ゲーム
「んぅ、ん?はぁぁ……」
(あれ?私、いつの間に寝てた……?)
あくびをしながら起き上がる。
彼女は眠りから覚めた。
さて、今日も仕事と意気込んだのも束の間、彼女の視界はいつもの日常とかけ離れたものだった。
少し広めの部屋で周りを見渡すと、メカメカしいものが幾つかある。見るからに技術革新を目指す者の部屋だった。
彼女が寝ていたのは、病院にあるような大きめのベッドで、下を見ると何本もの導線が繋がっていた。
(ていうか、私何してたっけ?)
先程まで自分が何をしていたか、記憶を呼び起こそうとしても、全く思い出せない。
こんな部屋で誰かの実験に付き合わされたような記憶もない。
(いや、今はそれより……)
ここは一体どこなのか。
見覚えもないし、どこなのかも分からない。自分の意思で来た場所ではないことは明らかだ。
すると、ベッドの後方のドアの奥から足音が聞こえてきた。音が近づいてくるので、おそらくこの部屋に来るのだろう。
特に理由はないが、見つかったらやばいのではないかと危機を感じたので、ドアの方からは見えないようにベッドの後ろに隠れた。
ガチャッ
おそらくこの部屋の主であろう人物が入ってきた。
すると、足音が止まり「フッ」と吹き出すようにその人物は笑った。
「隠れてないで出ておいで」
ビクッ、と体が跳ねた。
どうやら普通にバレているらしい。
よくよく考えれば、自分がこの部屋にいるのは知っていただろうし、急に居なくなったのなら逃げたか隠れたかを疑うが、このよく分からない施設のセキュリティに相当自信があるのか、私が隠れているという結論に至ってらしい。
彼女は両手をあげてゆっくり立ち上がる。
「なんだい?両手をあげて。僕は君に銃口を向けているわけじゃないのに」
「……あんたが武装していなくとも、私にとっちゃこの状況は、銃を突きつけられているのと同じなんだよ。ここどこ?アンタだれ?」
彼女は怪訝な顔で目の前の男を睨みつける。
しかし男は一切表情を変えず、定位置であろう椅子に座り、手に持っていたカップを置いた。
「とりあえず、その手を下げなさい。私は銃なんて持っていないし、君の敵でもない。むしろ、君の味方だと言えるね。」
「………?」
いまだに状況を理解していない彼女は、納得いかないような表情で腕を下ろす。
「おそらく君は、この場所に来るまでの過程を覚えていない。だが、もともとどんな場所にいたかは覚えているはず。君は先程までどこにいて、何をしていた?」
「その前に私の質問に答えろよ」
口調は落ち着いているが、まだ敵対心が消えていない彼女は、この状況に納得できるまで男を睨みつけていた。
はぁ〜と、呆れたようにため息をつく。
そういう人前で当てつけのようにため息つくやつ嫌いなんだわ、と言いたくなるほどイラッとしたがなんとか堪えた。
「では、正直に答えよう。私はこの世界に迷い込んでしまった者を元の場所へ帰すために、君のいた世界"ブレーン2"を見つけ出そうと日々奮闘している、しがない研究者だよ。
この場所は、"この世界"と"b2(ブレーン2)"を繋ぐ装置が備わった、いわば異世界転送を可能にする研究所さね
ま、今はまだ無理なんだけどねとその男は笑っている。
彼女の頭の中は?のみだった。
男の話を一通り説明を聞いたが、全く理解できなかった。それが顔に出ていたのか、ほらねと思い通りになったのか笑っていた。
なんだかこの男の仕草、すごく癪に障って腹が立つ。
「今言ったことをちゃんと理解したいなら、私の質問に答えてくれるかい」
「………わかった」
渋々了承した。
ただ彼女も男の様子を見て、害を加えようとしているわけではない事はわかったので、そこら辺の机の上に足を組んで座り、落ち着く。
「では一つ一つ質問していこう。」
男は表情を変えて、改めて彼女に問う。
彼女もそれに答えてるように腕を組む。
「君は自分の身に、またはそれ以外の誰か、いや人じゃなくてもいいな、何か非現実的な事が起きた時、それを受け入れられる?」
「さっきと質問が違うだろ」
「このまま話を進めても僕の言っていることも分からないかもしれからね。私は君に納得してほしいし、君もハッキリしたいだろう?」
「………その非現実な事ってのは、さっきあんたが言った異世界うんぬんのことか?」
渋々質問に答える。
自分も質問を質問で返してしまうが、男はその答えに静かに頷く。
