ビデオゲーム
「まずは、実験装置について説明しよう。
この装置は最初に話した通り、我々のいる世界"b1"と、君の元いた世界"b2"を繋げるトンネルのようなもの、と"思われる"」
「曖昧だな」
「まぁね」
現在ナヅナのいる世界を"b1"、前にいた世界を"b2"と呼んでいる。
ただ二つの世界繋ぐトンネルの出口は一つなのかそれとも複数個あるのか。おそらくは一つだけだと思われるが、b3やb4など、他にも世界が存在する可能性もあるらしい。
部屋全体が装置のようで、メーターとレバーがいくつもある。トンネル開口率、トンネル崩壊率、重力波出力、エントロピー整合指数など常人じゃ全く理解できないメーターばかりだ。しかし、一番右端にあるメーターとレバーには?と書かれていた。
「これは?」
「あぁ、あまりそれには触らないでね。まだそのレバーの役割は不明なんだ。他のメーターは解析できたけど、それだけは分からない。ずっとね」
「中身開けたりはしないの?」
「それは君を送り出してからだな。これは僕の作った物じゃないから、構造も分からない。下手に弄れば壊れかねないんだ」
すると、一つのスクリーン上の画面をナヅナの方へ向けた。
画面は横スクロールの2Dで、空は明るい青色で白い雲が浮かび、地面は茶色くて四角いブロックでできている。画面の左側に、小さな人のようなキャラクターが立っていて、髪の長い女性のようなキャラクター横顔が映っていた。
すると、マクダウェルは黒色の物体を手に取った。それは両手で握るようなw時型で、左側には十字の形で置かれた四つのボタンと棒状のスティック、右側には丸いボタン二つと左同様に棒状のスティックが突き刺さっていた。
「これ、見たことない?」
「これ?いや無いけど」
「無いか…前の人は知っていたんだけどな」
ナヅナの方へ差し出して見せるが、特に見覚えはなかった。
「もしかしたら君はさらに別の世界から来たのかも。まぁそれは後で考えとしよう」
確かにその可能性もあるが、言語の壁が一切無いことにナヅナまだ疑念を抱いていた。ただ何も情報がないので今は考えていても仕方のないことだ。
「これは映像機器に表示される映像と音を使って、人間がこのコントローラーで関わりながら進行するものさ。たとえばこのスティックを前に倒せばこのキャラクターは右側へ進む。そしてこのボタンは………」
本当にこれが実験に関係のあるものなのかは分からないが、マクダウェルはそのコンローラーと映像を交互に指差しながらものの数分で説明する。
「君の世界ではこれをビデオゲームというらしいが、聞き覚えはない?」
「びでおげーむ…?わからん」
このようなデジタルエンターテイメントを"ビデオゲーム"というらしいが、ナヅナの記憶にそのようなものはない。
説明をまとめると、このコントローラーを用いて画面上に映るキャラクターを右側へ進ませ、ゴールを目指せば良いとのこと。
キャラクターを見つめる。名前はわからないが、とにかくこのキャラクターが自分の分身らしい。試しにスティックを倒すがキャラクターはうんともすんとも言わない。
「動かないけど」
「そう。実はまだやるべきことが一つだけあるんだ」
そう言うとマクダウェルは立ちあがり、腕輪のようなものを持って来た。
「この腕輪を付けて起動すると君の意識はb1とb2を繋げるトンネルに落ちる。詳しいことはまだわからないけど、おそらくそのトンネルは人の意識そのものしか存在できないのだろう。後はもう一人がこの女性をゴールを導けば、転送できるだろう」
少し分かりづらいが流れを説明すると、例えば画面上のキャラクターをトンネルへb2へ転送する人間、ゴールをb2とすれば、キャラクターをゴールまで操作するということは、トンネルへ意識を落とした人間をb2へ転送するということ。
今回の場合はナヅナが意識を落とし、マクダウェルが操作を行う。
このようにしてナヅナを元の世界へ戻す。
異世界転送の実験というのだから、もっと専門的な単語が出来てくるのかと思ったが、実際はただ腕輪をつけて寝るだけだった。というか実験ですらない気もする。
それと同時にもう直ぐ帰れるのでは?と思ったが、案外そうでもないらしい。
「戻れるか戻れないかは僕次第なんだけど、このビデオゲーム一回もゴールへ到達したことがないんだ」
「まじかよ」
このビデオゲームは途中で様々な仕掛けが施されていて、あり得ないほど難しいらしい。
だからゴールにはかなりの時間を要するとのこと。
「なんか面白そうだな」
「面白い?これが?僕は嫌いだね。時間の無駄としか思えない。二度手間でしかないよ。まぁ説明はこれぐらいにして実際にやってみるかい?」
確かに、これから何度もやる作業だと思うので、まずは慣れるためにやるしかないなと思いナヅナは頷く。
すると、ここに初めて来た時に私が寝ていた大きなベッドの上へ来るよう促される。
そして横になれとジェスチャーをしてくる。
その通りにナヅナはベッドに横になった。
「ていうか、あんたが作ったのに以外と詳しくないんだな」
もっと複雑な説明がされるかと思ったが案外ざっくりとした説明だったので思わず言及すると少し固まり、すぐに笑みを浮かべた。
「実はね、僕が作ったのものじゃないんだ」
「え」
思わず素っ頓狂な声が出た。
ナヅナは今までの流れから博士が作ったものだと思っていたがそれは勘違いだった。
「今までの説明は、これを使った人の受け売りさ」
苦笑いを浮かべながら話してくれるマクダウェルを見て、もしかして帰宅できるのはかなり先だったりするのか?と不安になった。
マクダウェルは少し離れたところにある椅子に座り、準備はいいかい?と尋ねてくるので、体を起こして一様気になったことを質問してみる。
「ちなみに私の意識は落ちた後どうなる?」
「おそらく、何も感じないだろうね。感覚的には睡眠に近いと思うよ。意識が途切れたと分かったら、もう全てが終わっていると思ってもいい」
「了解…私の身体に触んないでね?」
「わかってるよ」
そしてナヅナはベッドに横たわり、いいぜ、と親指を立てて言うとカチッと音が鳴った。
その途端、急に眠気が押し寄せてきた。
ナヅナはそれに抗うことなく受け入れ、意識を手放した。
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「んぅ……」
………ん……あれ……?
