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やっと見つけた

「93円!?」


驚きの声がスーパーに響き渡る。

目をキラキラさせながら、卵のパックをかごに入れる少女。


彼女の名前は鈴木瑠璃、17歳。


バイト終わりに週に1回通う大きめのスーパー。

1人で盛り上がっているので、他の客の視線が彼女に突き刺さっているが、そんなものには目もくれず。

食材を選ぶ時は、まず朝に何がどれぐらい安いのかチラシを見てから決める。

実際に立ち寄った時も、食材より先に値段を見て、チラシにあった安物の食材を確認しつつ、他に安いものがないか探す。

おそらく彼女がこのスーパーに滞在している間の8割は、レッテルを見ている。そして現在、複数個購入するのが申し訳なくなるほど低価格の卵10個入りパックを見て驚いていたら……


「そこのお姉さん」


後ろから声を掛けられた気がしたので振り向くと、この店の制服を着た、胡散臭そうな店員がいた。

一様周りを見渡してみる。

見たところ、いかにも人妻っぽい40代ぐらいのお姉さん。これからどこに行くんだよと聞きたくなるほど厚化粧を施した50代ぐらいのお姉さん。白髪交じりのゆるく束ねられた髪に、薄く開かれた鈍そうな目、中腰で杖をついてギリギリその姿勢を保っていそうなお姉さんがいた。

(よし、私じゃないな)

颯爽とその場から立ち去ろうとすると「ちょっとちょっと……!?君のことだよ!どこに行くの!?」

戸惑いの声を上げながらこっちにやってくる胡散臭そうな店員を見て、と心の中でため息をついた。


「全く…君以外にお姉さんなんていないでしょ…」


店員が小さい声で文句を垂れると、周りにいた"お姉さん方"が、ギロリと目の前の人間を睨んでいたが言わないでおこう。


「それよりも君、さっき卵の値段を見て驚いていたね」

「1パック93円だったから。他のスーパーじゃ2桁すら見たことねぇのに」

「なぜこんなにお手頃なのか教えあげよう。

それは今日がホワイトフライデーだからさ!」

「ホワイトフライデー……?」

「毎週金曜日は、ホワイトフライデー。その名の通り、白い商品がお手頃な価格で手に入るんだ。例えば、そこにある白身魚、そして豆腐にもやし、君が今手に持っている卵もそう」


どうりで安いと思った。

瑠璃は今朝の記憶をフラッシュバックさせる。

確かにチラシの裏にそんなことも書いてあったような気がする。どっかのeコマース企業かと思って無視してたけどそういうことだったのかと彼女は理解した。


「なら、この小麦粉も?」

「もちろんお手頃価格だよ」


食材をここまでリーズナブルな値段に揃えられるのは素晴らしい。

このスーパーと瑠璃の自宅の距離はそこそこあるが、これから定期的に通おうと決めた。


こうなったら意地でも白いものは調達したい。


「このヨーグルトは?」

「安いよ安いよ」

「この食パンは?」

「もちろん安いよ」

「じゃあこのチーズは?」

「うーん………まぁ今回は特別、割引してあげよう」

「ならこのサーモンは?」

「サーモンは残念だけど割引対象じゃないんだ」

「え?白いじゃん。この筋の部分とか」

「いや、全体的に白くないと認められないよ」

「そっか、じゃあこの醤油は?」

「いやいや、それは容器が白いだけで醤油自体は白くないからダメだよ」

「じゃあこの薬草茶は?」

「いやだから、中身が白くないと認められないって…」

「ちゃんと中身も白いだろ」

「いや確かに"白"という字は組み込まれているけれども!そういうことじゃないんだよ!」

「じゃあこの据え置き型家庭用ゲーム機なら……」

「いや確かに白いけども……!!

