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危ないお遊び

 どう考えても、あの二人を引き合わせたのは失敗だった。


 あれからオスカーが大人しく帰るはずもなく、アーサーがいなくなっても「リディアと一緒にいるんだ!」と子どものように駄々をこねていた。


「なんか、朝からどっと疲れた……」


 ベッドに沈むように身体を預け、目を閉じて一眠りしようかと思うが、頭の中ではこれから先のことが怒涛のように流れてくる。


 まずは穏便に騎士を辞める方法を見つけないと。でも、厳格な父親がすんなりと認めてくれるはずがない。


「もしかしたら殺されるかも……」

「リディアお嬢様がどなたに殺されるのですか?」

「ひぇっ!?」


 慌てて飛び上がると、そこには首を傾げたばあやがいた。


「リディアお嬢様が殺すことはあっても、殺されることはないでしょう」

「あはは……私もそう思う」


 とはいえ、このままではその未来も実現しそうなんだけど。


「それにしても朝から大変でしたね。お稽古も満足にできなかったと聞きますよ」

「ああ、うん」

「そこで、ばあやは考えました。リディアお嬢様、例の百人斬りはいかがですか?」


 楽しそうに微笑むばあやだが、表情と言葉が一致していない。こんな可愛らしいおばあちゃんから「百人斬り」と聞こえた気がする。


「ええと、それってどういうものだっけ……?」

「あら、リディアお嬢様が最も楽しみにされていたお遊びではありませんか。お嬢様が百人の男を斬り倒していくのです」


 なんてむごい遊びをしているの!?


 いや、小説にはあったかもしれない。むしろ読者だったころはリディアの勇ましさが伺えるエピソードだと楽しんでいたぐらいだ。それなのに、いざ自分が同じ立場になるなら話は別だ。


「あの、それはまた別の機会に──」

「もちろん、リディアお嬢様は喜んで遊ばれるかと思いましたので、すでに準備は整っております」

「……え?」



 ばあやの言葉どおり、「百人斬り」の準備は完璧に整えられていた。

 広大な庭園の一角、訓練場にはずらりと並ぶ百人の兵士──いや、よく見れば使用人や騎士見習い、果ては近隣の貴族の子弟まで含まれている。皆、模擬剣を手にしてワクワクした表情を浮かべている。


「おお、お嬢様がいよいよ挑戦されるのですね!」

「私も相手を務めさせていただけるとは光栄です!」


 いやいや、どう考えてもおかしいよ……!


 ばあやは満足げに頷きながら言う。


「皆さま、お嬢様との手合わせを楽しみにしておりましたからね。さあ、お嬢様、存分に暴れてくださいませ」


 暴れない! むしろ逃げたい!


「ばあや……これ、本当にやらなきゃいけない……?」

「もちろんでございます。お嬢様の力を存分に発揮できる、絶好の機会ですからね」


 ばあやは満面の笑みを浮かべながら、まるで茶会を開くかのように優雅に言う。それを聞いた周囲の男たちはますます熱を帯びた目をしていた。


「さあ、早く始めましょう!」

「今日はどこまで耐えられるか……いや、どこまでお嬢様に斬られるか、勝負です!」

「私こそ最初に倒れる光栄をいただきます!」


 いやいや、そんな光栄いらない!


 というか、なんでみんなそんなに乗り気なの!?


 じりじりと後ずさるが、気づけば後ろにも人が立っていて完全に包囲されていた。逃げ道はない。


 どうしよう、このまま逃げるわけにはいかない。ここまで準備されてしまった以上、もはや逃げることはできないし。


 とりあえず……試しにやってみよう。最悪、まだ記憶が曖昧でとか言って誤魔化せばいい。ここにいる相手は全員、模擬剣を持っているから殺し合いになるわけでもないんだし。訓練の一環と思えば、そこまで悪い話ではない……はず。


「リディアお嬢様、剣をどうぞ」

「あ、ありがとう」


 受け取っちゃったよ。大丈夫? 私ここで死んだりしない?


「それでは始めます!  第一陣、前へ!」


 号令とともに、十人ほどの男たちが前に出る。彼らは自信満々の表情を浮かべ、それぞれ構えを取った。


「それでは、リディアお嬢様──どうぞ!」


 ──来る!


 思わず目を閉じかけた。が、次の瞬間、身体が勝手に動いた。


 目の前の敵が剣を振り上げる──その動きを本能的に察知し、体をひねる。剣が空を切る音が聞こえ、そのまま無意識のうちに足を踏み出したかと思えば、剣を突き出していた。


「ぐっ……!」


 一撃で相手の剣を弾き飛ばしていた。


 嘘、なに今の!? なんで身体が勝手に動くの!?


 驚く暇も与えられず、次の相手が飛びかかる。けれど剣が自然と動いて、相手の懐へ滑り込む。まるで身体が覚えているみたいに。気づけば次々と相手を倒し、剣が地に落ちる音が響いていた。


「つ、強すぎる……!」

「まさに無双……!」


 これが──この世界の「リディア」という存在の戦闘能力なんだ。


「すごい、すごいぞリディア様!」

「さすがです、お嬢様!」


 確かにすごい。こんなの私じゃない。


「へえ、面白いことをやってるね」


 その声にはっとして振り返る。


「俺もまぜてほしいな」


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