どこだ……?ここ……?
体を起こして周りを見渡す。
あたり一面真っ黒でそれでも真っ暗とも言えない、なんとも恐怖心を煽る空間にいた。
そんなあまりにも何もない空間に中に一直線に続く道があった。
その道は、シンプルに2本の白い線どこまでも続いていて、簡単にその枠の外に出ることもできる。
ただ、どこを見渡しても端がないのではないかと思うほど広い、見た限り無限とも言える空間。
どうやらナヅナどこまでも続く2本の線の間に寝転がっていたようだ。
ナヅナは先程の記憶を呼び起こす。
博士の実験に協力して、元の世界に戻るために意識を落として……
博士の発言を思い返す。
(意識が途切れたらすぐ起床できる的なこと言ってたよな。いやどこやねんここ)
どこなのかよくわからない空間によく放り込まれているが、先程すでに経験してるのでそんなに焦りはしなかった。
とりあえず、博士に連絡する方法もないので
この線に沿って道?を歩くことにした。
歩きながら道をもう一度見渡す。
人によっては身の毛がよだつような、恐怖すら感じる圧巻の景色。
しばらく歩いていると、奥に何か光っているものが見えた。その光は人工的に見える。
この状況、流石のナヅナも怖気付いていたが、光を見て安心した。
このまま道を進んでも何もないんだろうと思ったし、このままここに閉じめられるかと絶望していた。出られると決まったわけじゃないが、変化が起きるだけでこんな嬉しいとは。
とりあえず早く確かめたくて全力で走ってあの光の元へ向かう。
段々あの光が近くなってきたが、何か人影のようなものが見える。
もしかしたら人がいるのかもしれない。
だとしたら、私だけじゃないのが嬉しいし安心できる。
(頼む……人であってくれ)
走って走って走り続けた。
いよいよ目視で何があるのか具体的にわかるほどに近い距離までやってきた。
呼吸を整えながら目を凝らしてみると、誰かがこちらに背を向けてしゃがんでいるように見える。
光源はあの人の正面にあるようだ。
さらに走り続けて、いよいよ目の前まで来た。
その人は、少し大きな身体で灰色の長い髪を後ろに下ろしていた。その灰色は落ち着きや洗練さを感じさせるものだった。
少し躊躇いながらゆっくりと近づいていく。
敵の可能性もあるので、襲われないように警戒しながら近づき、声をかけようとしたが
「やっと来たな」
「は?」
おそらくこちらの存在に気づいていたんだろうなとは思ったが、まさかそっちから話しかけてくるとは思わなかった。
その声は、老人のようでとても優しい声、敵意は微塵も感じられない声だった。
老人はこちらを向かずに何かに集中しているようだった。
驚きはしたが、耳に入った途端に警戒心は収まり肩の入っていた力を弱める。
「……あんたは?」
思わず問いかける。
自分も敵ではないと伝えるように落ち着いた口調で話す。すると、こちらに振り返った。
「ほれ、お前さんもやってみるんじゃ」
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「"ビデオゲーム"……むずいな操作」
「ほっほ笑
難しいと言っておきながら、容易に操っておるではないか」
気づけばナヅナは、先程会ったばかりの仙人のような老人と仲良くなり、その老人の趣味に付き合っていた。
「すげぇ手に馴染む。初めてやるんだけどな…」
今ナヅナ達がやっているのは先ほど知ったばかりのビデオゲームだった。
先程マクダウェルに見せてもらった転送装置にかなり似ているが、違う点は操作対象が人間ではないこと、そして対戦型ということ。さらには操作のバリエーションが多く、ボタンも先程見たコントローラーより多い。
なによりこの謎の老人が強すぎる。
「ここだ!いや…は…?」
「まだまだじゃのぉ」
ナヅナらがやっているゲームは、カーレースを主としたゲーム。当然ナヅナは初挑戦なので普通にねじ伏せられた。
「初心者への配慮はなしかよ…」
「先刻では、手練れ相手にも勝利を収めていたじゃろう」
「ん?あぁ、博士とのゲームか。いやなんであんたが知ってんの?」
なんのことかと思ったが、おそらく博士との銃撃戦のことだろう。しかしなぜそれをこの老人が知っているのか。
「ずっと見ていたからのう」
「…え?どっから?」
