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どうすればいい?

 剣の矛先は私ではなく、後ろの男たちに向けられていた。しかもいつの間にか人数が増えている。


「全員リディアを狙ってるみたいだけど、知らない間にずいぶんと人気者になったみたいだね」

「そんなこと言ってる場合じゃなくて……!」


 ここにはまだ小さな女の子がいる。この場に巻き込むわけにはいかないのに。どうにかして、この子だけでも逃がさなくては。


 そのとき、視界の端で何かが煌めくように輝きを放った。


「え……? 私の剣?」


 ここにあるはずのない剣が、なぜか木箱の上に置かれている。


 アーサーが持って来てくれた?


 ……いや、そんなはずはない。

だとしたら、あの男たちの誰かが?


 考えれば考えるほど、それは全てあり得ないで片付けられる。いや、そもそも考えてる場合じゃないか。どうしてあるのかはわからないけど好都合だ。


「ほら、行こう」


 アーサーは女の子の手を取ろうとした。けれど、その瞬間──


「させるかよ!」


 背後から男たちの一人が飛びかかってくる。


 とにかく剣を……!


 とっさに剣を構え、迎え撃ってはみるけれど、攻撃を受け流すのが精一杯で、まともに戦える状況じゃない。


「リディア、こっちは俺がやる。その子を守って」


 アーサーの声にハッとして、小さな女の子を抱き上げる。敵の包囲がじわじわと狭まり、逃げ道がなくなっていくのを感じた。


「……っ、アーサー!」

「大丈夫。逃げ道は俺が作るから」


 次の瞬間、彼の剣が風を切るような速さで男たちを圧倒していく。私はその間に女の子を安全な場所へ──そう思ったのに、女の子は私の服をぎゅっと掴んでいた。


「お姉ちゃん、怖い……」


 当たり前だ。いきなり抗争に巻き込まれて平気なはずがない。


「大丈夫。絶対に守るから」


 アーサーが敵を引きつけてくれている間、私は女の子を守るために戦わないと。


 でも、どうやって……?


 都合よく身体が動いてくれるわけでは……。


「リディア!」


 アーサーが叫んだ。後ろから男が迫っているのを教えてくれたからだ。その瞬間、腕が剣を振りかざし、男を斬り伏せた。


「え……できた……」


 やっぱり騎士としての技術は体に染みついているんだ。よかった、これでこの子を守れ──


 ズキンッ!


「っ……ぐ、……!」


 胸の奥が焼けつくように熱い。頭がじんじんと痺れる。体が悲鳴を上げているのがわかる。さっきのように斬りつけられたものとは別の痛みだ。何これ、なんなの、これ。


 もしかして、こんなときに限って例の呪いじゃないよね?


 誰かを求めたくなる呪いにかかってるってアーサーは言ってたけど、今はそんな熱さよりも、体の奥底から何かが削られていくような感覚がある。


 剣を振るう度に呼吸が浅くなり、指先の感覚が鈍くなっていく。


「ハァ、ハァ……っ」


 リディアの力は圧倒的なはずだった。剣の冴え、速度、技術──どれをとっても誰にも引けを取らない。それなのに、こんな苦しむようなシーンはなかったはずだ。


「リディア!」


 アーサーの声が遠くで響く。返事をしようと口を開くが、声が出ない。視界がゆらぎ、足元が揺れる。剣を握る手がかすかに震えた。


「……っ!」


 痛みとともに、血が喉の奥からこみ上げてきて、鋭い鉄の味が口の中に広がった。目の前にはまだ敵がいる。ここで止まったら、この子を守れない。


「うっ……お姉ちゃんっ……」

「大丈夫……絶対助けるから……」


 自分に言い聞かせるように呟き、剣を握り直した。その瞬間、再び鋭い痛みが体を駆け抜けて足に力が入らなくなった。骨の軋む音がして、肺が焼けるように苦しい。


 ねえ、本当にあの呪いなの……?


「リディア!? どうしてその剣を……」


 アーサーは私の剣を見てひどく驚いた。それもそうだ。さっきの私は木の棒で戦おうとしていたのだから。


「その剣を離すんだ!」


 我に返ったかのように、アーサーが今度は怒鳴るように叫んでいる。


「その剣は、リディアを殺すことになる!」

「殺す……?」


 意味がわからない。それでもアーサーの顔は真剣で咄嗟に剣を離そうとした。


 ……そうしたはずなのに、私の手から剣が離れることはなかった。


「あれ、どうして……離せない」


 剣を放そうとしたはずなのに、指はまるで自分の意思ではないかのように固く柄を握り締めていた。まるで、剣そのものが私の手を離すことを拒んでいるようだった。


 ゾクリ──と、背筋を冷たいものが駆け上がる。


「どうして……?」


 何度試しても、指は微動だにしない。むしろ、勝手に力がこもっていく。嫌な予感がする。


「リディア! それは離せないんじゃない。その剣が、リディアを離さないんだ」

「……え?」

「その剣は、戦えば戦うほど命を奪う呪いを持っている」

「――っ!!?」


 胸が強く、締め付けられる。嘘だ。そんなこと、一度も聞いたことがなかった。


「……剣が、私を?」

「だから今すぐ、その剣を手放さないと──」


 アーサーの言葉が終わるよりも先に、私の腕が勝手に動いた。振り下ろされる剣。それを、アーサーはギリギリのところで受け止める。


 ギィンッ!! と、耳をつんざくような金属音が響く。


「……くそっ!」


 アーサーが歯を食いしばる。


 私は、自分の手元を見た。震える指先。けれど、それでも剣は決して手放せない。


「私……どうすればいいの……?」


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