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呪術師エルザ

最前線駐屯地を離れたキャラバンは再び草原へと踏み出した。

先頭には帝国辺境騎士団の小隊。

その後ろに食品会社の馬車列。

左右を警備隊が固める。

騎士団のPN偵察兵がはるか遠くを先行している。

偵察兵が馬を飛ばして戻ってきた。

それだけで全てがわかる。

隊長が叫ぶ

「防御陣形!」

すぐに隊列は動いた。


兵士も叫ぶ

「防御陣形だ!馬車を!」

「馬車を寄せろ! 輪を作れ!」

警備隊もそれだけで全てを把握できる。

馬車を円形に配置する

馬は離されて中央にまとめられる。

銃に持つもの全員馬車を盾に配置に着く。

エルザも伯爵と共に馬車の陰で構えた。


「エルザ大丈夫か…」


「はい…大丈夫です…」


エルザは緊張していた。

伯爵の大丈夫か…はこれから起こること…同族同士で殺し合いをできるのかということだった。

だがエルザにはその伯爵の意図を理解する余裕は無かった。


リードがナヤラの元へ馬を走らせてきた。


「ナヤラ!トマスを頼む!」


ナヤラはリードをぐっとみつめて頷いた。

馬車からナヤラが取り出したのはライフルと弾薬だった。

エルザはみた。

ナヤラの全く別の顔を。

「トマス…いい子だからお母さんからはなれるんじゃないよ、わかったね…(笑)」

ナヤラは片手にライフルを抱えてトマスを抱きしめた。

その笑顔は母親のいつもの笑顔だった。

しかし、その笑顔はライフルを構えると全く別の顔になっていた。



丘の向こうに砂塵が現れた。

するとすぐにそこに

PNの戦士たち。

叫び声とともに駆け下りる。

馬上から身を傾け、撃つ。

撃っては旋回し、距離を保つ。

今度は試すだけではない。

弾は低く、正確だった。

馬車の板が裂ける。

馬が悲鳴を上げる。

エルザは銃を構える。

隣で、ナヤラがすでに撃っていた。

彼女の動きは迷いがない。

呼吸を整え、

狙いを定める。

発砲。

遠くでPNの戦士が馬を翻す。

ナヤラは次弾を装填する手も滑らかだった。

冷静に手際よく。

何発も撃つ。

エルザは撃つのも忘れてそれをみてしまっていた。


同族に対して。

容赦がない…


その横顔は冷たいのではない。

ただ、決意だけがある。

エルザの胸が締め付けられる。

自分は――。


「エルザ!撃って!」

ナヤラが叫ぶ。

伯爵も叫ぶ

「エルザ、しっかりしろ!」


弾丸がエルザの顔の近くの馬車の縁を砕く。

「う…」

思わず身を屈める。


トマスはナヤラにつかまっている。

エルザの方をみてる。

トマスの顔をみた瞬間エルザは何かに気づいた。


エルザは撃った。

狙いは低く。

足元の土を跳ねさせる。

牽制。

だが次は、もっと確実に。

魔弾は使わない。

まだ、使わない。

撃つ。

撃つ。

必死だった。

草原は銃声に満ちる。

やがてPNは散開し、丘の向こうへ消えた。

短い襲撃。

だが負傷者が出た。

オコネルだった。

肩を撃ち抜かれ、血で軍服が濡れている。

「衛生兵!」

担架が運ばれる。

若い顔は蒼白だが、意識はある。

「……大丈夫、です」

震えた声。

彼は後送されることになった。


襲撃後、エルザはナヤラに問いかけた。

「どうして……」

言葉を探す。

「どうして、同族にあんなに容赦なく撃てるの?」

ナヤラは即答した。その顔は笑顔に溢れていた。

「家族を守るため」

そういってトマスを抱いた。

迷いがない。

リードがナヤラを呼んでいた。

「大丈夫!トマスも!」


「家族を危険に晒すものは、許さない」

そう言い切ったその瞳は真っ直ぐだった。

怒りではない。

選択。

エルザは胸が熱くなるのを感じた。

強い。

ナヤラは逆に問う。

「あなたは? 何を守るために銃を取るの?」

言葉に詰まる。

伯爵はいつも言っていた。

――まず自分を守れ。

自分が倒れれば、何も守れない。

エルザはゆっくり言う。

「……自分を守るため。でも、それで伯爵や他の人も守れると思う」

自信はない。

ナヤラは、ふっと笑った。

明るく。

「それも大事」

その笑顔に、エルザは少し救われた。

だが、ナヤラが銃を取れるのはまた別の理由があったことをエルザは想像できていなかった。

帝国のCIの移住で土地を追われたPN達は少なくなった土地を奪い合わなければならなくなったのだ。

ナヤラもそんな状況の被害者だった。

旧大陸にいて、そこまで状況を知らないエルザにはその過酷な現実を想像できていなかった。


その頃、担架で運ばれるオコネルは、

馬上のエルザを見上げた。

どこかで見た。

月の下。

祈る姿。

――いや、ありえない。

こんな場所で。

彼は自分の考えを振り払う。

やがて隊列を離れ、駐屯地へ戻っていった。

キャラバンは進む。

村や小さな町を過ぎるごとに、馬車は減る。

荷が降ろされ、商人が別れていく。

帝国辺境騎士団の小隊は巡回任務を兼ねている。

その既定ルートに沿って進む。

草原。

川。

岩場。

エルザは自然に触れるたび、体の奥が温かくなるのを感じた。

幼い頃、走り回った土地。

夜になると、彼女は必ず祈った。

地面に膝をつき、額を触れ、

神々に感謝と旅の無事を願う。

伯爵が問う。

「祈りで、何を求めている?」

エルザは少し考える。

「意味は……わからない。でも、力を感じるから。だから感謝して、旅の安全を祈ってるだけです…」

伯爵は黙って聞く。


ナヤラはそれを見て、真剣な顔になった。

「あなたは呪術師なの?」


エルザは否定はしなかった。

ナヤラは静かに頭を下げた。

「部族では、呪術師は最高の敬意を受ける…」

その夜、ナヤラは小さな儀式を行った。

エルザの前に火を焚き、土と水と草を捧げる。

土に触れ、

エルザの額に指で印を描く。

古い言葉を唱えながら。

風が止まり、炎が揺らめく。

エルザは戸惑った。

だが、体が自然に動く。

受け入れる。

まるで昔から知っているように。

受け入れるうちに内部の力が変化するのがわかる。

 あ…これが…


その場の空気が変わる。

リードや警備隊の男たちも、騎士団の兵士も、

無言で見守っていた。

辺りの厳かな雰囲気。

誰も笑わない。

伯爵は胸の奥が震えるのを感じた。

呪術師としての威厳。

それがエルザに宿っている。

新大陸に帰ってから、彼女は変わった。

外見ではない。

魔力が。

自分が教えた魔術。

エルザの内にある古い力。

それが混ざり合い、

新しい何かになっている。

伯爵は魔術師として、それがわかる。

誇らしさと、わずかな不安。

彼女は、どこへ向かうのか。

焚き火の向こうで、エルザは静かに目を閉じていた。

草原の夜風が、

魔女の髪を揺らしていた。

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