彼女は少し考えゆっくりと口を開ける。
「非現実的だろうと、現実なんだから疑っても仕方ないんじゃない?」
「その通り」
簡潔に述べたがそれでも満足そうに男は頷いていた。
しかし、本当は彼女にとってはどこにいるかはどうだってよかった。
「正直私はなんだっていい。私が自由に生きられるならどこだっていい」
そう、ただ自由に生きられるなら。
「先程まであんなに鋭い目で、自分の所在を問いかけてきたのに変わり身が早いな」
「警戒心が薄れただけだよ」
「消えてはいないんだね……」
「警戒心を解くには情報が少なすぎるだろ」
「じゃあ話を戻そう。自由に生きられるかは君次第だけど、それでも?」
「あぁ。今まで大量の制限付きの退屈な時間だったからな。
それに、たとえハンデがあっても私は慣れてる」
先程の怪訝な表情で睨むような目つきとは変わり、真面目な表情で男の目の奥底までを見つめていた。
その覚悟を受け取ったのか男もカップの飲み物を一口飲んで口を開く。
「これからの話は後で話すとして、まずは根本的な問題を解決させよう」
カップを静かに置いて改めて、この状況の説明に入る。
「結論から言うけど、ここは君が見てきた現実とは違う現実なんだ。君がいるべき場所じゃない」
男の発言を反芻して、この状況を推理する。
おそらくここに私は来たことがない。
男が最初に言ったことも一緒に考えてればなんとなくわかってきた。
「私がいた日本でもない、地球でもない…」
「そして宇宙でもない」
信じられない……がまだその証拠と言える根拠がない。実はただ誘拐されて、これから被験者として人体実験の犠牲になるかもしれない。今話してることも、私の精神を揺さぶるための罠かもしれない。
「それを証明できる根拠は?」
「根拠がなくても受け入れるんじゃないのかい?」
「アホか。そもそも根拠が見つけられないだけで、実際はちゃんと存在する。あんたはそれを持ってるだろ」
「まぁ確かにね」
私の方を指さして目を逸らしながら悩むそぶりを見せるが、すぐに笑顔を見せて立ち上がる。
「本当は、君が完璧に理解できるような根拠はないんだけど……ちょっと着いてきて」
そう言うと静かに立ち上がって先ほど入ってきたドアから部屋を出ていく。
まだ信頼はできないが、害を加えてくることは無いだろうと思い、素直にその背中を追いかける。
それほど長くない廊下を歩くと、開けた場所に来た。
これほど広いのに、ここにいるのは彼らしかいないのか……と思ったのも束の間、右の方を見るとガラス張りの壁。そしてその外には……
確実に私の住んでいた世界とは違う、圧巻の光景が広がっていた。
「まじか…」
「納得していただけかな?」
目の前に広がるのは、見たことないほど大きな建物、数えきれないほどの空を飛ぶ機体達。
ス◯ーウォーズでしか見たことのない夢のような景色。
「こりゃすげぇ……」
まさかこんな世界が存在するとは夢にも思わなかった。これほどの大都市を開発するのにどれほどの労力と時間がかかったのか。
「ていうかあんた、私のいた世界がどんな世界だったのか知ってるのか?」
思わず気になった。
先程から自分のいた世界がどんな様子だったのか知っているような口ぶりだったので、聞いてみる。
「その前に、その"あんた"って言うのやめてくれ」
男は彼女の隣に来て、コーヒーが入ったカップをこちらに向けてくる。
自分のために淹れてくれたのだと察して受け取る。あ、砂糖は?と聞いてきたが、甘いのは苦手なので断った。
「僕の名前は、ジョン・マクダウェル。呼び方は君に任せるよ」
真ん中にアルファベットがついたらイギリス人っぽいは名前だなと、どうでもいいことを考えながら、コーヒーを口にする。
「君のいた世界"b2"についてはある程度把握しているよ」
「博士も"あっち"にいったとか?」
「いや違うよ、あの装置はまだ未完成って言っただろう?行きたいのは山々なんだけどね」
「じゃあなんで?」
「簡単な話さ」
圧巻の景色から目を外してマクダウェルの方を見る。彼女の目に映る男の目は、ただ自分を見ているだけではない。何かを追い求めるような、そんな目だった。仕事柄それは当然かもしれないが、それとはかけ離れた欲求が見えた気がした。
「この世界に迷い込んだのは君だけじゃないからさ。その子に少しだけ話を聞かせてもらっただけだよ」
「私以外にも?」
