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その27

 病院から出ると、もう夕闇が迫っていた。

「ミランダ嬢の意識が戻って、ほんとによかった」

「ええ、お兄様も駆け付けてくださったし、誤解も解けて」


 馬車の中、リジェール様はまた私の横に座った。嬉しいんだけどまだ慣れない。肩が触れるたびにドキッとしてしまう。


「これでミランダの方は一安心です、国外へ出てしまうのは寂しいけど、今の彼女にとってはそれが一番いいですから」

「そうだな、あとは……」


 裁判の行方、私の今後がどうなるか、ベッカー伯爵との婚約が無効になり、ターナー家から籍を抜くことが出来ればいいのだが。

「大丈夫、万事うまくいくよ」

 そう信じたい。


「それにしても、ライナス殿は冷静だったよな、俺だったら正気じゃいられない、ドリスがあんなことになったら、追い詰めた奴らを八つ裂きにしてやる」

 リジェール様なら本当にやり兼ねないわね。


「妹思いですものね、ドリスが王立学園に入学するのがわかっていたから、先に来られたんですってね、ドリスが言ってました」

「ああ、ずっと辺境伯領地で育ったドリスが王都で生活するのはきついんじゃないかと思ってた。案の定、入学したての頃は田舎者とバカにされて、なかなか馴染めなかったもんな」


 ドリスメイは幼い頃、クリストファ殿下に見初められ、王命で王都に呼び寄せられて婚約者になることが決まっていたそうだ。ただ本人は聞かされないまま王立学園に入学したので、紆余曲折あり、やっと正式に婚約発表されたのはついこの間だ。


「クリスはドリスを大事にしてくれるし、陛下と王妃様にも可愛がられているし、なによりクローディアには感謝してるよ、彼女がドリスを認めてくれたおかげで、ドリスに対する周囲の接し方がガラッと変わった」


「確かに、ディアの存在は大きいけど、ドリスの人柄だと思うわ、ディアはドリスを認めているというより大好きよ、私もね」

「俺よりも?」

「好きの種類が違います」


「俺は近衛騎士になり、王太子妃付きになってドリスを護るつもりだ。でも、もう一人、護りたい人が出来た」

「リジェール様……」


 私を護ってくださる……、もし、崖から落ちそうになってどちらか一人しか助けられないと、私とドリス、どちらを選ぶ? なんて意地悪な質問はしないわ。でも、どんどん欲張りになっていく自分の気持ちを抑えられない。


 リジェール様にとって一番になりたいなんて図々しい思いが溢れて……私だけを見て欲しい。そう、今みたいに。


 私を真っ直ぐ見つめている。コバルトブルーの瞳に吸い込まれそうだ。

 彼の瞳がゆっくり近づいてくる。

 そして、唇が触れそうになった。次の瞬間。


「ゴメン!」

 彼は弾かれたように離れた。

 それは私の目から零れた涙に気付いたからだろう。嫌がったと思われたのかしら。


「怖がらせちゃったかな、付き合いはじめたばかりで婚約もまだなのに、性急すぎたよな」

 と自分の頬に拳骨を当てた。

「いいえ、違うんです、嬉しすぎて」


「えっ、そうなの? じゃあやり直させて」

 リジェール様はパッと表情を明るくさせて私の頬に手を当てた。

「そうじゃなくて」

 私は心とは裏腹、彼の胸を押して距離を取る。口づけしてほしい気持ちはあるが、想いを伝えあったとは言っても婚約はまだだし、淑女としてはそう簡単に許すべきではない。


「お気持ちが嬉しいのであって、その……」

 リジェール様は叱られた子犬の様な目で私を見る。

 困った……。


 リジェール様はそんな私の頭にポンと手を乗せた。

「先は長いんだ、君のペースに合わせるとするか」

 私のペース? リジェール様とはそんなに違うの?


「本当はこのまま君を攫いたい気持ちなんだけどな」

 コテンと私の肩に頭を乗せるリジェール様の仕草が可愛い。こんな一面も見せてくれる。これからはもっといろいろな彼を見られるのかしら。


ここまで読んでいただきありがとうございます。もう少し続きますので最後までお付き合いいただければ嬉しいです。

クリストファとドリスメイのお話については、『霊感令嬢はゴーストの導きで真相を究明する』を読んでいただければ幸いです。

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