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 私の結婚相手を探すという名目で開催されたパーティーは、野蛮な事件が二件も発生したことで、決して成功とは言えない形で幕を閉じた。


 けれど、それを知っているのはごく一部の人間で、オスカーの件に至っては私しか知らないことだ。


 翌日、私の屋敷にひとりの女性が現れた。


「……この剣を、私にですか?」


 彼女の両手には、見事な細工が施された剣が収まっていた。手土産として剣を持参するとは、なかなか物騒な話だ。しかし、彼女の顔つきは真剣そのもので、決して悪意があるようには見えない。


「リディアさんが愛用されていた剣が行方不明になったと聞きまして。父に作ってもらったんです」

「それは……大変光栄です」


 どうやら、彼女はかつて私が助けた貴婦人らしい。

 

 名は、エレノア。社交界でも評判の良い令嬢で、かの名匠を父に持つ女性だったはずだ。そんな彼女が、わざわざ剣を作らせ、それを手ずから届けてくれたという。


「リディアさんがお使いになられていた剣には及びませんが、この剣もお役に立てるかと思うんです。どうでしょう?」


 エレノアは期待するような眼差しを向けてくる。


 私は視線を落とし、目の前の剣を改めて観察した。素人の私が見ても、それが一級品であることは明らかだった。鍔には精緻な装飾が施されており、刃はどこまでも滑らかに研がれている。触れるだけで切れそうなほどの鋭さだ。


「素晴らしい剣ですね」


 率直な感想が口をついて出る。


 純粋に観賞用として飾っておきたいほどの美しさ。


 ……いや、そもそも私はもう剣を握らないと決めたのだった。その決意を、忘れるわけにはいかない。


 けれど、わざわざ私のために作られた剣を、今さら返すわけにもいかないし。彼女の厚意を無下にするのも心苦しい。


「お気に召しませんか?」


 不安そうに眉を寄せるエレノアに、私は慌てて首を振る。


「え? あ、いえ、そんなことはありません。素敵な贈り物をありがとうございます」


 エレノアの表情が、ほっと安堵に緩む。


 ともかく、彼女の気持ちは嬉しい。なら、せめて飾らせてもらうことにしよう。


「本当に、ありがとうございます。大切にさせていただきます」


 エレノアは満面の笑みを浮かべ帰って行った。


 さて、この剣をどうするべきかと持ち上げたとき、


「リディア?」


 そこに、遊び(監視)に来ていたアーサーが私を見て目を見開いた。


「……もう剣は握らないんじゃなかったの?」

「え?」


 ……そうだった。すっかり忘れていた。

 アーサーには「騎士を辞める!」「剣も握らない!」と豪語していたじゃないか。

 だから私には敵意なんてありませんよと表明したかったのに。


「あ、あのこれは……違うの、なんていうか、ご厚意でもらったもので」

「……やっぱり、リディアは剣から離れられないんだよ」

「え?」


 アーサーの雰囲気が変わった。次に目を合わせた瞬間、彼の手が伸びて剣を持っていた手首を拘束される。


「あれは、俺を惑わすための噓?」

「ち、ちがっ、」


 掴まれた手首に痛みが増していく。カランと地面に落ちる剣の音だけが虚しく響き、私はなんとかアーサーの誤解を解こうと試みる。


「本当にこれは、戦うためのものじゃないの。ここにあるのも、飾ろうと思って」

「そう言って、本当は騎士を辞めるつもりもないんだろう。一体なにがしたいんだ」


 怒っている、ように見える。私が嘘をついていると思っているから。確かにアーサーから見れば、私は殺すターゲットで、その相手の行動を常に見極め、緊張を感じながら演じなければいけない。


 けれど、私はアーサーを殺すつもりもなければ、騎士を辞めたいと本当に思っている。そんなことをしても誰も幸せにならないと読者の私がわかっているから。それなのに、どんな言葉を口にしても、アーサーの心には届きそうにない。


 私が生きている限り、アーサーは幸せになれないのかもしれない。

二人が生きていく未来があればいいと願っていたけれど、それは間違いだったのだろうか。そんなのは現実的ではないの?


 ずっと、二人の幸せを願っていた。ただ戦うためだけに生きているリディアとアーサーは、互いのことを何も知らないまま、ただ殺せと命じられただけで剣を向ける。そんなの、あまりにも辛すぎる。


「私の意志は、……何も変わってない」

「どこが? 剣を握っている姿を俺に見せておいて、よく平気でそんなことが言えるな」

「私はただ、」


 ただ、なんだというのだろう。


 アーサーから見れば、私は裏切り者だ。もしかしたら一度は、信用してくれた瞬間もあったかもしれない。それが垣間見える瞬間は何度だってあった。殺すだけではない感情を、アーサーから感じたことだってあったはず。


 それを、剣を握るという最もしてはいけない好意で裏切った。タイミングが悪かったといえばその通りだ。


 けれどアーサーから見れば関係のないこと。この一瞬の出来事さえ、油断できない場所に私たちはいた。


 自覚が足りていない。こんな自分が嫌になる。


「ごめんなさい……私──」

「こうやって、俺の母親を殺したのか」

「……え?」

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