【スピンオフ】剣士リリアの冒険譚 〜アレンさんのポーションがないと、もう生きていけません!〜
いつも『最弱職「錬金術師」ですが…』プロジェクトを読んでいただき、ありがとうございます!
今回は【特別スピンオフ】をお届けします。
本編の第12話「忙しい日々」にて、ヒロインのリリアが満面の笑みで「鉄甲熊を倒してD級に昇格したよ!」と報告に来るシーンがありました。 アレン視点では「おめでとう」で終わったこの出来事ですが……実はその裏で、アレンのポーションがなければ全滅していたかもしれない「命がけの激戦」があったのです。
視点: リリア・ハートウェル
時系列: 第1章 第12話の直前(リバーサイド移住25日目頃)
生産者からは見えない、「利用者(冒険者)」から見たポーション革命の真価。 そして、リリアがなぜあそこまでアレンを信頼するのか。
剣士リリアの視点から描く、もう一つの物語をお楽しみください!
1. 絶体絶命の森
「嘘でしょ……!? 話が違うじゃない!」
私の叫び声が、鬱蒼とした森に響き渡った。 目の前には、小山のような巨体が立ちはだかっている。全身を鋼鉄のような剛毛で覆われた魔物——『鉄甲熊』だ。
ギルドの依頼書には『森の浅瀬に若い個体が出現』って書いてあったのに。 こいつ、どう見ても若い個体じゃない。歴戦の古株だ。背中には古い剣傷があり、その瞳は狡猾に光っている。
「ぐわああっ!」
鈍い音と共に、パーティリーダーのジェイクが吹き飛ばされた。 鉄甲熊の裏拳が、彼の盾ごと身体を弾き飛ばしたのだ。
「ジェイク!」 「くそっ……腕が……!」
ジェイクが苦悶の表情で右腕を押さえる。ダラリと下がった腕は、明らかに折れているか、あるいは脱臼している。 私たちのパーティは、私を含めて4人。リーダーで盾役のジェイク、弓使いのエレン、魔法使いのトム。そして剣士の私。 連携には自信があったけど、この相手は格が違いすぎた。
「トム! 牽制魔法!」 「や、やってるよ! でも毛が硬すぎて効かないんだ!」 「エレンの矢も弾かれてる……! リリア、どうする!?」
エレンの悲鳴に近い声。 撤退? 無理だ。ジェイクがあの状態じゃ、逃げ切る前に追いつかれる。 戦うしかない。でも、盾役のジェイクが動けない今、誰が前衛を張るの?
(私がやるしかない!)
私は剣を強く握りしめた。 E級冒険者の私じゃ、本来なら荷が重すぎる相手。でも、今の私には「切り札」がある。
「ジェイク! これを使って!」
私は腰のポーチから、淡い緑色に輝く小瓶を取り出し、エレンに投げ渡した。 リバーサイドの片隅にある、私の大好きな場所——『アレン工房』で作られた、特製の下級回復ポーションだ。
「ポーション!? 今飲んでも、効果が出るまで1分はかかるぞ!」 「いいから飲ませて! 普通のとは違うの!」
私の剣幕に押され、エレンがジェイクにポーションを飲ませる。 その隙を作るため、私は鉄甲熊の前に飛び出した。
「こっちだよ、デカブツ!」
剣で熊の鼻先を切りつける。硬い! まるで岩を叩いたような感触。 熊が咆哮を上げ、私にターゲットを変えた。丸太のような腕が振り下ろされる。 速い!
「きゃっ……!」
紙一重でかわしたけれど、衝撃波でバランスを崩す。 追撃が来る。避けられない——そう覚悟した瞬間だった。
ガキィィィン!!
