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とんでもない来客2

「レオ様、お待ちなさい……!」


 そこにいたのは、息を切らした水色の髪をした十六、十七歳ぐらいの少女。彼女はキッとこちらを睨むと、ずんずんと躊躇いもなく歩いてくる。


「ヴィクトリア! どうしてお前がここに!?」


 レオは突然の来客に飛び上がり、私から離れていく。


「どうして? それはこちらのセリフです。まさかここにいるなんて聞いて呆れます。私という女がいるのに、なぜそのような酷い仕打ちを?」

「いや、これには訳があって」

「言い訳は結構です!」


 話の流れからして、彼女はレオの恋人らしい。


「考えられないです、妹であるリディアさんにまだ手を出そうとしているなんて。あなたには常識というものがないのですか!」


 もしかするとこれは修羅場なのでは?


 今はレオがターゲットになっているとはいえ、怒りの矛先は私に向けられてもおかしくはない。


「はあ、本当に信じられないのですが──」


 ヴィクトリアの顔が、今度は私に向けられ、いよいよ覚悟はしたというのに、


「よかったです、愛しのリディアさんがご無事で」


 その顔は、怒りではなく、どこかうっとりするような表情を浮かべていた。


「え?」

「こんな薄汚い兄を持つ可哀想なリディアさん。でも安心してくださいな、私が来たからにはもう大丈夫ですから」

「……うん、そうみたい」


 とりあえず、兄から強引に迫られるというトラブルは回避できたらしい。でも、ヴィクトリアって名前はどこかで見た覚えがある。

 大好きな小説だったとはいえ、読んでいたのは十年も前だし、それに読み返せるほどの勇気もなかった。それゆえに曖昧な部分が多くて困ってしまう。


 ヴィクトリアのおかげもあり、レオは追い出されるように部屋を出て行った。「覚えとけよ……!」と史上最高にダサいセリフを残しながら。


「それにしてもリディアさん、お身体は? 目覚めたばかりだと聞きましたけど」

「そうなの。だからまだ……ちょっと思い出せないことも多くて」


 というテンプレになりつつセリフはこれからも何度口にしていけばいいのだろう。「まあ」と口元に手を当てる上品さを見せたヴィクトリアは「本当だったのですね」と次第に顔を曇らせた。


「信じられなかったのです、リディアさんが記憶喪失になっているなんて」

「いや、まあ記憶喪失ってほど大袈裟なものでもないんだけど」


 あくまでも覚えていないシーンや、小説の中になかった話はという意味合いだ。それでもこの話をすると困らせてしまうのも事実だから黙っておいたほうがいいかも。


 それにヴィクトリアが相手であれば、多少なりとも落ち着いて話ができるかもしれない。私のことを好いてくれてはいるようだし、ここはうまく利用させてもらって──


「なら、私たちがひっそりと愛し合ったことも覚えていないのですね」

「……ん?」


 今、なんか聞こえたような気がする。さすがに幻聴か?


「わかっています、許されない恋ということは。それでも、私はリディアさんが好きで、リディアさんも私を好きだと言ってくれた。それは紛れもない事実なんです」

「……ええと、私たちは友人の関係ではなかったの?」

「友人以上だったじゃないですか! キスも、一つや二つはしていましたし」


 一つや二つってなんだ。何をしているんだ、リディア。嘘でしょ?


「本当に覚えてはいないのですね……わかってはいたことですが、やっぱりショックですね」


 ぐすりと泣きだしそうなヴィクトリアの背中をさする。


「あの、確かに覚えてはいないけど……でも、うん、大切な存在だったとは思うから、そんな泣かないで」

「うっ……記憶をなくされてもリディアさんはお優しいのですね」


 うるうるとした目で見上げられる。……うん、確かに同性としても可愛らしいとは思う。顔立ちだって整っているから男からも言い寄られることも多そうだ。それなのに、どうしてリディアのことを好きなのか。


 思えば、転生してからというもの、会う人のほとんどがリディアとは特別な仲だったと言い出す。

 ……ハーレムとはこのことを言うのね、きっと。


***


「兄さまったら、まだあの雑魚リディアを殺せないでいるのか?」


 リディアの屋敷から帰る馬車では、高確率で義弟が乗車している。そのことにうんざりするが、このままワガママを形で表したような男を注意できる者はいないのだろう。


「殺せないんじゃない、殺さないだけだ」

「うっそだァ。もしかして女騎士に本気になっちゃってるんじゃないの?」

「黙れ」


 そんなわけがない。ただ、俺が知ってるリディアではないことに躊躇いが生じているのは事実だった。


 前のリディアは、子ども嫌いで有名だった。リディアに憧れて騎士団に入りたいと言った少女に「お前のようなガキが入るところではない」と言い放っていた。


 それなのに、二週間前、男たちに襲われたリディアは子どもを庇っていた。その少女を必死に守り、それでも剣の呪いに打ち勝てないとわかった瞬間、迷うことなく自分の腕に剣を突き刺した。しかも自分の右腕だ。


 剣を持つことを第一に生きてきた女。稽古以外の身の回りの世話は全て使用人にやらせていたという。しかも人使いが荒く、リディアに怯える使用人が多かったというのに、ここ最近は人が変わったようなリディアに憧れを抱く者も多いと聞く。


「もしかして、兄さまは呪いの剣だけを持って帰ればいいなんて思い始めてはないよね?」

「なんのことだ」

「国王からの命令だよ。呪いの剣を自分たちの国のものとし、その所有者を殺すこと。まさか忘れたわけでもないだろ」

「当たり前だ。わかってる」


 そう、わかってはいる。そのために、これまで好きでもないのに、まるでリディアに好意を持っているような振舞いを見せてきた。全てはリディアを油断させるために。


「あんまりノロノロ恋人ごっこなんてやってるぐらいだったら──ヴィクトリアの出番になるよ」

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