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望んだ結末

***


「今、なんて言ったんだ?」


 ガブリアスから報告を受けたとき、俺はその言葉を呆れながら聞き直した。


「だから、あの女騎士が……リディアが、死んだんだよ」

「……追いかけてきたかと思えば、そんなくだらない嘘を言いに来たのか」


 俺の気を引きたいのだろうが、今は一人になりたかった。


 リディアを殺せない。それは、国の命令から背くことになる。リディアを殺すように仕向けたのはこの俺なのに。今では、張本人である俺が、いつまでもリディアを殺すができないでいる。


 そんなとき、リディアからの屋敷の帰りの途中で、別の馬車に乗っていたガブリアスが追いかけてきた。そして聞かされた話に頭が痛くなった。

 今は彼女のことを考えたくない。このままでいいわけがないとわかっているからこそ、静かな場所で身体を休めたかったというのに。


「そもそもお前には謹慎を言い渡したはずだ。外に出ていたのか?」

「うっ……それは反省してるよ。でも俺だって心を入れ替えたかったんだ! あの日、兄さまに殺されそうになったとき、助けてくれたのがあのリディアだった。だから、せめて礼のひとつでも言いたくて……」

「それでリディアの屋敷を見張っていたのか」

「……その処分は、ちゃんとあとで受けるから! とにかく話を聞いてほしいんだ!」


 たしかに、リディアとの一件があってから、ガブリアスといい、ヴィクトリアもずいぶんと大人しくなったとは思っていた。二人でコソコソしているかと思えば、どうやらリディアに感謝を告げたかったらしい。


 どういう風の吹き回しなのか。二人揃って俺と同じようにリディアを殺したかったはずなのに、今では命の恩人だと思っているような言い回しだ。


「ヴィクトリアにも謹慎をさせていたはずだが、……はあ、まあいい。とにかく部屋に戻れ。話は後日──」

「だからリディアが死んだんだよ!」


 ふざけたことばかりしているガブリアスが、今日は切羽詰まった顔で俺を見据えていた。その目は、冗談を言っているような軽さはない。


「……何を言っている?」

「本当なんだ! 俺とヴィクトリアは自分の目で見た! あの剣がリディアの胸を貫いて……!」


 喉の奥がひゅっと鳴る。心臓が一瞬、凍りついたようだった。


「……嘘だ」


 俺は否定した。ありえない。リディアはそんな簡単に死ぬような女じゃない。何度窮地に追い込まれても、必ず生き延びてきた。そういう女だ。


 でも、あの剣という言葉が引っかかった。


 まさか、呪いの剣が現れたとでもいうのか……?


 ガブリアスの表情は変わらない。むしろ、苦々しげに唇を噛み締める。


「俺だって信じたくない! 俺たちを欺こうと演技でもしてんのかと思った。けど……リディアは兄であるレオを殺して、それから自分にも剣を刺したんだ……!」


 まるで、彼女の死が確定事項であるかのように。


 俺は拳を握りしめた。頭の中で、彼女の姿を思い浮かべる。鋭い眼差し、傷だらけの手、そして剣を構えたときの力強い姿——。


 そんな彼女が、死んだ?


『殺してください』


 俺にそう願ったリディアを思い出す。あのとき、彼女の顔は真剣だった。


 あれは死ぬ覚悟ができている人間の目だった。


「レオは言ってた……母親を殺したのは、俺だって」

「……は?」


 殺したのはリディアのはずだ。それなのに、なぜレオが?


 ガブリアスはあのときの出来事を話した。レオが自白したこと、その罪をリディアになすりつけたこと、そして呪いの剣が現れたこと。


「リディアは強く願ってた。剣が出てくることを……それで、現れたときには、真っ先にレオに向けたんだ」

「……嘘だろう」


 そんなわけがない。もしそれが真実だとしたら、俺はずっと、間違って恨んできたことになる。


「それに、リディアは言ってた。”本物のリディアはここにはいない。私だから、あなたを裁く”って」

「どういう意味だ……」

「わからない。でも、次に見たときには、もう血の海になってて……その中でリディアも、同じように自分に──」


 聞いていられなかった。すぐに戻ってきたばかりの道に馬車を走らせるように命じる。


 リディアが死ぬ?


 そんなわけがない。あの女は死なない。もし死んだとしても俺が殺すはずだった。


 馬を走らせながら、俺の脳裏には彼女の姿が焼き付いていた。頑丈で、強く、決して屈しない女。それがリディアだった。そんな彼女が、本当に自ら命を絶ったというのか?


 リディアの屋敷へと向かう道は妙に静かだった。風が葉を揺らす音すら、いつもより遠く感じる。


 屋敷の入り口に近づいたとき、俺は馬を急停止させた。使用たちは混乱の渦の中にいた。悲鳴が聞こえ、中には泣き出すものもいる。


 ガブリアスが言っていたことが事実だとしたら──


 案内を待たずに、リディアの部屋へと向かう。そして、尾行をくすぐる、あの嫌な匂い。戦場で何度も嗅いだその匂いを、まさかここで嗅ぐことになるなんて。


 リディアの部屋が見えたとき、何かが見えた。赤い布……いや、それは血だ。


 そして、その中央に横たわる人影に息を呑んだ。


「リディア!」


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