金属音が響き、熊の爪が弾かれた。 私の前に割り込んだのは——大きな盾を構えたジェイクだった。
「え……?」
私は目を疑った。 さっきまで腕を押さえてうずくまっていたはずの彼が、今は両手でしっかりと盾を構え、熊の怪力を受け止めている。
「ジェ、ジェイク? 腕は?」 「……治った」 「え?」 「飲んだ瞬間に、痛みが引いたんだ。骨がくっつく音が聞こえたと思ったら、もう動けた」
ジェイク自身が一番信じられないという顔をしている。 通常、下級ポーションなら傷が塞がるのに数分、骨折なら完治までは期待できない。それが、わずか十数秒で、戦闘可能な状態まで回復している。
「すげぇ……なんだこれ、魔法かよ……」 「だから言ったでしょ! アレンさんのポーションは特別なんだって!」
私はニカっと笑った。 アレンさんはいつも「品質管理のおかげです」なんて謙虚に言うけれど、これはもう奇跡のレベルだ。 苦い味もしないし、飲んだ瞬間に身体が熱くなって、力が湧いてくる。
「ジェイクが復活したなら、いける!」 「ああ! このポーションのおかげで、スタミナまで戻った気がするぜ!」
戦況は一変した。 前衛が万全の状態に戻った私たちは、本来の連携を取り戻した。 ジェイクが受け止め、トムが目くらましの魔法を放ち、エレンが関節の隙間を狙う。 そして——。
「はあぁぁぁっ!」
私が渾身の力で踏み込み、熊の喉元——剛毛の薄い急所へ剣を突き刺した。 鉄甲熊が断末魔を上げて崩れ落ちる。
森に静寂が戻った。
2. 勝利の味と、商人の顔
「やった……倒した……」
トムがへたり込む。エレンも肩で息をしている。 私たちは顔を見合わせて——そして、一斉に歓声を上げた。
「やったー!! D級相当の魔物だよ!」 「信じられん……俺たちだけで、鉄甲熊を……」
ジェイクは自分の右腕を、何度も回して確認している。 傷跡一つ残っていない。
「リリア、お前が言ってた『アレン工房』……マジだったんだな」 「でしょ? でしょ? 私の見る目に狂いはないんだから!」
私は鼻高々だった。自分のことのように嬉しい。 アレンさんは、王都で追放されたって言ってた。こんなに凄いものを作れるのに、どうして誰も認めなかったんだろう? 王都の錬金術師たちは、みんな節穴だ。
「でもさ、これ一本銀貨2枚なんだろ? 安すぎないか?」 「私もそう思う。効果的には金貨1枚でも安いくらいだよ」
そう。アレンさんのポーションは、性能に対して価格が異常に安い。 冒険者としては助かるけど、アレンさんが無理をしてないか心配になる。 最近、アレンさんはすごく忙しそうだ。目の下にクマができていることもあるし、食事も忘れて研究しているみたいだし。
「ねえ、みんな。この熊の素材、売ったらいくらになるかな?」 「毛皮と胆嚢が無事だからな……金貨3枚はいけるか?」 「じゃあさ、今日の祝勝会は無しにして、その分でアレンさんのポーションを買い占めない?」
私の提案に、3人は顔を見合わせた。 そして、ニヤリと笑った。
「賛成だ。命の恩人だからな」 「私も! 予備がないと不安になっちゃう」 「僕も異論ないよ」
やった! これでアレンさんの売上に貢献できる。 私は剥ぎ取り作業もそこそこに、早くアレンさんに会いたくてウズウズしていた。
3. 笑顔の工房
夕暮れ時のリバーサイド。 私たちはギルドで報告を済ませ、その足で工房へ向かった。 懐には、換金したばかりの金貨と、D級昇格を告げるプレートが入っている。
「アレンさーん!!」
工房の扉を勢いよく開ける。 中には、いつもの優しい笑顔のアレンさんがいた。それに、最近入った弟子のエミリアちゃんとルーカスさんも。
「おっ、リリア。今日は早いな」 「見て見て! これ!」
私は真っ先に、昇格プレートを見せた。 アレンさんは目を丸くして、それから本当に嬉しそうに笑ってくれた。
「おめでとう、リリア」
その笑顔が見たかった。 鉄甲熊の爪が怖くなかったと言えば嘘になる。でも、この工房のポーションがあるという安心感が、私に勇気をくれた。 アレンさんは「俺はサポートしただけ」なんて言うけれど、違う。 アレンさんは、私と一緒に戦ってくれていたんだ。
「あはは! 今日はお祝いね! 今夜は『銀の匙亭』で奢ってよね、アレンさん!」
つい、いつもの調子で甘えてしまった。 本当は私が奢らなきゃいけないくらいなのに。 でも、アレンさんの困ったような、でも楽しそうな顔を見るのが好きなんだ。
「はいはい、分かったよ」
アレンさんが苦笑しながら承諾してくれる。 工房の奥では、エミリアちゃんたちが微笑ましそうに見ている。 この温かい空気が好き。 薬品の匂いと、羊皮紙の匂い。そして、真剣に未来を見据える人たちの熱気。
(アレンさん、私ね)
心の中で、そっと呟く。
(アレンさんが王都を見返すその日まで、私が一番のお客さんでいてあげる。だから——)
「アレンさん、また難しい顔してる。幸せな時は、もっと素直に笑っていいんだよ?」
私は彼の顔を覗き込んだ。 この人が作る「革命」を、一番近くで見ていたい。 剣士リリアの冒険は、この工房と共に続いていくのだ。
「さあ、今日は在庫ある? チーム全員分、買い占めちゃうからね!」
私は金貨袋をジャラリと鳴らし、最高のお得意様として胸を張った。
(スピンオフ 完)
最後まで読んでいただき、ありがとうございました! リリア視点でのスピンオフ、いかがでしたでしょうか?
アレンにとっては「製造記録の数字」や「売上」でしかないポーションですが、現場の冒険者にとってはまさに「命綱」なんですよね。 第1章でアレンがこだわった「即効性(10秒で回復)」や「飲みやすさ」が、実際の戦闘でどれほど革命的だったのかを描きたくて、このお話を書きました。
いつも元気で少し天然なリリアですが、彼女なりにアレンの凄さを一番理解している理解者でもあります。 (そして、稼いだお金を全部アレンにつぎ込む一番の太客でもあります……笑)
さて、次回の更新からは本編・第2章がスタートします! いよいよ本格的な量産体制に入ったアレン工房に立ちふさがる「物流の壁」と「組織の歪み」。 そして王都ギルドからの怪しい動きも……?
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(アレンのポーションのように、作者の執筆速度も回復します!)
それでは、第2章でお会いしましょう!