食料品しか容認できないからね!?」

「じゃあこの白い自動車なら…」

「だから食料品しか認められないって言ってるよね!?そもそもボディカラーが白という理由だけで安売りなんて出来ないからね!?あと割引いたところで購入できないよね!?」

熱が入りすぎて唾が飛ぶほどの指摘の嵐。

それと、なんでスーパーに何でもかんでも置きすぎだろ、と逆にツッコミたくなった。

「はぁ……白けた」

さすがに彼女もおふざけが過ぎたが、周りからは白い目で注目されているので、颯爽とその場から退散する瑠璃だった。


1時間後、やっと選抜し終わった瑠璃がレジへ向かい支払いを完了する。

スマホを見ると、もう21時を過ぎていた。

自宅で自分を待っている"家族"のために、そそくさと帰路に着いた。


______________________________________



夜10時を回り、やっとアパートについた。

彼女の住処は、平凡よりも少し下位の狭いアパートだ。

見慣れた番号まで重い足を運び、重い扉を開けると、いつもの嗅ぎ慣れた匂いになんとも言えない空気が鼻腔をくすぐる。

鍵は必要ない。なぜなら、この部屋に先に来た者がいるからだ。その者はソファに深く腰を下ろし、本に目を下ろしていた。


「ただいま」

「おかえり〜」


挨拶を交わす相手は鈴木啓介。彼女の弟だ。

この狭い空間に居住しているのはまだ子供と呼べるこの2人だけ。彼女らの扶養者もいない。


「夕飯、冷蔵庫にあるからあっためて食べて」

「さんきゅー」


瑠璃は帰る時間がいつも遅いので夕飯を作るのはいつも弟だ。

啓介はすでに食べたらしく、図書館で借りたであろう本を読んでいた。買ってきた食材を冷蔵庫に入れて、弟の作った夕飯を出し、温める。

その間に洗面所へ行ってそそくさと手を洗い、自分の分の夕飯をテーブルに並べ弟の隣にあぐらをかいて居座り、「いただきます」と手を合わせる。


「今日は、学校どうだった?」


帰ってきたら洗面所に行き、お手製の料理を頂く。その時間に弟と世間話を弾ませる。たまに風呂を先に済ませる時もあるが、これがいつものルーティンだ。


「どうもないよ。授業は眠いし、数学は分かんないし、そのおかげでペースは合わないし」

「そりゃよかったな。平和な1日で」

「何も良くないよ……。帰る家があるのは良いけど。

そういや、体育の忘れ物の言い訳がネタ切れしてきたな」

「お前は家じゃなくて土に還れ」


いつものように他愛のない会話を交わす2人。

この姉弟、性格はよく似ているしお互いの事には熱心で、持ちつ持たれつだ。だからたった2人の子供だけでも、ここまで生きてこれた。例え不便な生活でもいつまで続いたっていいと彼女は思っている。弟と共に過ごせるなら。


______________________________________



パソコンの電源入れる。

ファンの音が低く唸り、画面にロゴが浮かび上がる。

画面操作やパスワードなど、意識せずともできるほどに慣れた操作で、ホーム画面へ向かう。


瑠璃の現在の労働時間も十分多量だが、以前は今よりも多かった。掛け持ちしていることを店長に話さずに働いている時もあった。理由はこのゲーミングpc買うためだ。

ただ長時間働き過ぎて一度倒れたこともあった。あの時は啓介に心配をかけた。

それでもこれを購入できた時、とにかく嬉しかった。そしてなにより姉は弟に心配をかけずにすむ、とホッとしたし、弟はこれで姉が無理をせずにすむ、とホッとした。

ただ労働時間は減ったものの、結局睡眠時間を削ってゲームをする姉を見て、啓介は「俺の姉はバカなのか?」と本気で思っているようだが。


「もう夜遅いよ」

「はいはい悪い?」

「いやそうじゃないけどさ」


姉弟揃ってあの騒動を思い出す。


「悪かったな。こんな物を買うためだけなのに、散々心配かけて」

「いや、これはお姉ちゃんのお金で買ったんだから俺に怒る権利はないよ。まぁずっとバイト漬けで顔色良くないから、たまにはいいと思うけど、睡眠時間減らしてやるのは勘弁ね」


自分の行いに反省している姉だが、弟は特に怒っていなかった。むしろ嬉しいぐらいだった。

姉が働く理由は啓介のため。金銭面で自分のことは二の次なのだ。

実際、現在の啓介の学費や生活費、税金などで収入の全般を持っていかれるので、彼女の任意支出はないに等しい。だからこうして私欲を優先してゲームに耽る彼女を見ると、

もうあんな恐ろしい事は御免だが。


「そもそも、俺にお金を使いすぎだよ。学校も行かないで週6日バイト。もっと自分の身体を大切にしてよ」

「そんなこと言ってられねぇよ。学費だって払わなきゃなんないし、最近は物価高で何もかも値が張ってるし。ただでさえ金がないのに。まぁ心配すんなよ、学校に行かなくても私はそこら辺の若人より頭が良いから」

