寵愛される女騎士
「リディア、結婚相手を探すパーティーをするなんて酷いじゃないか。このオスカーという完璧な幼馴染がいるというのに」
「おい、ただの腐れ縁は黙ってろ。兄としてお前のような人間がリディアの幼馴染として名乗っている時点で虫唾が走っているんだ」
「まぁリディアさん、今日はいつにも増してお美しいです。ヴィクトリア、今日はリディアさんと一緒に過ごせるのを楽しみにしていたんです」
なんというか、カオス状態だった。ばあやが仕込んだことなのだろう。私の結婚相手の候補を余すことなく招待している。
そうでなくとも、このメンバー以外にも「リディアさまーーーッ!」と雄叫びをあげているものもいれば、「俺こそがあの有名な女騎士に相応しい」と謎に豪語している男もいた。
「……ええと、皆さん揃って出席していただけてうれしいわ」
ひとまず愛想だけでも振りまいておこうとしたが、その瞬間、まるで空気が変わったかのように静寂となった。
「リディアが笑ってる……」
怖いものでも見たかのように、兄であるレオが慄いていた。そしてガシッと私の肩を掴む。
「なあ、リディア。いつもの威勢はどうしたんだ? 結婚相手を探すようなパーティーなんて今まで断固として開催しなかったじゃないか。あのババアが関係しているんだろうが、俺は認めないぞ。結婚なんてリディアには早すぎる! なあ、兄さんと結婚できるようこの国の法律を変えるから、それまでは焦るんじゃない」
「……ええと、お兄様、落ち着いてください。皆さまに失礼ですよ」
なんとかレオの暴走を止めたい思いで、消えかけそうな笑みをなんとか堪えると、またしてもレオの目は驚愕と言わんばかりに見開いた。
「お、お兄様……いつもはレオと呼び捨てにするのに……この前からおかしいとは思っていたが、やはりリディア、様子がおかしいぞ。こんな状態で結婚なんてやっぱりやめたほうがいい! 中止だ中止!」
「気色悪いシスコンは黙っててくださいよ。リディアはようやく俺と結婚する気になったんですから。ね、リディア?」
「……オスカー。気持ちは嬉しいけど、今日は結婚相手を探すつもりでパーティーを開いているから、あなただけの特別扱いするわけにはいかないわ」
穏便にと思ってはいたが、今度はオスカーまでもが、まるでお化けを見たような顔をする。
「あの馬鹿兄貴には同意したくなかったけど、やっぱりどうしちゃったんだよ、リディア。いつもなら俺を迷うことなく斬っていただろう!? オスカーなんて気色悪い!がいつもの口癖だったじゃないか」
なんて酷い扱いを受けているの。しかも斬っていたって何? まさか本当に身体を斬っていたなんてことはない……よね?
「いいじゃないですか、ヴィクトリアはリディアさんの結婚に賛成ですよ」
「ヴィクトリア……」
「男が何人いたって構わないですから。これが女だったら、ふふ……殺していたかもしれないですけど」
可愛らしい顔でなんてことを言い出すのだろう。ここにはまともな人間がいないのか。ヴィクトリアに声をかけようとしたとき、周囲が微かに色めきだったのがわかった。
「リディア」
とても綺麗な声がホールに響く。オスカーもレオも言葉を失っていた。あのヴィクトリアでさえ、さっきまでの饒舌さはどこにいったのか。見間違えかもしれないが、その顔がほんのりと赤く染まったような気がする。
そして振り返った先に──
「……ローレンス」
「少し出遅れてしまったみたいだ。すまない」
アーサーは、まるで物語から抜け出してきたような完璧な装いだった。漆黒の軍服を思わせるロングジャケットに、金糸で繊細な刺繍が施されている。
腰には細剣を備えている。実戦用ではなく、格式を示すもの。その刃はアーサー存在感をより一層強めていた。
そんな彼が静かに微笑んだ瞬間、まるで場の空気ごと支配するかのように、周囲のざわめきが止んだ。
「どうしてここに……?」
「どうしてって、リディアが主催するパーティーに出席しないわけがないだろう」
隣国の人間でありながら、招待客として紛れられたのには、誰かしらの援助があったはず。たしか、こういうシーンは小説に出てきてはいたけど、それが誰だったのかは思い出せない。最も愛していた小説というわりには、そこまで覚えていないあたり、名乗る資格はないかもしれない。
けれど、あまりにもアーサーだけは別格だった。オスカーもレオもそれなりに顔は整っているのに、並んでしまえばアーサーのとびぬけた美しさに叶うものはいない。
「リディア、結婚相手を探しているというのは本当?」
「……ええ」
「本当だったのか」
アーサーは、一瞬傷ついたような顔を見せ、それから悲しげに微笑んだ。
「それじゃあ、あの約束も忘れてしまったんだね」
「約束?」
「あの夜のことを思い出してほしいな」




