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ナヅナ対アーネスト



「そういや、ここら辺って図書館ないの?」

「図書館?何か調べ物でも?」

「まぁな」


アーネストとの決戦も近づく最中、今日はすぐに解散し、教えてもらったエルデラフエンテス外の図書館を探す。入り組んだ建物の中からこじんまりとそこに置いてある図書館を何とか見つけ出し目当ての本を探していると、後ろの本棚から視線を感じる。すぐに振り向いて確認するが、誰もいない。


(……?)


気のせいだと自分の中で落とし込み、ナヅナは調べ物を済ませ颯爽と図書館を出た。


その数日後。

いよいよアーネストとの決戦の日。

広大なパルクールスタジアムに、たくさんの観客が敷き詰められている。

待機室にはナヅナとラドと発端の少女。

おそらく向かいの部屋にはアーネストがいる。

喧嘩を打った後に知ったが、アーネストはゲームワールドの中でも名の知れた競技者で、特にパルクールのような運動競技は最強の一角と評価されている。ナヅナは、かなり厳しい戦いを強いられることになる、と誰もが思っているだろう。実際、ナヅナ本人も今回ばかりは余裕のあるパフォーマンスはできないだろうと思っている。しかし、負けるとは一切思っていない。


「ナヅナの初めての敗北が見られかもしれないわね」

「負けねぇよ、ここで負ければ一生勝率が100に戻らないからな」


それにこいつのためでもあるし…と呟きながら、少女の頭を撫でているとスタートの合図が二人に送られる。


「あ、そういやこの前私が言ったこと覚えてる?」

部屋を出る前にラドに確認する。 

「えぇ、覚えてるわよ」

それは、ラドのこの世界への懐疑をナヅナが払ってくれるという約束だ。

「どういう意図なのか分からないけど、私に証明してみなさい」


そう言いながらラドは笑顔で送ってくれる。

行ってくる、と一言だけ伝えて部屋を出ると、同時に部屋から出てきたアーネストと目が合う。


「お前、名前なんだっけ?」

「ナヅナ」

「ナヅナ、ね。俺はアーネスト」

「知ってる、よろしく」


二人横並びで入場前の扉へ向かう。


「同年代の女と競うのは久々だな」

「だろうな、運動競技で女がアーネストと渡り合うことなんてほぼないだろうし」

「それを分かっていながら俺とやるのかよ。気持ちはわかるけど、そんなにあの少女に肩入れするか?」

「確かにあの子のためでもあるけど、賭けの対象は複数あるんでね」

「…?まぁよく分からんが、俺にもプライドがあるからな、女相手に負けるわけにもいかないんだ」

「私も勝率100%が崩れるかもしれないんだよ。だから、はい」

ナヅナは歩きながら右を歩くアーネストに右手を差し出す。アーネストは躊躇なくその右手を捕まえ、握手を交わす。

「これはプライドのぶつかり合いだからな、恨みっこなしだ」

「もちろん」


同時に目の前の扉が開く。

扉が開かれ、眩しい光が二人を包む。

スタジアムの歓声が爆発した。

まるで音の壁のように押し寄せる熱気。


入場してすぐの場所にホログラムが浮かび上がっている。そこでパルクールのコースを選択できる。このゲームは一つのコースを二人で渡るのではなく、二人に共通のコースが用意され、それぞれ自由に渡ってもらうシステムだ。コースは何百種類もあり、難しいものから簡単なものまで存在する。


「ナヅナが選んでいいよ」

「まじ?」

「ここまで俺に有利な状況じゃ、勝ってもしょうがないからな」


お言葉に甘えて、どのコースにするか浮かび上がるコースのホログラムを見ながら吟味する。

すると、ある一つのコースでナヅナは手を止める。そのコースはそれほど難易度が高くなく、

距離も短い。コースに関して特に目立つ要素もない。

しかし、一つ特徴がある。それは二つのコースの位置関係だ。ほとんどは二つのコースが横に並んで置かれるが、ナヅナの選んだものは縦に並んで置かれていた。一つは地面に、もう一つはその真上に置かれている。

ナヅナはそのコースを選択すると、何もなかったスタジアム中央にコースが出現した。


「俺も初めてやるコースだな」


実際に見て分かったが、上のコースがかなり高い位置にある。下のコースと上のコースに不自然なほど間があるのだ。


「この二つの高低差、どれくらいだと思う?」

「大体二十メートルぐらいじゃないか?てか、それを確かめても何の意味もないだろ」

(9.39 × 20 = 187.8、187.8 ÷ 9×10¹⁶ ≈ 2.09 × 10⁻¹⁵)

「どうした?」

(30 × 2.09 × 10⁻¹⁵ ≈ 6.3 × 10⁻¹⁴)