どうやら彼女以外にもこの世界に迷い込んでしまった者がいるらしい。驚いたが冷静に考えれば自分だけという根拠はどこにもないので何もおかしくないのだろう。
それでも他に同じ境遇でこの世界にいる人間がいて安心した。
「それで私はこれからどうすればいい」
とりあえずこの世界に滞在することは確定なので、生きていくために何をするべきなのか、先住民からアドバイスを貰わなければならない。
「そうだね……僕の実験に付き合ってくれるなら衣食住全て揃えてあげるけど」
「実験?」
「そう、あの部屋にある転送装置はまだ完成していない。この世界とb2はまだ未開通なんだ。
この世界に迷い込んだ君を返すためにもあの装置を完成させなければならない。
君も家に帰りたいだろ?」
そう告げられると彼女は少し俯いて暗い顔を見せた。
「…まぁ出来れば。」
「少し迷いがあるように見えるけど、あまり帰りたくない家なのかい?」
もう飲み終わったのか、キッチンにてカップを洗いながら顔を顰めている彼女に問いかける。
「……いや迷っているわけじゃない」
「そう、まぁどちらでも構わないけど」
マクダウェルは、カップを拭いて大きな食器棚に戻す。
彼女は何かを考えている様子だったが、マクダウェルがこの話題に興味を無くしたのを察して彼女も考えるのをやめる。
「んで、それ以外に選択肢があるとしたら?」
「それ以外を選ぶなら、この世界に沿った生き方をしてもらうよ」
「この世界に沿った生き方?」
「そう」
すると、先程まで大きなキッチン大きな食器棚、豪邸にしかないようなフカフカなソファ、見るからに金持ちが住んでいるような部屋が、ウィーンと音を立て始め、変形していく。
そして気づけばガラス張りの壁も消えていて、商店街のような道ができていた。
すると、マクダウェルのリアルタイムの映像が目の前に登場する。
「君の目の前に武器や装備が置いてあるだろう?
どれかを選んで武装するんだ。両者準備ができたら、ゲームスタート」
「"ゲーム"?」
なんか勝手に話が進んでいるが、とりあえずマクダウェルの言うとおり、目の前に小筒を一つ選んでその他武装品も持ち合わせて、できるだけ装備を揃える。
こんな物騒な物を持ったことはないのに、なぜか馴染みがあるような気がした。
「準備はできたようだね。ルールは簡単。このフィールド内で敵のHPが無くなるまで弾を当てる、ただそれだけ」
(HPってのは、この右下に見えるゲージのことか?)
「では始めよう」
すると、目の前のどこから出ているのか分からない画面に10秒カウントが始まった。
10…
9……
8……
「ごめん、全然理解が追いついてないんだけど」
「大丈夫、その手に持っているピストルで僕を打てばいいだけだから」
「いやそれはいいけど、これとこの世界の生き方になんの関係があるんだよ。まさか殺し合いで生きながらえろってか?」
「少し違うけど、実力を持ったものが生き残るという点では、正しいかもね。」
「は?それってどういう「この世界で生き残る方法、それは…」
1………
「"ゲーム"に勝利することさ」
ゲームスタート
______________________________________
「起きないねぇ」
おばさんは、スーパーで買ってきたりんごをその場で切って器に持って小さなテーブルに置いた。だが、今は何も食べたくない。
だがおばさんの優しさを無碍にできないので無理やり口に押し込める。
「はぁ……」
もう何回ため息を吐いたんだろう。
目の前の彼女は、啓介を見捨てるように目を瞑ったまま横たわっている。
あれから姉は目を覚ましていない。
これまでの生活習慣やストレス、その他もろもろが重なっていて、確実に彼女の体を蝕んでいたのかもしれない。
それに気づきなかった姉も悪いが、無理するなと言っておいて結局彼女に頼りっぱなしだった自分が1番悪い。
立派な姉に対して、自分の情けなさに腹が立った。
「お医者さんもまだ希望はあるって言ってたし、まだ諦めちゃダメ。私もついてるし辛抱強く頑張ろう」
励ますようにおばさんは俺を抱きしめる。
何も言葉が出ない。
ただ下を向いて姉の手を握ることしかできなかった。
もうあのアパートには住めないのでおばさんの家に住まわせてもらっている。
今は、姉を救うためにやるべき事をやるまで。
もう今までの通りの生活は出来ない。
それでも前に進むしかない。
おばさんのためにも俺のためにも。
姉のためにも。




