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助ける方法

 体が戦い方を覚えていると思っていた。でもそうじゃない。


 リディアとして生まれ変わった私は、剣の扱いに困ることはなかった。どれだけ久しぶりに握っても、どんな状況に追い込まれても、体は自然に動いた。


 でも、覚えていたのは剣のほうだった。


「私の意思じゃない……!」


 背筋を冷たいものが駆け上がる。まるで剣に身体をコントロールされているみたい。


「リディア!」


 アーサーの叫びに意識が引き戻される。彼の剣が、私の一撃をギリギリで弾いた。


「その剣は、もう戦いの記憶に縛られている! このままじゃ──」


 アーサーが言いかけた瞬間、ゴホっと咳き込むように何かが出た。


「……え?」


 気づけば、口から血が溢れるように出ていた。


 ──戦うほど、命が削られる。

 ──剣を振るうほど、私が死に近づいていく。


「……嘘でしょ」


 このまま戦い続けたら、きっと私は死ぬんだ。その代償として、強さを手に入れていた。最強の女騎士と言われていたリディアには、いつだってあの剣があった。だとしたら、リディアのあの強さは彼女自身のものだった? それとも剣によるもなのだったの?


 ただ今は、剣を手放すことだけに集中しないといけない。


「お願い……」


 そう呟いて、必死に剣を手放そうとすれば、まるでそれを拒むように今度は守らなければいけないと思っていた少女に矛先を向けた。


「なんで……っ」


 あろうことか、この剣は子どもなど関係ないといった様子で狙いを定めていた。


「お、ねえ……ちゃん?」


 はたから見れば、今にも私がこの子を殺そうとしているように見えるだろう。こんなことはしたくない。


「……アーサー、お願い、この子を遠くへ逃がしてあげて」

「ッ!」


 私の言葉に、アーサーは信じられないとでも言いたげな顔をしていた。


「お願い、早く」


 それでも、私自身が少女を離そうとしなかった。身体と思考が全く別人でしかなかった。私の意志では、この身体を、この剣をコントロールすることはできない。


 このまま最悪の結果を迎えることになったら──。


 一瞬、少女が血まみれとなり倒れている光景が浮かぶ。ただ巻き込んでしまった一人の子どもを、私が殺してしまう。そんなことだけは避けたい。


「……アーサー、お願いがあるの」


 私は迷わなかった。


「今から私がすることに対して、一瞬でも隙が生まれるようだったら、この子を逃がしてあげてほしい」

「何を……するつもりなんだ」

「見てたらわかる。ああ、でもその子の目は隠してあげてほしい。見せるべきではないと思うから」


 アーサーはわからないといった様子ではありながらも、なんとか頷いてくれた。


 よかった、あとは私に覚悟があるのかどうか。自分の身体はもう剣に乗っ取られているようなもの。


「……それでも、これは私の身体よ」


 誰のものでもない。私だけの身体。簡単に乗っ取られてたまるものか。


 話すのも、立っているのもやっと。冷や汗も止まらない。それなのに、これからすることに怖気づいている自分もいる。


 ……やらないと、怖がってる場合じゃない。


 少女を守ることができないのなら、 答えは一つしかなかった。

 私は、ごろつきの男たちが持っていた剣をすかさず手にして、反対の自分の腕に刃を突き立てた。呪いの剣を持つ右腕に。


「うっ……」


 あまりの痛みに、声が出てしまいそうになった。それでも少女に何が起こっているのか知ってほしくなくて必死で堪える。


「リディア!」

「この子を……早く!」


 アーサーは私の行動にひどく驚いた顔を見せながらも、お願いしていた通りに少女を私から引き離してくれた。


 よかった……けど、鈍い痛みと、焼けつくような熱が走る。剣は、まるで抵抗するかのように、私の手に絡みついて離れない。

それでも、私は力を込めた。


 手放せないのなら、動かせなくしてしまえばいい。


 血が溢れる。


 ああ、だめだ。この剣はまだ諦めない。必死で誰かの命を奪おうとしている。私は剣を押し込んだ。


「ぐ……ぁっ……!」


 喉の奥から、押し殺したような悲鳴が漏れる。 視界が霞む。こんなにも痛い思いをしたことはなかったかもしれない。


「これで……戦えない……もう……誰も傷つけない……」


 私の腕から剣が抜ける。 それに呼応するように、剣の呪縛も弱まった気がした。だんだん意識が遠のく。


 このまま、倒れてしまいそうだ。でもそれでいい。私が意識を失えば、きっと誰も傷つかないはずだから。


「リディア!」


 アーサーの声が響く。 私はただ、最後の力を振り絞り、駆けていく小さな背中を見つめる。


「遠くへ……危険がない、遠くへ、逃げて」


 そう言い残して、私は静かに意識を手放した。


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