頭の中に光景が浮かぶ。

森の向こう。

武装した男たち。

アウトロー。

彼らはゆっくりと森を抜けようとしていた。

その先には――

小さな部族の村。

エルザは立ち上がった。

「……間に合う」

そして走り出した。

森の中を一直線に。

枝が腕をかすめる。

落ち葉が跳ねる。

彼女は止まらない。

それは走るというより、蹴っている。足と地面の間にもう一つの目に見えない地盤があって、それを蹴っているかのようにみえた。

やがて森の切れ目が見えた。

男たちの背中。

十数人のアウトロー。

銃を持ち、村を囲もうとしている。

まだ村人は気づいていない。

エルザは息を整えた。

音はほとんどしない。

まるで風が吹いてるかのような音だ。


次の瞬間――


一直線にアウトローたちの間を風が突き抜ける。

男たちが振り向く。

彼女は森から飛び出した。


「!?」

風が吹いたかのような感覚を感じたかと思ったら、目の前に人が走り去っていく。


そのままエルザは村へ走る。

村人たちが突然現れた女に驚いて立ち尽くす。

エルザは叫んだ。

「逃げて!」

村人たちの顔が凍りつく。

同時に銃声が響いた。

アウトローたちの銃撃だった。

弾丸が土を跳ね上げる。

悲鳴が上がる。

村人たちは一斉に逃げ出した。

子供を抱える女。

老人を支える若者。

混乱が広がる。

エルザは伏せる。

ライフルを構える。

アウトローの一人が叫ぶ。

「女だ!」

「撃て!」

銃声。

弾丸が彼女の横の木を砕く。

エルザは動かない。

息を整える。

引き金に指をかける。

「……私は黒の月…空の子、大地の子、月の子、今こそ古の呪とともに魔の力をこれに…」

小さく呪を唱える。

言葉は低く、静かに。

弾丸に呪を込める。

精霊の力を。

魔力を。

引き金を引く。

――パンッ!

放たれた弾丸が空気を裂く。

次の瞬間。

弾は閃光になった。

白い光が一直線に走る。

森の太い木に閃光が吸い込まれていく。

その次の瞬間その閃光が再び木の幹から突き出す。

そしてその木に隠れていたアウトローの胸を撃ち抜いた。

男は何が起きたのか理解する前に倒れた。

「なんだ!?」

アウトローたちが騒ぐ。

エルザは次の弾を装填する。

狙いを定める。

また呪を込める。

――パンッ!

閃光。

木に吸い込まれていき、

二人目が倒れる。

その頃、村の戦士たちも武器を手にしていた。

弓。

古い銃。

槍。

彼らも応戦する。

矢が飛び、銃声が響く。

しかしアウトローの方が装備がいい。

戦士の一人が胸を撃たれ倒れる。

また一人。

血が土に広がる。

エルザの目が細くなる。

「……」

彼女は再び呪を唱えた。

弾丸が震える。

引き金を引く。

閃光の弾が森を貫く。

木を。

枝を。

影を。

そしてアウトローを。

男が吹き飛び倒れる。

仲間が恐怖で叫ぶ。

「なんだあれは!」

だがエルザは止まらない。

冷静に。

淡々と。

狙いを定める。

魔弾が森を走る。

閃光が続けて走るたび、

アウトローが一人、

また一人、

倒れていった。

エルザは撃ち続けた。


ようやく静けさが戻ってきた。

エルザは黒い帽子を深くかぶり、焚き火のそばで人々の話を聞く。

「BLACKWOLFを知っている?」

そう尋ねると、村人たちは顔を上げる。

そして、ほとんど同じことを言った。

「もちろんだ」

「英雄だ」

年老いた男が言う。

「奪われた土地を取り戻してくれた」

女が言う。

「軍の武器を奪ってくる」

若い戦士が言う。

「俺たちを守ってくれる」

エルザは黙って聞いていた。

誰も恐れていない。

誰も憎んでいない。

むしろ――

誇りのように語る。

エルザは静かに尋ねる。

「どうしてそこまで?」

老人が笑った。

「簡単だ」

火の向こうで言う。

「先祖の土地だからだ」

「それを取り戻してくれる」

それだけで十分だ、と。

エルザはそれ以上聞かなかった。

ある夕方。

エルザは丘の上で再び儀式を行った。

石の円。

鳥の羽

祈り。

「空の神よ」

「もう一度だけ」

風が強くなる。

そして視界が変わる。

彼女はまた空にいた。

鳥は森の上を飛んでいた。

木々。

影。

川。

そして――

一人の男。

森の小さな空き地に立っている。

背の高い男だった。

黒い長い髪。

長いコート。

男は馬の手綱を握っていた。

鳥は近くの木に止まる。

枝が揺れる。

その瞬間。

男が顔を上げた。

鋭い目。

そして、鳥を見た。

じっと。

まるで――

見透かすように。

エルザの心臓がわずかに強く打つ。

(……まさか)

男はしばらく鳥を見つめていた。

やがてゆっくり口を開く。

「……そこにいるのは誰だ」

静かな声。

風が止まる。

男は一歩前に出る。

そして言った。

「おまえは誰だ」

エルザの視界の中で、男の瞳が真っ直ぐこちらを見ていた。

まるで

彼女自身を見ているかのように。

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