表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

28/34

過去と事実

「聞かせてほしいんだよ」


 なぜこうなっているのか、私も知りたかった。


 アーサーに殺してほしいと願ったはずなのに、彼は私の命を奪うことはなかった。もしかしたら、あっさりと殺してしまうことが納得いかなかったのかもしれない。苦痛とともに、私をこの世界から葬ろうとしていたのだとしたら、その機会は今度に回されたのだろう。


 ──けれど。


『考えさせてほしい』とアーサーは力なく残して部屋を出ていった。そこには、殺意の欠片も滲んでいるようには見えず、ただ困惑と、絶望がそこにはあったように思う。


 私はアーサーにどんな報いを受ければいいのだろう。痛みなんてなんでもいい。アーサーが納得する形で、私を殺してくれれば、それが一番ハッピーエンドだと思った。


 ぐるぐると考えながら、いつの間にか眠りについていたらしく、ふと息苦しさで目が覚めた。身体の上に何かがのっているような、そんな重みを感じていると──。


「お、兄さま?」

「ああ、起きたんだ、リディア。ちょうどよかった。俺も、起きてもらおうか悩んでいたところなんだ」


 なぜか馬乗りになっているレオがいた。


「話があってさあ、でもアーサーがいただろ?」


 その名前にハッとする。この男は、ローレンスがアーサーだということを知っている。どうして?

 

「ずっと天井裏から見張っていたから肩が凝って仕方ないよ」


 天井裏……? まさかそんなところからずっと監視していたというの?


 いや、この人ならやりかねない。たとえ何時間と経とうが、平気で私のことをずっと監視していたのだろう。


「それにしても、興味深い話をしていたな。アーサーの母親を殺したってやつ」

「ッ、それは」

「かなり興奮しちまったぞ。たしかにリディアならやりかねないもんなあ。罪なき人を殺すなんて残虐行為は」


 ……それは自覚している。償えるのなら、そうしたいと思う。けれど、簡単に時間を戻せるわけでもなければ、アーサーのお母様を蘇らせることもできない。


「もう、うずうずしちゃってよ。出て行きそうになるを堪えるのに大変だったんだぜ?」

「……あなたって人には、心がないんですか」

「さあな。あるような、ないようなって感じじゃねえか? でもそれはお前だって同じだろ」


 けけ、と笑うその顔は、悔しいけれどリディアにそっくりだった。


 この顔で、この手で、私はアーサーのお母様を殺した。その事実は変えようがない。アーサーに殺されても仕方がない運命だったのだ。


「人の心なんてなんとも思ってないお前だから、俺は好きだったんだよ」

「……出て行ってください」

「嫌なもんか。ようやく狭い天井裏から出てこれたんだ。もう少し話に付き合えよ」


 拒否権なんてものはない。レオが私の身体にのっている時点で、身体に自由はない。


「無駄でもないと思うぜ? なんてったって俺の武勇伝を聞かせてやるんだから」

「必要ありません……私は、あなたと話す気は──」

「アーサーの母親を殺したのは俺だよ」

「……え?」


***



 むしゃくしゃしていたと言えばそれまでだ。


 昔から、剣の腕前は兄の俺よりも、妹のリディアのほうがよかった。父親はそれを早い段階で見抜き、リディアに熱を注ぐようになった。立派な騎士にさせることが最終目標だった計画の裏で、俺は羨ましくその光景を見ていることしかできなかった。


 父さんの気を引きたくて、騎士になれるよう俺なりに努力はしたつもりだった。それでもこの世の中には天才というものが存在してしまう。俺の練習量の半分以下で、リディアは十分に強かった。


 まだ弟なら違ったかもしれない。それでも俺の場合は妹だ。妹が騎士となるべく教育を受けている中で、俺は独学で剣術を磨かなければならなかった。それが悔しくてたまらなかった。


 リディアは騎士団の予備軍として選ばれた。全てが初めての快挙だという。女だということも十二歳で選ばれたということも。


 そのとき、俺がどれだけ惨めだったかリディアは知らないだろう。元々、俺なんて眼中になかったはずだ。それでも悔しかった。どうにかして剣術は俺のほうがうまいんだと思い知らせたかった。


 そんなとき、ある平民の女を見かけた。みすぼらしい格好で森の食材を探しに来ているようだった。ちょうど国境の間であり、彼女はどう見ても隣の国の人間だった。


 領土に侵入していると嘘をついて、女を殺した。リディアでも成し遂げたことはないことを俺はやってみせたかった。


 けれど、それをリディアに見つかった。何をしているんだと罵られ、俺のことを一家の恥晒しとまで言い放った。むかついた。だから、リディアが殺したことにした。ただそれだけのことだ。お前は平民を殺すような人間でもある。そういうことを国中に吹聴してやったが、リディアは全く気にしていないようだった。


 その態度がまた気に入らなかった。


 あとになって、女を殺した瞬間を目撃していた人間がいることを知った。そいつは、俺に「アーサーに本当のことを言わないでほしいなら、金を渡せ」と言ってきた。どうでもよかったが腹が立ったから殺した。おそらくこの人間が、アーサーに母親の最期を教えたのだろう。


 最も、殺した人間がリディアではなく兄である俺だということは言う前には死ぬことになるなんて思ってもいなかったはずだ。


 けれど、俺はまだ運に恵まれていた。なんて言っても、俺が殺した女が、まさかアーサーの母親だったなんて。殺して正解だった。あのときの俺は何も間違っていなかったのだから。


「なあ、リディア。お前、アーサーに惚れてんだろ?」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