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お楽しみはこれから

「あの夜って……」


 一体なに!?

 にこりと微笑むその顔を見て、ようやく確信犯なのだと気付く。


「からかわないで、ローレンス」

「隠すことないと思うけど。二人で朝を一緒に迎えたことは今までだって何度も──」

「ストップ! それ以上は言わないで」


 ややこしくなるから。

 しかし時すでに遅しとはこのことだ。オスカーもレオも、そしてヴィクトリアも目をぱちくりとさせながら状況を理解しようとしていた。


「い、いいいいい今、貴様はなんて言ったんだ!? 朝を一緒に!?」


 オスカーは慌てふためき、


「……俺の前で妹に手を出すとは、お前、死にたいようだな」


 レオは怒る狂う波を必死で抑えようとしながら、アーサーを睨みつける。


「……」


 ヴィクトリアだけは、目を丸くし固まってしまっていた。それもそうだ。ここにいるメンバーは、一応、私に好意を抱いているメンバーが残っている。まして、今日のパーティーの目的は、私の結婚相手を探すというものだった。


 それなのに、颯爽と現れた美男子があろうことか「あの夜」だとか「二人で朝を」などといった耳を塞ぎたくなるような言葉まで出てくる始末だ。


「……ごめんなさい、ちょっと」


 この場合、私にできることはと考えた結果、その場を退散するということしかなかった。私がいなくなることで事態が休息するとも思えなかったけれど、かといって私一人で対処できるはずもない。


 ホールから離れ、近くの控え室へと入る。ソファーにぐったりと座りながら頭を抱えた。この展開も小説にはなかった。ということは、私が変えてしまっているということだ。だからこそ何が起こるか予測できない。


「はあ……とりあえず戻ったら皆にどう説明しよう」

「へえ、ならばお聞かせくださいな」


 可愛らしい声が聞こえてハッとする。今まで物音ひとつしなかった。もちろん、誰かが入ってくる気配も感じられなかったのに。


「ヴィクトリア……」


 そこには、ホールにいたはずの彼女が微笑んで立っていた。


「酷いじゃないですか、リディアさん」


 一歩、また一歩と近づく度に、彼女が着ている真っ赤なドレスが煌めく。たしかに笑っているはずなのに、彼女の顔はまるで氷のような冷たさを感じた。


「私という婚約者がいるのに、大勢の前であんな裏切り行為をするなんて」

「ヴィクトリア、その、あなたの気持ちはうれしいけど──」

「あの人と朝を迎えるのは私だったのに!」


 ……え。

その顔は、笑みから怒りへと瞬時に変わった。


「どうしてリディアさんと? 私とはデートすらしてくれないのに。婚約者を放っておいて、どうしてこんな女と?」

「い、一体何が……」


 逃げなければ、そう思うのに身体が動かない。ソファーに座る私を見降ろすヴィクトリアは、ガシッと私の髪を乱暴に掴む。

 そもそも、彼女の婚約者は兄であるレオではなかったの?


「あの人とどんなことをしていたの!?」

「いっ──」


 私に好意を向けてくれていたことがまるで嘘のように、目の前の彼女は恨めしそうに私をきつく睨んでいた。


「答えなさい。あの人とはもう一線を越えたってことなの!?」

「そんなことは……っ」


 よくわからないけれど、ヴィクトリアは私に好意を抱いているというわけではないことは確かだ。


「ねえ……ヴィクトリア、婚約者ってどういうこと?」


 ”あの人”とは、つまりアーサーで間違いないだろう。けれどアーサーが誰かと婚約していたという話は聞いたことがない。小説の設定でも忘れてなければなかったはずだ。


「そうよ、羨ましい? 英雄騎士である……ここではローレンス様だったわね。その人と結婚するのは私なの。そう決められているのに、どうしてあなたと一緒にいないといけないわけ?」


 むしろ私が知りたいぐらいだ。ヴィクトリアは私を好きだったわけではない。指示を受けて私と一緒にいた。


「……ローレンスに言われたの?」

「当たり前でしょ。言われなかったら、こんな国にも足を踏み入れたくなかったのに。それでもローレンス様が、婚約の条件としてあなたに近付けって言われたからそうしてただけ」


 まさかアーサーからの刺客だったなんて。ヴィクトリアという存在がなかなか思い出せなかったけど、おそらく私にとっては敵なのだろう。

 そして、アーサーが私のことを殺さないでいてくれるかも、という期待も見事に打ち砕かれた。

 やっぱりアーサーは私を殺すことを諦めていない。だからこそヴィクトリアという刺客を紛れ込ませていた。


「はあ、もう嫌になっちゃう。でも大丈夫なのよ、いろいろと準備はしてきたつもりだから」


 髪を逆立てるような勢いで怒っていたヴィクトリアが、途端に鼻歌まじりで顔を綻ばせる。


「ふふふ、私がただノコノコとここに来たと思う? あなた、一応は騎士に所属しているわけでしょ。力技で勝てないことなんかわかってたから、助っ人を呼んでおいたの」


 このまま終わらせないらしい。「どうぞ」と可愛らしい声を扉に向けたかと思うと、まるでそれが合図だったかのように続々と男が入ってくる。


「さっきの……」


 ホールにいた招待客だ。その数はざっと十人程度。


「もしかしたら、この数でもリディアさんは楽勝かもしれないけど──でも、剣があってこそって私知ってるの」


 そうか。アーサーが呪いの剣に詳しかったように、隣国の人間であるヴィクトリアもまた、私の剣のことを知っているのか。


「剣は行方不明だって聞くし、手元にはないんでしょ? だったら、今のうちにいろいろとしておいてもらわないと」


 ヴィクトリアは楽しそうに男たちを見る。


「さっ、準備は整ってるから、リディアさんを早く楽しませてあげて」

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