「そういう事じゃないよ……」


本当にこの姉貴は……とまた弟は呆れるのであった。



______________________________________




最近は10年前にリリースされた昔ながらのバトロワをやっていたが、界隈でも抜きん出た強さを見せつけ、相手がいなくなっていたところだ。

ゲームのダウンロード販売サイトで、鞍替え先を探すことにした。


毎日のように新しいゲームがリリースされる世界で、自分に合うゲームを見つけるこの作業は一大イベントだ。しかし今日は、なかピンとくるものが見つからない。

「アクション、RPG、パズル...」


心の中でゲームのジャンルをリストアップしてみるがどれも目新しさに欠け、月並みと思ってしまう。

もちろん、ゲームを作成できるほどの賢さを持っている者達が作ったのだから面白いに違いない。しかし、瑠璃が求めているのはただの「ゲーム」ではない。もっと心が揺さぶられるような、予想外の世界観に満ちた体験。もう一歩踏み込んだ未知の体験が欲しいのだ。


よし、弟に聞こう。


「もちろんあるよ」


即答で身を乗り出してマウスを操作し始める。画面の真ん中の矢印が検索マークに行くのかと思いきや、一番下までスクロールすると、売り上げランキングが表示された。

そのランキングの一番上に閲覧されているものをクリックした。

躊躇いなくランキングを閲覧しに行くあたり相当人気なゲームらしい。実際、今月のダウンロード数一位を飾っている。

そのゲームの名前は"スティールネオンシティ"という。


「なにこれ」

「まぁやればわかるよ」


ダウンロードを完了しゲームを起動する。

安いキーボードをカタカタ鳴らしながらゲーム会社などのロゴを連打してホーム画面へ直行。

このゲームは"テエスペロ"という会社が作ったものはしい。聞いたこともないゲーム会社だったので本当に面白いのか?と少し疑問を抱いたものの、まぁ一位だったし大丈夫か、とすぐにその疑いは消えた。


「たまにはブームに乗っかろうよ」

「ブーム?このゲーム流行ってんの?」


「もちろん!ゲーム総人口は9桁。まだ無名だった会社が1年前に発売して瞬く間に売れていき、一気に大企業へと昇進。このゲームのすごい所は日本だけじゃなくて海外でも人気なんだ。ゲームを普段やらない人でも、これは知ってる人も結構いるみたいで、去年最も売れたゲームでも堂々の一位に……」

「……はぁ」


ものすごく早口で捲し立て始める弟。

流石に姉にも凄さは伝わった。


「ていうか、お姉ちゃん知らなかったの?」

「流行りとか乗らない方がカッコいいだろ」

「その発言がカッコ悪いわ。あと単純に今のトレンドや流行りを知らないだけでしょうが」

「でも、どの事柄でも世論とかネットの見解とか知らない方が幸せだろ」

「まぁ確かにね」


瑠璃は昔、自分の好きな映画を中傷する書き込みを見て、不快な思いをした。それ以来SNSはあまり利用しないようにしている。


そんなことを話しているうちにアカウントの作成を終わらせ、いつでもこのゲームを楽しめる状態ができた。


どうやらこのゲーム、多種多様な対戦できるゲームがあるらしくミニゲームやスポーツなど、かなり豊富なコンテンツを楽しめるようで、オンライン上でたくさんの人と交流も可能。