「ここではないが、わしのねぐらでな」
ねぐらと言われても全然分からない。一体どこから覗き見ていたというのか、少しだけ怖くなった。
「珍獣かよ。てか、あんた何もん?」
「いずれわかる。」
はぁ……とナヅナはため息をつく。
まだ知り合ったばかりなので、最低限どんな人物なのかは知っていきたいのに、なぜ隠そうとするのかと思ったが、まぁ何か事情があるんだろう。
もうここまで来たら、後一つ大事なことも聞いておく。
「じゃあせめて、ここがどこなのか教えてよ。博士の元に戻れるなら早く戻りたい」
悠長にここでビデオゲームとやらをしているが、元々博士の実験に付き合っていた矢先こんな事態になったのだ。
ナヅナがため息をつきながら助けを乞うと、老人は画面上の車を操縦しながら口を開く。
「先に言っておくが、わしはお前さんがどんな未来を迎えるか全て知っているぞ」
「は?」
「隙を見せるなよ」
「あ、おい!」
動揺でコントローラーを離していた隙に車体をぶつけられ最終的にナヅナは敗北。結局ボコボコにされるのであった。
「このジジィが……」
「なにか言ったか?」
「いいえ」
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「何か体に異常は?」
「特にはないな」
あの後普通に戻って来れた。
というかあの爺さんが戻してくれた。
ずっとビデオゲームをしていたが、結局あれはなんだったのか。
あの発言の真意も教えてくれなかったし、老人が何者だったのか詳細はわからなかった。
ただ、別れ際に「次回は手加減してやろう」と言われたので、この腕輪で意識が落ちるたびにあの空間に転送されてまた会うことになる、ということなのだろう。ナヅナは散々ボコボコされたが、充実した時間だったので悪い気分にはならなかった。
「僕の言った通り何事もなかっただろう」
「まぁ、うん」
本当は、どこがやねん似非学者と異議申し立てをしたいところなのだが、あの爺さんに何事もなかったと言うように口止めされているので、喉から出かけた言葉をどうにか押さえ込んだ。
なぜ口止めするのか理由を聞いても詳細を教えてくれなかったので正直に言っても良かったのだが、真面目な顔で「お主の未来に関わる」と言われた。
一体私の未来のなにが分かるのか、自分には分からないが、一様心に留めておいた。
初実験を行っているうちにカードの情報変更が終わり、博士にそのカードを手渡されると、そのカードを両手で持ち、目を輝かせる。
実験なんてのは適当にこなしておけば良いんだ。
今は"ゲーム"の時間だ。
あのワクワクを、あの爽快をもう一度!
「あ、ちょっと待って」
「ん?」
「はい、これ」
そう言って彼が放ってよこしたものを、ナヅナは反射的に受け取った。
「……なにこれ?」
薄い。軽い。
スマホっぽい形はしているのに、画面がない。なのに表面はきらきらしていて、角度を変えるたびに色が変わる。
「割れ物?」
「逆。たぶん君より丈夫」
「失礼だな」
指でつついた瞬間、端末がぴかっと光った。
「うわっ」
空中に、シャボン玉みたいな光の輪が浮かび上がる。文字じゃないのに、なぜか意味だけは分かる。
――はじめまして
――使用者、確認中
「しゃべった」
「考えてるのさ」
「余計怖いんだけど」
でも、不思議と嫌な感じはしなかった。むしろ、手のひらに収まる感触が妙にしっくりくる。
「それ、PLISMっていうんだ」
「プリズム?」
端末を傾けると、光の表示も一緒にくるっと回った。残高っぽい数字、よく分からないゲージ、地図みたいな線。
「これ全部見えてるかい?」
「見えてる」
「理解できてる?」
「できてるのが一番困る」
とはいえ、もう慣れた。彼は満足そうに頷いた。
「正常だね。初期反応としては百点」
「初期って何」
PLISMがまた小さく光る。
――設定完了
――ようこそ
「歓迎されちゃったんだけど」
「もうそれは君のものだ。自由に使って」
「これ何ができるの?」
そう聞くと、彼は肩をすくめた。
「だいたい何でも」
「まじかよ」
「ゲームに参加する時はそれを使うといい。あと僕に連絡したい時はそれを使って」
「了解。んじゃ早速行ってきまーす」
「いってらっしゃい」
博士と挨拶を交わし、ナヅナは街を繰り出した。




