その12
翌日、ミランダは登校してこなかった。
そして、次の日も。
自分の縁談話も深刻だったが、ミランダのことも心配で、私は夜も眠れず、食事も喉を通らなかった。
私のことは兄に任せるとして、とにかく、ミランダに会って話をしなければと見舞いに行ったが、体調を崩して寝込んでいると会わせてもらえなかった。でも、それはきっと嘘だ。ミランダは私に打ち明けたい話が山ほどあるはず、私を拒絶するはずないと信じている。
「ジェイク様!」
私は思い切ってジェイク様に声をかけた。
もちろん傍らにはリリーナがベッタリくっついていたが、気にしている余裕はなかった。
「ミランダがもう五日も休んでいるのですが、なにかご存知じゃありませんか?」
「ミランダお異母姉様なら病気で寝込んでいるのよ、そう言われなかった?」
すかさずリリーナが口を挟む。あなたに聞いてないわよ!
私はリリーナを無視して、
「お見舞いに行っても会わせてもらえないんです、それほど重篤なのですか? 前日までそんな兆候はなかったのですが」
「だから寝込んでいると言ってるでしょ!」
「私はジェイク様にお聞きしているのよ」
「一緒に住んでいる異母妹の私が言っているのよ」
精一杯冷ややかな視線を突き刺したので、リリーナは怯んだ振りをしてジェイク様の後ろに隠れた。
「怖いっ」
「大丈夫だよ、俺がついてる」
「パトリシアの言う通りだわ、そんな恐ろしい目で睨まれたら、なにも言えなくなってしまいますわ」
いやいや、パトリシアは人一倍お喋りよ、私が黙っていても平気で喋り続けているし。
リリーナは瞳をウルウルさせながらジェイクを上目遣いで見上げた。こういう仕草はパトリシアそっくりだ。
「噂通りのようだ、君たちはよく似ているんだな、異母妹に意地悪をして虐げているらしいじゃないか」
「なんてことを……ミランダがそんなことをする人だと本気で思っているのですか? あなたは七年間も婚約しているのに、彼女のなにを見てきたんです」
「騙されていたようだ、俺は女性を見る目がなかった、リリーナが目を覚まさせてくれたんだよ」
これ見よがしにリリーナを抱き寄せる。
見るに堪えない光景だ。愚かな人、今現在こそ、詐欺に遭っている最中なのに、気付く頭を持ち合わせていないのね。マッソー侯爵家の未来は真っ暗よ。
「ミランダお異母姉様は罰が当たったのよ」
罰が当たるようなことはしていないわ!
「だから病気になってジェイク様との婚約を続けられなくなったのよ」
「なんですって?」
「ミランダはこんな体じゃ結婚しても侯爵夫人としての責務に耐えられないから、婚約を解消したいと言ってきた」
「嘘!」
「嘘じゃない、俺は直接聞いたんだから、もううちの両親にも話して承諾を得た」
二人の噂を知ってからたった五日でそこまで話が進むなんて不自然極まりない。以前から既に計画されていたのだろう。でも、ミランダはすんなり受け入れたの?
「お異母姉様は学園も退学されるでしょう、残念だわね、たった一人のお友達がいなくなって」
「自業自得だから仕方ないよ」
この人たちになにを言っても無駄なのだと覚った私は、笑いながら去って行く二人を黙って見送るしかなかった。




