呪いを解くなら
アーサーは落ち着いた様子でカップに口をつけた。
「……剣は、ローレンスが持っているの?」
使用人たちが出て行ったタイミングで、私はいよいよ本題に入った。けれど、アーサーはまるで聞かれるとわかっていたような顔で首を横に振る。
「やっぱり、リディアは何も知らないんだね。あの剣のことも、その剣がどうなったのかということも」
「どういうこと?」
「あれは呪いの剣と言って、俺の国では古から恐れられてきたものなんだ。そして、その剣は誰にでも扱えるわけじゃない。剣が、所有者を選ぶとされている」
アーサーが何かしら知っているとは思っていたけど、まさか隣の国でそういった言い伝えがあることは知らなかった。
「そして、その剣は数百年、姿をくらましたままだった。決して人目にはつかないところに封印されているんじゃないかというのが有力候補とされていたのに」
「……私が持っていたということ?」
ああ、とアーサーは苦々しい顔を見せる。
「まさかリディアが持っているとは思わなかったよ。俺のことをごろつきから守ろうと颯爽と現れた君が、まさか呪いの剣を持っていたなんて……確か、目覚めたら枕元にあったと言っていたよね?」
小説でも、剣について深く触れられたシーンはなかった。剣の名前もないし、ただ屋敷にある剣を使っているものだと思っていたけど。
「私が前に言ってたら、そうだと思う……ごめんなさい、記憶がまだ曖昧で」
「いや、いいんだ。俺もまさか、本当に呪いの剣だとは思わなかったから」
「ローレンスはどうしてあれが呪いの剣だとわかったの?」
まるで見た瞬間から、そうだとわかったような口ぶりだ。
「……血の色に染まる」
「え?」
「リディアが剣をふるったとき、剣が赤く染まったんだよ。それは人の血ではなく、剣そのものが赤く光るように。だからリディアは呪いの剣に選ばれた人だとわかった」
だからアーサーは確信したってわけか。剣が赤く光るなんてそもそも考えられないのだから。
私も、この世界に来てからというもの、やたらと剣を見るけれど、それでも赤く染まるような剣なんて見たこともない。
まさか、あれが呪いの剣だなんて思わなかった。
「呪いの剣は、所有者の命や身体を蝕むことでより強固な存在になると言われているんだ。今まではリディアと剣がそれほど共鳴してなかったから大丈夫だったと思うけど、あの戦いでは明らかに剣と一体になっているように見えた」
必死に「離せ」と言っていたアーサーを思い出す。やっぱりあれは、演技だったとは思えない。
「じゃあ、その剣はローレンスが持ってくれているのね」
「いいや」
けれど、その答えは即座に否定された。
「信じてもらえないかもしれないけど、あの剣はリディアの意識がなくなったと同時に──消えたんだ」
「消えた?」
「そう、どこにもない。くまなく探してはみたよ。それでも、まるで消失したかのように消えたんだ。俺も、あんなのを見たのは初めてだ」
……アーサーが嘘をついているようには見えない。だとしたら、私の剣が消えたということは事実の可能性が高いのかも。
「教えてくれてありがとう。でも、あの剣を使わなければ問題ないはずだから」
そもそも、私は騎士をやめる。だとしたら必然的に剣は持たなくなるし、戦うこともなくなる。今回はイレギュラーで、やむを得ない形で戦ったけど、これからこんなことばかりでもないはずだ。
それでもアーサーは「ううん」とまたも否定した。
「あの剣を使わないことは、リディアには無理なんだよ」
「どうして?」
「剣はリディアを選んだ。選ばれたものは、死ぬまで戦い続けなければいけない。あのときのことを思い出してほしい。リディアは木の棒を持っていたはずなのに、気付けばあの剣を持っていたんだ」
そうだ。どうして気付かなかったのかと不思議になるほど、剣は目立つような場所にあった。突然現れたみたいに。私に「使え」と命じているみたいに。
その剣を迷わず手にしていた。けれどそれは、呪いの剣だと知らなかったからだ。
「大丈夫、使わなければいいだけでしょう?」
「言っただろう。選ばれたものは死ぬまで戦い続けるって。リディアは、剣に逆らえない。だって、剣を離したくても離せなかったはずだよ」
「それは……」
確かに言われてみればその通りだ。私はあの剣を離したくても離せなかった。身体と思考はバラバラだった。
「でも、解決策がないわけじゃないんだ」
アーサーは、じっと私を見て捉えた。
「リディア、キスをしてもいい?」