人気の理由は、無料でプレイできること。

多種多様なコンテンツにより、飽きずにたくさんの人が得意なゲームを見つけて、どっぷりハマるようにできていること。

様々なゲームをプレイしてきた瑠璃には、容易に表現できた。


極端な表現だが、一つのゲームというよりかは、先程見ていたゲーム販売サイトで購入せずに様々なゲームをプレイできるようなもの。


「他の人がやっている試合を観戦することもできるよ。この前有名なゲームプレイヤー2人が試合を行った時は、55万人以上が観戦していたとか。」


「55万?東京ドーム10個分じゃん。」

「いや、その例えは敷地面積を表す時に使うやつでしょ」


______________________________________



ゲームアカウントの登録などを行い、ホーム画面のプレイにボタンを押すと、名前を決定しろと出てきた。


「な……づ……な」


ナヅナ727727


名前の由来は誕生日の7月27日。どのゲームでも名前は決まって"ナヅナ727727。とても見づらい数字だ。

ロードが終わると、ゲーム説明が始まった。  

右側にはロビー内のチャットウィンドウ。

右上には、「賞金総額1億円のオンライン大会を実施!詳細は公式youtobeチャンネルのアーカイブをチェック!」などのニュースが掲示されていた。


オープンワールドに少し似たような雰囲気で、ミニゲームも様々な場所に配置しているらしい。

操作方法は各ゲームによって違うので各々そのゲームがある場所まで行ってチュートリアルをプレイするか、ゲーム説明を選択して操作方法を確認しろとのこと。


だがまずはプレイしてみないと始まらない。

「なにしようか……よしこれにしよう。」

数ある対戦ゲームの中から選んだのはパルクール。

建物上や飛び飛びに置いてある足場に飛び乗って早さを競うゲーム。


目的のパルクールがある場所まで歩いていく。

この広いマップの中にもかなりプレイヤーが歩いている。おそらく入り直すと、別のロビーへ行くので2度と会えないとは思うが。

今自分の操るキャラクターがいる世界も、無数にある部屋の中の一つなのだろう。


「啓介ちょっとスマホ貸して」


目的地に着くまでに時間があるのでスマホを寄越すように言うと、ある動画を見始めた。

それはこのゲームを散々やり込んだであろうプレイヤーの手元付きの動画だ。


「見るは学ぶの第一歩だろ」


ゲームスキルを効率的に高める方法は、ただひたすら上手い人の動画を見ることだと、彼女は思っている。

何事も、目標地点を決めずに流れに任せてやるのではなく、志向することが大切なのだ。

そんなこんなで勉学に勤しんでいると、目的地に着いた。マッチング開始のボタンがあるので、さっそく始めてみる。


このゲームは人気なので、何人だろうと直ぐにマッチングするだろうが、基本的にこのゲームは1vs1なので決定ボタンを押せば1秒で直行。


3……2……1……start!


淡々とプレイする姉。それを見る弟。

先程操作方法は確認して、少しだけ練習もさせられたので最短ルートでスラスラと行く。

気付けば相手とはかなりの差が開いていた。


「おいおいどうした。もうゴールしちまうぞ」

調子の良い扇状的な口調で淡々とプレイをする。

初プレイなので、おそらく初心者しかいないサーバーなのだが、それでも圧倒的。

ゲームスキルだけは異常な姉。もう見慣れた弟。

正直プロとしてやっていけるんじゃないかとも思っていてる。

そんなこんなで初プレイは勝利に終わった。

そこからこのゲームにどっぷりハマるのに時間はかからなかった。


時刻は11時30分


「早く寝なさいよ」

「お前は母ちゃんか?」

「違うわ」


弟は電気を消して、先に布団に入った。

やり始めたらいつも止まらないので、少し慣れたらやめよう、と姉は心に決めた。



__________________________________________



「……おはよう」

「おはよう」

いつもの朝の挨拶を交わす姉弟。

しかし弟の声には戸惑いのような呆れのようなものが混ざっていた。なぜなら、昨日寝る前に見た光景と全く変わっていないから。姉は当然のように画面に目を向けて集中していた。


