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予知夢?を見た伯爵令嬢は運命に抗い真相を究明する  作者: 弍口 いく


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その13

 ミランダが登校しなくなって、あっと言う間に二週間が過ぎた。私はなんとかミランダに会えないか、毎日訪ねたが門前払いされ続けた。


 七年も続いた婚約が解消された話は、既に知れ渡っていた。

〝ミランダが重い病を患い、侯爵夫人の責務を果たせないと婚約辞退を申し出た。七年も婚約していたのに断られて落胆したジェイクを異母妹のリリーナが慰めているうち愛が芽生えて、婚約する運びとなった〟


 なんて、まことしやかに囁かれているが、たいていの人はそんな話はリリーナ本人が流したでっちあげで、リリーナがジェイクを誘惑して奪ったことを知っていた。そしてミランダの病気はジェイクに裏切られたショックからだろうと言うことも。





「ミランダ様はどうしてらっしゃるの? 大丈夫なの?」

 お昼休み、ディアが私に尋ねた。

 ミランダが登校しなくなり、独りぼっちになった私を気遣って、クローディアがランチに誘ってくれるようなった。お兄様に頼まれたのかも知れない。


 クラスメートたちも沈みがちな私を気にして声をかけてくれる。リリーナの言う通りにはならず、私は独りぼっちではなかった。自分自身も意外で驚いている。


 同い年なのだからかしこまらなくてもいいと、ディアと愛称で呼ぶことを許された。もちろん彼女は私をアリーと呼ぶ。

 美しく可憐な見た目とは違い、勝気でさっぱりした男前な性格のギャップがいいでしょ、とドリスは言う。リジェール様の妹君で王太子殿下の婚約者であるドリスメイも同様、ランチを共にする間柄になった。


 ドリスは燃えるような赤毛で赤い瞳の美少女。辺境伯領で育った素朴で裏表がない性格、都会育ちで洗練されたディアとは正反対に見えるが、案外気が合うようだ。


 身分の高い二人に誘われて、最初は緊張のあまり食事が進まなかったが、すぐに同じ十六歳の女の子だとわかり、思いのほか早く馴染むことが出来た。

 二人が盾になってくれているお陰で、ミランダのことで私にとやかくいう者はいないし、リリーナやパトシリアも寄って来なくなった。


「放課後、毎日訪ねてるけど、一度も会わせてもらえないの、それがミランダの意志だとは思えなくて心配なんだけど、どうすることも出来なくて」

「軟禁状態なの?」

「そこまではわからないけど、不自然でしょ」

「そうね、心配だわね」

「一目でいいから、無事な姿を確認したわ」

 まさか、自室で焼かれているとは考えにくいけど。


「私なら塀を乗り越えて忍び込んじゃうかも」

 ドリスが言った。自称野猿の彼女なら本当にやり兼ねない。

「それよ!」

 ディアがポンと手を叩いた。まさかやるつもりじゃないでしょうね。

「王家の影」

「えっ?」



   *   *   *



「ダメに決まってるだろ、事件でもないのに王家の影を使って伯爵邸に侵入するなんて」

 兄はディアの提案に驚き、猛反対した。


 ディアが思いついたのは、クリストファ殿下に頼んで〝王家の影〟を貸してもらうことだった。彼らは王族に準ずる重要人物を常に影ながら警護している特殊部隊。その名の通り影のように潜んでおり、姿を現すことはなく、見たことはないがドリスにも常駐しているらしい。


「事件よ、令嬢が監禁されているだから」

 ドリスもディアに口添えした。今日は王太子妃教育が休みだったようで、彼女も放課後、生徒会室へ来ていた。


 突拍子もない頼みごとに、クリストファ殿下は平静を装ってはいるもののこめかみをヒクヒクさせていた。


「監禁と決まったわけじゃないだろ、ショックで本当に体調を崩しているのかも知れないし」

 リジェール様もこの案には反対のようだ。

「殿下を困らせるなよ、ジェイクに頼んでみたらどうだ?」

 兄は呆れ返っている。


「とっくに頼んだわよ、でも言うことは同じ、体調を崩しているから会えないと、きっとジェイク様もグルなのよ」


 私も無理な要望だとは思うけど、辺境伯領で伸び伸びと育ったドリスのように身軽ではない私が、よそ様のお邸に忍び込むなんて芸当は無理だ。プロの助けが必要だ。


「絶対ダメなの?」

 ドリスは子犬、いえ、赤い瞳だから子兎のような目で殿下を見た。

 殿下は大きな溜息を一つついてから、

「わかった、一度だけだぞ」


「殿下! いけません」

 殿下の返事に兄は慌てた。

「私用で影を動かすなんて許されることじゃありません」

「まあ、私用と言ってしまえばそうだが、ドリスを護るためでもある」


 眉を下げながらドリスを見やった。

「僕の婚約者がじゃじゃ馬なのは知っているだろ? 拒否すればきっと自分で行くからね」

「やり兼ねない」

 リジェール様も大きく頷いた。

 ドリスは悪びれたふうもなくニッコリ笑みを浮かべている。


「だいたい、王太子の婚約者としての自覚と言うか、それ以前に貴族令嬢としての自覚が薄いんだよ、我が妹は」

「それにしてもクリストファ殿下は甘すぎる!」

 アンドレイ様が最後に冷ややかな言葉を放った。


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