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幕間「王都の黄昏、あるいは伝統の綻び」

第1章、最後までお読みいただきありがとうございました! 今回は第2章へ入る前の幕間インターミッションです。


アレンたちが契約成立を祝っていたその頃、王都の錬金術師ギルドでは——?


「規格外」と切り捨てたはずの男が、騎士団の評価をひっくり返したと知った時、あのギルドマスターはどうなるのか。 読者の皆様がお待ちかねの、「王都ギルド視点」をお届けします。

王都エルデンシアの一等地に聳え立つ、石造りの重厚な建物。


数多の錬金術師を束ねる総本山、「王都錬金術師ギルド」のマスター執務室は、かつてない重苦しい空気に包まれていた。


「——ふざけるなッ!!」


怒号と共に、豪奢なマホガニーの机が拳で叩かれる。


ギルドマスター、ヴィクター・アルケミスは、顔を真っ赤にして目の前の報告書を睨みつけていた。


「返品だと!? 我々が納品したポーションを、騎士団が返品してきたと言うのか!?」


ヴィクターの剣幕に、報告に来た副ギルドマスターの男が縮こまる。


「は、はい……。先方曰く、『品質にバラつきがあり、効果も不十分である』と……」


「馬鹿な! 我々のポーションは数百年の伝統に裏打ちされた製法で作られている! それが不十分など、あり得ん!」


ヴィクターは激昂した。


エルデンシア王国のポーション市場は、長らくこのギルドが独占してきた。価格も品質も、全て自分たちが決めてきたのだ。それが「不十分」などと評価されること自体、ヴィクターのプライドが許さなかった。


「それに……これを見てください」


副ギルドマスターがおずおずと差し出したのは、一枚の成分分析表だった。どうやら騎士団が独自に作成したものらしい。


そこには、二つのポーションの比較データが記されていた。


一つは『ギルド製』。もう一つは『アレン工房製』とある。


「アレン工房……? 聞いたことのない名だな」


「それが……最近、騎士団が新規に契約を結んだという、辺境の工房らしく……」


ヴィクターは鼻で笑い、分析表に目を落とした。


辺境の田舎錬金術師が作ったものなど、どうせ泥水のような粗悪品に違いない。騎士団も安さに釣られて痛い目を見るだろう——。


そう思っていたヴィクターの表情が、凍りついた。


「……な、なんだこれは?」


『不純物含有率:0.01%未満』


『有効成分濃度:従来品の1.5倍』


『効果発現時間:10秒(ギルド製は60秒)』


数字の羅列が、信じられない事実を突きつけていた。


あり得ない。こんな数値、熟練のS級錬金術師が最高級の設備を使って、数日かけて一本作るレベルだ。それを辺境の工房が量産しているというのか?


「アレン……アレン・クロフォード……?」


その名前に、微かな記憶が蘇る。


三ヶ月前、自らの手で追放した、あの若造か?


『温度計』だの『データ』だの、錬金術の神髄である「勘」を軽視し、生意気な口を利いていた、あの無能か?


「あいつが……これを作っただと?」


ヴィクターの手が震えた。恐怖ではない。怒りだ。


伝統を冒涜するような小細工で、数値を偽装しているに違いない。そう、これは詐欺だ。錬金術への冒涜だ。


「安売りをして市場を荒らし、データを偽装して騎士団を騙す……許せん、許せんぞアレン!」


ヴィクターの思考は、完全に「伝統」というフィルターで歪んでいた。


彼には理解できないのだ。品質管理という概念が。科学的アプローチが。そして、それを拒絶した自分たちが、既に時代遅れになりつつあるという事実が。


「副マスター!」


「は、はい!」


「調査員を派遣しろ! 今すぐリバーサイドへ向かわせるんだ!」


ヴィクターは目をぎらつかせ、歪んだ笑みを浮かべた。


「その化けの皮を剥いでやる。不正の証拠を掴み、騎士団に突きつけてやるのだ。伝統あるギルドに盾突いたことを、後悔させてやる!」


副ギルドマスターが慌てて退室していく。

一人残された執務室で、ヴィクターは窓の外を見下ろした。王都の繁栄。それを支えてきたのは自分たちだという自負。


だが、彼は気づいていなかった。


その足元が、既に崩れ始めていることに。


「所詮はE級の最弱職……。私が直々に潰してやる」


黄昏時の王都に、時代の変わり目を告げる鐘が、重く鳴り響いていた。

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