「……計算は何度もした……あとは運だな…」

「おい」

「ん?どうした?」


ナヅナがぼそぼそ呟いているので、肩を揺すって呼び起こすと、我に帰ったかのようなナヅナはアーネストを見つめる。


「大丈夫か?」

「うん、少し考え事。とりあえずさっさとやろう」

「だな」


このゲームは、現金直結型ではなくチップ変換型なので、チップに変換して賭ける。お互い準備は完了。

ナヅナはポケットに手を突っ込みながら上を見上げ、アーネストはスタートラインで体を揺らしていた。観客は息を飲み、二人の動きを見守る。


二人の体が光を放ち、自動的に各スタート位置へ転送される。

ナヅナは体を動かそうとするが、下半身はびくともしない。スタートするまでは何も出来ないが、目線だけを動かし下を見下ろす。皆がアーネストだけでなく自分にも注目している。この観客の前で"あれ“を見せるのは楽しみだなと思いながら心の中でほくそ笑む。


パァン!


スタジアムが静まり帰る中、大きな音が響く。

スタートの合図。銅鑼のような鐘が鳴ると同時に、二人は走り出した。観客席では歓声が波のように揺れる。


それからすぐに観客席に座るラドは、目の前に光景に驚愕する。ナヅナはあのアーネストと渡り合っていた。全く同じ速度でパルクールを飛び回っている。


「あいつすげぇ!」

「あのアーネストと互角だぞ!」


突然現れた少女の実力に観客は皆驚いていた。

残りのコースの長さを見れば、数十秒で肩がつくと誰もが分かった。

これほどハイレベルなゲームを目の当たりにすれば観客のボルテージ上がっていく。


しかし、徐々に皆が異変に気づき始めた。

ラドもその違和感にすぐに気づいた。

ナヅナとアーネストの速さは全く同じだった。"ほぼ"ではない。不自然なほど同速だった。しかし、さらにおかしなことに気づく。

彼らの体の動きが全く同じだった。


(あの子まさか…)


パルクールは終盤に差し掛かかり、以前として二人は同速のままゴールまで走っている。

ゴールに近づくほど歓声は大きくなり、ついに二人はゴールの線を同時に跨いだ。

歓声に包まれる中、アーネストは汗ひとつかかずに、モニターを見つめる。一方ナヅナは解放されたかのようにその場に倒れ込んだ。

ラドはナヅナの様子を見て、すぐに飛び出し彼女の元に駆け込む。


「大丈夫……!?」

「……はぁ、はぁ、ダイジョブダイジョブ…

流石に危なかったわ…」


大の字で横になりながら、呼吸を整えながらナヅナは笑う。


「ねぇ、あなたもしかして「ワァァァァァ!!」


ラドは彼女に問いかけようとするが、大きな歓声に掻き消される。彼女は視線をモニターに向け、安心しきったのように笑っていた。

つられてラドは振り返ると、なんとモニターにはwinnerナヅナと表示されていだ。


「…まじかよ」


まさかの結果に、アーネストも苦笑いを浮かべていた。観客の中には戸惑いの声も混ざる中、

ラドは体を起こす。


「どうやったの?」

「俺にも教えてくれ」


ラドとアーネストがナヅナに問いかける。


「説明すると長くなるんだけど…」


すると、ナヅナはおもむろに何かを取り出した。それはミラーリングを可能にするスカバインダーだ。

それを見たアーネストは気付き、自身の体を確認し始める。


「右手、出して」


ナヅナのそう言われ、アーネストは素直に右手を出すと親指の付け根の部分に、スカバインダーが付けられていた。入場前、握手をした際に取り付けたのだ。ナヅナとアーネストと同じ動きを出来たのはこれのおかげだ。


「まず私は、自分が上のコースに選ばれることに賭けた」

そして彼女の思い通り、ナヅナは上のコースに選ばれた。

「そして、私の体が最後まで耐えられるか不安だった。けど自分信じて、完走し切ることに賭けた」

これもギリギリだったが、なんとかナヅナの体は持ち堪えた。まぁゲームワールドにいる限り最悪が起こることはないが。


「三つ目、私はスカバインダーの超高性能なミラーリングとこの高度文明世界を信じて、アーネストと私の天文学的な僅かな差を汲み取れることに賭けた」


"僅かな差"と言われ、アーネストとラドは首を傾げる。アーネストとナヅナに僅かな差があったとして、一体何が原因でその差が生まれたのか。大抵はスカバインダー二つセットで手に入るので、性能の差とは考えた難い。


「お前、何をした?」

「私は何もしてない。僅かな差の原因は、この世界そのものだよ」


ラドは口をぽかんと開けて、脳内にはクエスチョンマークが浮かぶ。しかし、ラドはやっと理解したように苦笑していた。


「どういうこと?」

「私達を下に引っ張る"重力"ってのは、時間と空間の歪みなんだよ。時空の歪みは、星の中心付近から離れるほどゆるやかになる。つまり、中心付近から近いほど重力が強まり、時間がゆっくり進む。逆に離れれば重力が弱い分、時間が早く進む」