「早く寝ろって言ったでしょ……」

「いやぁ、意外と面白くて面白くて」


もう見慣れた景色だった。

ゲームをし始めるといつもこれだ。

笑って誤魔化してるが、それでも弟は本気で姉が心配だった。

今はケロッとしている姉だが、こんな生活習慣で、いつどうなるかは誰もわからない。

弟はあくびをしながら姉を見下ろす。


「頼むからちゃんと睡眠はとってよ」


「私にゲームをやめろと?ゲームを取り上げるなんて、それこそ母ちゃんのやることだろ」

「別にゲームをやめろとは言ってないよ。寝ろって言ってんの」

「自由時間は限られてんだから、そりゃもちろん私のやりたいことをやるよ」

「頼むからその半分だけでも睡眠にあててくれない?」

「は?半分も削るのはもったいだろ」

「あー言えばこう言う……」


そういえばこの人には何を言っても無駄だったな、と今更思い出す。しかしこれ以上駄々をこねられても、しょうがないし、なにより心配だった。

弟の顔を見上げて姉は、はぁとため息をつく。いやため息をつきたいのはこっちなんだけど、と思ったが口には出さなかった。


「そんなに心配しなくても、寝る時は寝てるし、私の事は私が1番分かってるから」


にっこり笑いながら心配するなと言い寄り、啓介の頭を撫でる。


「本当に?」

「本当に。おそらくこの体は後10年は持つぜ」

「結構短いな……じゃあ10年後は?」

「……んー、その10年の間には億万長者になってるから、生活習慣も改善されてるはず」

「じゃあ10年後には億万長者になっているという根拠は?」

「……さ、ご飯ご飯」

「おい」


頭を撫でていた腕を下ろし、キッチンへ逃げていく姉の後ろ姿を見て頭を抱えたくなった。

彼女のその腕もいつかは動かなくなる。その時が早く来ないように、啓介は願うしかない。


「本当にいつか倒れても知らないよ」

「大丈夫大丈夫」

「今はそうかもしれないけど、誰もお姉ちゃんの未来何て分からないよ。1年後か、はたまた明日かもしれない。頼むから、生活習慣だけはちゃんとして」

「だからお前は母ちゃんかて」


今は笑ってられるが、それも今のうちかもしれない。

はぁ……とため息をつきながら学校の準備をする。



______________________________________




ピ〜ポ〜ン


朝飯の準備が終わり、後はテーブルに並べるだけだったが、いきなり玄関インターホンが鳴った。


「ちょいまち」

「おけ」


食卓を並べている姉に一言添えて、今行きま〜す、と言いながら啓介は玄関へ向かう。

玄関を開けるとそこには、血の繋がりもないのに、 瑠璃と啓介の面倒をずっと見てくださった人、奈津子というおばさんがいた。


「やぁ啓介くん!」

「あ、どうも奈津子さん」

「これ余ったから、瑠璃ちゃんと食べて!」

「いいんですか?」

「いいの、いいの。私が食べても余計な脂肪しか付かないんだから……。育ち盛りの君たちが食べちゃって」

「ありがとうございます」

「じゃ、またね!」


奈津子さんは手に持っていたパンやら食材やらを啓介に押し付けて、すぐに行ってしまった。


余ったと言っているが、いくつかその範疇に入らなそうなものがある。一年前に瑠璃の希望で奈津子さんの扶養から外れ、現在2人でアパート暮らしをしているが、奈津子さんはいつまでもこの姉弟を心配してくれているのが、痛いほどわかった。


「全く……心配性なんだから」


奈津子さんから受け取ったものを両手で抱え、部屋へ戻ろうすると、パリンという何かが割れたような音がした。

もしかして皿を落としたのか?と思い、「お姉ちゃん?」と名前を呼びながら部屋へ向かうと、そこには誰もいないように"見えた"。そう、見えただけだった。視線は下に向けると、そこにいた。

白目を剥き、泡を吹いて倒れている姉が。


「いや、早過ぎでしょぉ……!?」


先程の姉の発言を思い出して、目の前のアホを罵倒する。こんなに早くダウンするとは誰が予想できただろうか。


「お姉ちゃん!?姉ちゃん!?」


すぐにおばさんから受け取ったものを床に置いて姉に駆け寄り、声をかけるが全く反応はない。

すぐさまスマホをだして救急車を呼ぶ。

一方姉は気を失いかけていた。意識の光と闇の狭間にいた。


「もしもし!鈴木と言います!姉が!姉がいしkwpgtwgm………」


啓介が何かを喋っている。だが途中から聞き取れなくなった。もう意識は途切れかけていた。


(だめ、だ………弟を1人に……しちゃ……………わた、しが、いな、きゃ……)


ある日の朝方、間も無くそこで鈴木瑠璃の意識は途切れた。


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