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剣にまつわる噂

 誰かが囁くように話しているのが聞こえていた。


 そこにいるのは誰……?


「……問題ない。そのことは……ああ、そうだ、計画は続行する──」


 計画ってなんのこと?


「リディアのことは必ず殺す。それが約束だったからな」


 聞き覚えのある声。でも殺すって……私は誰に殺されるの?


 すぐそばで私を殺すという話し声が聞こえているのに、瞼が重く、開けることができなかった。起きなきゃ、起きなきゃ、そう思えば思うほど、まるで術でもかけられているかのように眠りに誘われる。


 そこにいるのは、一体誰なの?



「誰……!?」


 がばっと起きたとき、私は寝室にいた。


「まあ、リディアお嬢様! お目覚めになられたのですね」


 たまたま近くにいたのか、ばあやが駆け付けてくれた。目には涙さえ浮かべている。


「もうずっとこのままかと……心配で夜も眠れなかったのです。リディアお嬢様がお目覚めになって本当によかった」

「……ありがとう。今回はどのぐらい眠っていたの?」

「二週間です。お医者様によれば、腕の怪我はあってもここまで意識が戻らないと仰っていたんです。何か別で精神的なストレスが関係しているのではないかと」


 精神的といえば、私がリディアに転生してしまっていることが大きな原因だとは思うけれど。とはいえ二週間はあまりにも長い。


「そうだ、国王の呼び出しは?」

「延期になりました。国王も今回のリディアお嬢様が襲撃されたことについては重く受け止めているようです。襲った男たちはローレンス様が捕らえてくださったようですが、未だに誰の指示でリディアお嬢様を狙ったのかは口を割らないようでして……」

「そうなの……」


 あのあと、アーサーがどうにかしてくれたのはわかる。けれど、男たちに指示をしたのがアーサーではないとは言いきれない。彼は私の前ではいい人の顔をしているけれど、本当は私を殺すように命令を受けているはずで。


 だとしたら、アーサーに捕らえられている男たちも今では解放されているかもしれない。


「それで、リディアお嬢様には残念なご報告がありまして……」


 これまでの話よりも、ばあやの顔色は一層暗くなった。


「どうしたの……?」

「実は、リディアお嬢様の剣が、あの事件以降行方不明となっているんです」


 その瞬間、男たちと対峙していたときに感じた剣からの呪いを思い出してぞっとする。


「剣が、なくなったのね」

「……はい。懸命に捜索はしている最中ですが、二週間経つ今でも手がかり一つ見つからない状況です」


 ということは、アーサーが持って帰った可能性が大きい。なぜなら、小説では剣の呪いなどという設定は出てこなかった。それなのにアーサーはあの剣に呪いがかかっていることを知っていた。


 一体何が起こっているのか理解できていない部分はあるけど、男たちのことも、剣のことも、アーサーが無関係だということはないはずだから。


「ねえ、ばあや。ローレンスは私が眠っている間に遊びに来てくれていた?」

「ええ、何度かいらっしゃってましたよ。内密にしてほしいということでしたから、私以外は知らないかと思います」

「そう……」


 それなら、あの話し声もきっとアーサーなのね。私を殺そうとしているアーサー。だというのに、私に好意的な行動を見せるのは、私を油断させるためだとわかっている。


 だけど──。


『リディア!』


 あのとき、何度も私を呼んだアーサーの顔は、とても私に殺意を抱いているような人がする顔ではなかった。


 まるで本当に心配してくれているみたいで……。

 なんて都合よく考えたらいけないのかもしれないけど。今はアーサーとの距離を少し考え直す必要があるかもしれない。


「まあ、噂をすればですね」


 そんなことを考えていたら、ばあやが窓を見て微笑んだ。


 まさか……。


 コンコンとノック音が聞こえ、いつの日かこんなことがあったなと思い出す。


 ばあやは「あとはお若い人たちで」と手元に口を当てて部屋から出ていく。それを見送ってから、やってきた来客を迎えるために笑顔を作り出す。


「ローレンス、来てくれたの?」

「今日も眠っているのかと思ったけど、まさか起きてるリディアに会えるなんて夢みたいだ」


 アーサーは感激したように言うけれど、その心の内が本音ではないとわかっているからこそ心苦しいものがある。


「……ありがとう。何度か遊びに来てくれていたとばあやから聞いたばかりで」

「本当は毎日会いに来たかったぐらいだよ。身体の具合はどう?」

「意外と大丈夫みたい。たくさん寝たおかげだと思うわ」

「よかった。ああ、そうだ、リディアに渡してほしいと言われていたものを届けるよ」


 アーサーは思い出したかのように、手元からひとつの花の栞を取り出した。


「これは……?」

「リディアが命がけで守った少女からだよ」


 朧げな記憶の中で、懸命に駆けていく背中を思い出す。


「……そう、無事だったの」

「もちろん、リディアが守ったんだから。あれから数日経ったころかな、この屋敷の前でウロウロしているのを見かけて声をかけたら、これを渡したいって」


 決して完璧とは言えない栞。それでも一生懸命作り、お礼を伝えたかったという気持ちがこもっているような気がする。


「……私も、お礼を伝えられたらいいんだけど」

「それなら俺が少女を探してみるよ」

「いいの?」

「リディアにはまだ安静にしててほしいからね」


 その気遣いも、そのまま受け取れたらどれだけよかっただろう。小説の設定を知らなければ、まさかこの人が私を殺そうとしているなんて夢にも思わなかっただろう。


「リディア?」

「え?」

「ボーっとしてたけど、やっぱり万全じゃない?」

「ッ、そんなことはないの。あまりにも嬉しかったから」


 ぱっと笑うようにすると、アーサーの目が少しだけ見開いた。


「……そっか。あの少女も喜ぶと思うよ。もしリディアの体調が問題ないようだったら、少し話す時間をもらってもいいかな?」


 時間と言われるとつい身構えてしまう。どのタイミングでアーサーに殺されるかはわからない。部屋に招き入れた瞬間に剣でグサリというパターンもないわけではないし。


「ええ、もちろん。話って?」

「──リディアの剣のことだ」


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