説明を聞いて、ラドの脳内にはさらにクエスチョンマークが増えた。


「つまり、高い場所は低い場所より早く時間が進むってことだよ」

「時間の流れの僅かな差がナヅナの勝利につながったことだな」

「そういうこと」

「へぇ……なんか難しいけれど、とりあえずあなた凄いわね…」


ナヅナとのゲームは学ぶことが多いが、今回のような知恵をふんだんに交えた勝利はラドも見たことがなかったので、ひたすらに感心した。

そんなラドを見上げながらナヅナは口を開く。


「なぁ、もしここが仮想現実だとして、この世界を作ったやつは宇宙の根源的な理論まで忠実に再現すると思うか?私は思わない」


最終的にラドに伝えたかったことはこれだ。我々が見ているこの世界は偽物かもしれない。しかし、人が作った物にしてはあまりに凝りすぎている。


「もしこれが本当に仮想現実なら、これを創造したやつは……ほぼ神様だな」

「…確かにその通りね」

「私はここが現実世界であることに賭けた。結果は私の勝ちだ。賭けも、勝負もな」


二人の敗者に見下ろされながらナヅナは立ち上がり、とりま飯行こうぜと声を掛け、一人出口へ歩き始める。その背丈に合わないほど大きい背中を敗者達は


「しまったな、あいつの事気に入っちまった」

「フフッ、あの子実力はもちろん、人としての魅力も満載なのよ」


まだこの世界へ来て然程時間は過ぎていないが、ゲームワールド屈指の実力者二人を味方につけることが出来た。


「あれほど飛び抜けた実力の人間と友人になれるとは」

「そうね、まぁ私はあなたと違って"親友"だけどね」

「は?」


しかしその二人が後ろでバチバチと火花を散らしていることをナヅナは知らない。

なお、ナヅナはアーネストに友達だとは一言も言っていないし、ラドに親友だとは一言も言っていない。

 


__________________________________________



「何も初見であの作戦を思いついたわけじゃない。決戦前に色々調べたんだよ」

「そうだったのね」

「でも、調べるっつったって何を」


また外れのカフェ。普段の喧騒とはかけ離れているため、落ち着きたい時にはうってつけの場所だ。そんな場所でいつもの雑談。しかし普段と違うのはナヅナトラドに加え、アーネストが加わっていること。気づけばこの3人がいつメンになっていた。


「まず私はあのパルクールのコースや特性を調べた。そこで私は一つだけ縦にパルクールが並んで置かれたコースがあることに気づいた。その時点では何も思わなかったけど、あのパルクールの話題が中心のネットの掲示板とかをひたすら漁って、一つ気になる投稿見つけた」


その投稿は「なんか変な装置つけられたけど、初めて見た」という文章とともに画像が貼られていた。その画像には、投稿主の腕に小さな装置が巻かれていた。

実はその装置は、あのゲームの際、ナヅナとアーネストにも巻かれていた。

ナヅナが着目したのは背景だった。背景を見ると、投稿主がかなり高い場所にいることが分かった。それにより、あのコースの可能性が高いと考えた。さらに「"初めて"見た」という文章にも着目し、ナヅナはこのコースには何かあると考えたのだ。


「それと、あのパルクールを運営している会社、"プリンシピオ"のホームページの社訓には"知力優位、頭でねじ伏せろ"って書かれてた。社訓ってのは社員に対する心構えだけど、もしかしたら私たちにも当てはまるんじゃねぇかなって」

「なるほどな、眼光紙背ってやつか」

「その通り、それから私は外れの図書館でこの星について調べたよ」


ちなみにそこで知ったが、この星の重力は地球

よりは僅かに弱かった。体が動きやすいのはそれが理由だったのだろう。


「完走タイムは約三十秒だったから、アーネストと私のタイムの差は……約五百兆分の一秒だな」

「うそでしょ…?この世界の技術ってとんでもないわね…」

「まぁこれに関しては、光電センサーと光格子時計があれば可能だな」

「あの時腕に取り付けられた物はそのための装置だったのか。見たことがないから疑問だったんだ」

「なんだかまるで、ナヅナの勝ち方が"正解"みたいね」

「というと?」

「あのゲームの作者があの勝ち方を望んでいるみたいってことよ」


確かに、ナヅナの勝利はこの世界とステージ側のシステムがもたらしたもの。そのシステムも、本来は無いものだ。


「言われてみれば妙だよな。もしかして、私みたいな天才を発掘するために設けてる、とかありそうじゃない?」

「……あなたそういうの自分で言うタイプなのね」

「世の中の天才は謙遜する人間の方が案外珍しいだろ」

「アーネストは?自分は天才だと思う?」

「俺が?まさか。確かに俺は一企業の社長だが、俺の上に立つ者はごまんといる。実力もナヅナには遠く及ばない」

「……こいつは珍しいな」

「そうね」


互いに実力を認め合っている。長続きする友情の特徴だ。こうして3人は無敗街道を歩んでいくことになる。




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