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その3

 二年に進級した王太子クリストファ殿下が生徒会長に就任した時、兄のロドニイも生徒会の執行役員に誘われた。本来生徒会は三年生が中心となるものだが、二年生の殿下が会長になったことにより、生徒会も二年生以下で固められた。


「ここでしばらく避難しているといい、きっとパトリシア嬢はそのへんで待ち伏せしてるだろうから」

 そう言いながら開かれた扉の向こうには、クリストファ殿下とロドニイ兄様、一年で執行部役員に任命されたクローディア・オニール様がいた。

 三人に注目されて心臓が止まりそうになった。


 さっきまでは早鐘のように打っていたと思えば、急停止しそうになる。私の心臓は壊れてしまいそうだ。


 ルルーシュ王国の王太子クリストファ殿下は、プラチナブロンドにサファイアの瞳、端正でたいそうな美貌を誇る青年。幼い頃から王になるべく厳しい教育を受け、文武両道、クールで切れ者の完璧な王子である。しかし兄に言わせると、常に嘘くさい笑みを浮かべ、本心を明かさない腹黒だそうだ。


 紅一点のクローディア様はお父様が宰相を務めるオニール公爵令嬢。明るい栗色の髪に碧の瞳、白い肌にピンクの頬が愛らしい、天使のような笑みを浮かべる美少女だ。王太子殿下とは幼馴染で、殿下の婚約者であるドリスメイ様の親友でもある。


 そして一歳年上の兄ロドニイは、私とは違い父親似でプラチナブロンドにエメラルドの瞳の知的な美丈夫。伯爵家の嫡男で、王太子殿下の側近候補で婚約者なしとくれば、令嬢が目の色変える優良物件である。


 リジェール様も加えて錚々たるメンバー、まるで別世界の扉を開かれたようで、眩しさに目が眩んで立ち竦んでしまったが、必死で平静を装った。

 そんな私の背中に手を当て、リジェール様は室内にいざなってくれた。


「アリスン?」

 入室した私に兄は驚きの目を向けた。


 兄とは、家では挨拶くらいでまともに会話することがない。それは二人とも家にいる時間が短いせいもあるが、私と兄が話をするとパトリシアがヤキモチを焼くからだ。


 そしてパトリシアを溺愛する父は〝なぜパティに優しくしてやれないのか〟と兄を責める。煩わしくなった兄は、平等に距離を置くことを選んだ。

 それは学園内でも同じだった。


 立ち尽くしている私に兄は、

「王太子殿下にちゃんと挨拶しろよな」

 呆れたように言った。

 私は慌ててお辞儀をしたが、

「いいよ、そんな堅苦しいことは」

 王太子殿下は嘘くさい笑みなんかじゃない優しい微笑みを向けてくれた。


「あなたがアリスン様なの、初めましてですね」

 クローディア様が声をかけてくれた。

「初めまして」

「同じ学年でもクラスが違うとお会いする機会が全くありませんね」

「ええ」


「リジェ様の姿が見えないと思っていましたら、ご令嬢を誘惑しに行ってらしたなんて」

「バカ言うな、君に頼まれた資料を探しに行ったんじゃないか」

「あら、そうでした?」


「途中でロニのお姫様がピンチに陥っていたから、救出してきたんだ」

 リジェール様は悪戯っぽく言った。

「ピンチって、なにかあったのか?」

 兄は眉をひそめた。それより、ロニのお姫様ってなんですか?


「もう一人の妹君に絡まれてたんだよ」

「パトリシアになにかされたのか?」

「いつもの寸劇ですよ」

「でも、パトリシア嬢の取り巻き男子に囲まれて詰め寄られていたから」


「まあ、なんてことを、許されない行為ですわ」

 クローディア様は驚きの声をあげながら、王太子殿下に視線を流した。

「その男子たちの身元はわかっているのか?」

 殿下は冷ややかな笑みを浮かべながらリジェール様に尋ねた。


「ああ、でも下位貴族だったよ、君の名前を出したらビビってた」

「なぜ僕を」

 殿下はヒクッと肩眉を上げたが、リジェール様はまったく気にしていない様子だ。お二人は気遣いのいらない間柄なのね。


「あんな嘘くさい芝居に騙される男がいるんだから驚くよ」

「彼女、容姿だけはイイですからね、まあ、私には及びませんけど」

 クローディア様には公爵令嬢の気品、洗練された美しさがある、それはお育ちと内面から滲み出るモノだからパトリシアには到底まねできるものではない。ただ、自分で言わないほうがいいと思う。


「パトリシアをご存知なのですね」

「ええ、時々ここへ来てらしたから」

「そうなんですか?」

「ああ、もう出入り禁止になったけどな」

 そう言った兄の顔は醜く歪んでいた。せっかく綺麗なお顔なのに、そんな風に歪めないでほしいわ。


「用もないのに押し掛けて、一人で喋りまくって、クリス殿下にも馴れ馴れしく話しかけたり、非常識極まりなかったから」

「私が出入り禁止にしましたのよ」

 クローディア様が不敵な笑みを浮かべた。


「ディアが言わなかったら、僕が言ってたけどね」

「クローディアが言わなかったら、俺が言ってたよ」

 王太子殿下とリジェール様の声が被った。


 そうか、パトリシアはこんなところまで押しかけて迷惑をかけているんだ。

 私も長居してはご迷惑だろう。

「では、私はそろそろ失礼させていただきます」


 さっさと私は帰ろうとしたが、ちょうどその時、もう一人の執行役員、二年生のアンドレイ・プージュリー様が入室されたので、危うくぶつかりそうになったが、

「おっと、失礼」

 彼の反射神経の良さで回避された。


 近衛騎士を目指すアンドレイ様は一流の剣士で、リジェール様と一、二を争う腕前だ。長身で鍛えられたマッチョな体格、栗色の髪にこげ茶の瞳、精悍な顔つきの青年だが、その顔がさらに険しく曇っていた。その訳は私とぶつかりそうになったからではなかった。


「なんかさ、お前の妹、またウロウロしてたぞ、出禁になったんじゃなかったのか?」

 待ち伏せしているパトシリアと出くわしたようだ。


「ほら、もう少しここにいたほうがいいよ」

 それを聞いたリジェール様は、また私の手を取って部屋の中央に引き戻した。

「リジェ様、無闇に女性に触れてはいけませんわ」

 すかさずクローディア様が注意して、代わりに来客用のソファーを勧めてくれた。


「仕方ない、終わるまで待ってろ、今日は俺と一緒に帰ろう」

 兄の言葉に、

「そんなことしたら、またお父様が」

 私は言いかけたが、家庭事情を暴露するのは良くないと言いよどんだ。


「大丈夫だ、みんなうちの事情はわかっている、パトリシアが聞いてもいないのに喋りまくってたからな」

「その逆だと、みんなすぐに気付いたよ」

 リジェール様が補足した。


「あのように勝気で口達者な図々しい方が虐げられるなんてありえませんもの。あんな話を誰が信じるのかしら? あら、取り巻きの殿方は信じてらっしゃるのね」


 兄は渋い顔をしていた。本当は歪な家庭事情を知られたくはなかっただろう。なにしてくれてのよ! お兄様に恥をかかせて!


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