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どこにいったの?

「……本気で言ってるの?」


 気付けばそう口にしていたのに、答えを聞きたくないと思う自分もいた。どう考えても、アーサーはきっと「本気だ」と答えるだろう。


 けれどそれは、私を殺す前提だ。油断させるための計画のひとつで、私はそれを鵜呑みにしていいわけがない。


「本気だよ」


 ほら、やっぱりアーサーはそう答えるに決まっていた。わかってはいるのに、どうして胸がこんなに痛むのだろう。殺されるからなのか、それともアーサーの言葉が偽りに聞こえないからか。


 彼の名前を呼ぼうとして──


「リディア!」


 廊下から、男二人による「リディア合戦」が聞こえてきたことで空気が壊れた。


「リディアはこっちだ!」「いいや、リディアはこの先にいるんですよ」「まさか、ふざけてるのか?」「ふざけているのはそっちじゃないですか?」


 この声はオスカーとレオだ。二人で探しに来てくれたらしい。思えばホールに置き去りにしてからというもの、ずいぶんと時間が経っているはずだ。


 まさか私が襲撃に遭っていたとは思いもしないだろう。アーサーは二人が来る前に、パッと離れていく。その顔はいつもの微笑みが浮かんでいたけれど、それでも「本気だよ」という言葉が、やけに耳の奥に届いて離れていかないような気がした。


***


「で? どうしてアーサーと一緒にいたのか教えてもらおうか」


 そして今、私はオスカーに追い詰められている。あれから、アーサーと二人でいるところをオスカーとレオの二人組に見つかり、レオはアーサーを、そしてオスカーは私を尋問することに決めたらしい。


 アーサーのことだから、レオを相手に飄々としていそうだから大丈夫だとは思うけど……問題はこっちだ。オスカーは私を壁に追いやると、ぐっと顔を寄せてくる。


「まさか、まさかとは思うけど、僕を差し置いてアーサーとお楽しみ中だったわけじゃないよね?」

「ま、まさか。それはない」

「じゃあ、どうして髪やドレスが乱れているんだよ? ううん、大丈夫、言わなくていい。乱れたことは乱れたけど、でもそれは、ただ歩いているだけでもそうなるよね」

「えっ? あ、うん、そうなの。歩いていただけで」

「んなわけあるかーーーっ!」


 情緒不安定!

 自分で吹っ掛けておいてそれはない。元々キャラが濃い以外はあまりオスカーのことを知らないけれど、私を見るその顔は真剣そのものだ。


「ねえ、リディア。俺は今日のパーティーだって傷ついたんだ。僕という存在がいながら、結婚相手を探すなんてあんまりじゃないか? それでもリディアが幸せになれるならいいって一度は飲み込んだよ。さっさと吐いてしまったけど」

「吐いちゃったんだ……」


 そのまま飲み込んでくれたらよかったのに。オスカーはリディアに対する愛がいろいろな意味で重い。


「リディアは僕と結婚したほうが絶対幸せになれると思うんだよ、確信してるんだ」

「そ、そうね?」

「でも邪魔者がいっぱいだろう? だからリディアが、さっさと他の男を斬っちゃえばいいんだよ」

「……ん?」


 すごく楽しそうに言ってるけど、それって満面の笑顔で言うことではないよね?

 

 そもそも自分が斬るんじゃなくて、私に片付けさせようとしているところもなかなか鬼畜だと思うけれど。おそらくそんなことは変だと思っていないのだろう。確かに力で言えばリディアのほうが圧倒的だとは思う。


「リディア、僕は本気なんだ……」

「オスカー?」


 俯いた彼は、やがて顔を上げると、その目にはたくさんの涙を浮かべていた。うるうると、今にもこぼれそうなその涙を私に向けながら、気付けばオスカーの手が私の首をしめていた。


「うっ……」

「リディア、はあ、愛しのリディア! もういっそ、ここで死んでしまったほうがいいのかもしれない。大丈夫だよ、僕もすぐにあとを追うからね。僕は他の腰抜けとは違って、死ぬのが怖くないんだ。だってリディアにいつも虐めてもらっていたからね。リディアに与えてもらう痛み以外は痛くもなんともないんだ。すごいでしょう? ちゃんとリディアに染まってるでしょう?」


 オスカーの頬に、いくつもの雫が流れていく。それなのに、その顔は笑っていた。


「リディアだって、僕と離れるのは寂しいはずだから。大丈夫、ずっと一緒だよ。いつまでも一緒だ。一人になんてさせない。あと、他の男も近付けさせない。リディアは僕のものだ。死ぬまでも、死んでからも僕だけのものだよ」

「ぐっ……や、め」


 ああ、こんなことばかりで。一日で何度、死にそうな思いをしなければならないのだろう。オスカーの指が、より一層皮膚に食い込む。苦しくてもがいても、オスカーをはねのける力がない。


「ねえ、最期に僕のことを好きだって言って? きっと向こうの世界でも聞けるだろうけれど、こっちの世界では言ってもらったことがないからさ。ね、お願いだよ」

「は、な」

「ん? なんて? す、だよ、す。口を萎めて言うんだよ。ほら言って。それとも、最期まで焦らしプレイでもするの? それもそれで萌えるけど……あ、でも確かめておきたいことがあったんだった」


 オスカーは、更に私との距離を縮めてこう言った。


「本当のリディアはどこにいったの?」



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