5-37「若造達の稼ぎ、見てやろうじゃねえか!」
「むむむ、ボク、ここに来て初めて神様の話を聞いたから難しいんだけど……えっと……。
みんなが神様だと思っていた存在は、実は何処かから来た侵略者。
で、悪い神様だと思われてた存在がホントは良い神様で、逆だったってこと?」
「おうよ、流石マトさんだ、バッチリだぜ。
この話は、どこの遺跡を調べても出て来ねえ。
古代イルイレシア遺跡で見つかる記録も、やっぱり神はルピルで敵はハルトラだ」
「アード殿が言う通り、私の納めていたシハに伝わる伝説も、母なる海ルピルと壊神ハルトラの話。
この場にいる我々以外、本当の伝承を知らない可能性も出て来た。
……しかしキナ臭い、シハの遺跡の扉を見つけてから王国による視察が増えてな。
王国は何かを知っていたのかもしれん」
「ガダルの居たシハの地下にはマガロが囚われていた訳だしな。
知ってて探してた可能性はあるよな……」
「クゥ、これ、もしかしてヤバい規模の話?」
「おうよ、特大のヤバい奴だ。世の中には、な!
オレら盗賊や宝探しには関係ねえさ」
「んま、クゥさんが言う通り関係ねえ話ではあるがな?
渦中の人がそこで仲良く喧嘩祭りしてんだよ。
無関係では居られねえだろうな……それに、宝の匂いがプンプンしねえか?」
「古代イルイレシアより古い遺跡から魔装やら伝承を見つけるって事か!
おっさん、目の付け所が流石だぜ」
クゥが興奮しながら机に乗り出す。
ワクワクやら夢やらが詰まった、キラキラとした笑顔。
ボクも同じように乗り出す。
世界の謎解きと、神の顔をした実は悪い奴……これにワクワクしない訳がない。
ピートが横から眉を垂れながら、困った顔で話に入ってくる。
「あっしは神とか伝説に疎いんですが、紋章なんかでよく見る魚っぽいドラゴンがルピル、槍を持ってる猫の獣人がハルトラで間違いねえですかい?」
「キーヒッヒ、ピートさんの認識で間違いありませんよォ。
海と生命の象徴ルピルと、雷や嵐の象徴ハルトラですねェ。
『全てを生み出す原初の海、頭上で荒ぶる嵐有り。
雷猛り竜を産み、我らが母を侵す。
生命途絶え、星は黒き雲に包まれた』
なんて詩もあるんですよォ。
私は、そのルピル神の伝承がすべて善であること、海と名乗っているのに魔術で『氷』を扱うことに違和感を感じておりましたァ。
言ったら大変なコトですから、黙っておりましたけどォ。
ので……今回のお話はしっくり来ましたよォ。皆さんも忌避なく納得されて安心しましたァ」
「なるほどですぜ!」
皆の話は続く。
この興奮の仕方、盛り上がり方。
「秘境の神秘、明かされる何とか!」みたいな番組をツマミに、酒を飲んでいる感覚。
きっと、王国などに暮らす人々には大変不敬な話なんだろう……とは思う。
だがしかし、ここはアルクバーグ。
盗賊の首領"霞の腕"オルドと、元盗賊とその家族が住む街。
こんな話をしていれば、人々は集まり大騒ぎになっていく。
皆が皆、豪快に笑いながら出てくる話に歓声をあげ。
喧嘩祭りを終えたマガロとタパまで加わり「実録、古代の真実! 当事者は何を語るのか!」が始まってしまう。
結局、街の皆は面白い話だと受け入れた上で、盗賊らしく「こいつは秘密の案件だな」と楽しそうに口に鍵をかけた。
そこへ町長オルドも合流。
優しく親切な気弱な老人、を演じることもなく。
いきなり上機嫌で話の輪に参加。
伝説の真実を知れば、腹を抱えて大笑い。
「さあて、こんな短い期間に遺跡2つから盗っちまいやがって、最高だぞテメぇら!」
オルドが皆の前に立つ。
ゆっくり歩き始め、一人一人の顔を覗いた後、笑顔で肩を叩きながら話を続けていく。
「クゥ、マト、良くやったぞ。弟子とその弟子だ、これからも励めよ。
良い品も入ったんだろう? 明日にも儂んトコへ見繕って持ってきな。アード、ピート。
王国の賢者様マヌダールもすっかり盗賊の魔法使いだな。
これからも知識と魔術、貸してやってくれ。盗賊だから返さないがな?
で、領主様もすっかり賊の顔だな、ウチの若造の護衛助かったぞ。
散り散りになった民を集めんなら、アルクバーグの横にでも街を作りな。
そこのデカブツ2人が協力してくれんだろうよ。
改めて宜しく頼むぞ、本当の神様の子分2人!」
親分、というのはこういう物なのだろう。
全員が頭を下げ、感謝の言葉を返す。
伝説の偉い赤の竜も、赤の竜の部族の長もその気迫に飲まれ、お辞儀を返している……。
「じーさん、宝物もケッコーあるんだけどよォ。
生物が多くて、分かんねえのもある。
折角だから見ていかねぇか?」
「クゥ、そいつは面白え! いい肴になる……!
おいお前ら! 若造達の稼ぎ、見てやろうじゃねえか! 集まりやがれ!」
庭に雪崩込む街の人。
家に戻り、窓から見下ろす人。
壁に座って見下ろす人も居る。
「それじゃあピート、アレだ! まずはアレだろ!
ぎゅぴ!」
「畏まりですぜ、クゥさん! 今持ってきやす!」
屋敷に走り込んだピートが、まず運んできたのは……緑の巨大なサナギ2つ。
エメラルドのような輝きを放っているものの、そのビジュアルはやはりサナギなのだ。
「ぎゅぷ……」
小さな鳴き声が聞こえる。
「やっぱきついなこれ……」
「うん、何と言うか不気味で……」
「何を言ってるんですかい、可愛いもんですぜ!
コイツは森に居た、マガロさんくらいあるカタツムリの目に居た宝物ですぜ」
空気が一瞬凍った。
最初にコレ出すべきじゃなかったのでは……?
その時だった。
ぱきり、ぱきりとサナギにヒビが走り始めた。
「あ、ああ? 大変ですぜ、幼虫ちゃんにヒビが!
ど、どうしたらいいんですかい!?」
慌てるピートの横で、ガダルが黙って剣を抜いている。
町の人々もやはりプロだ。
ロングスカートの裾を捲って足につけていたダガーを抜いて構えたり。
抱えていた果物カゴから、果物剥くナイフじゃないよね? みたいな短剣を構えたり。
全員が警戒態勢に入る。
「ピートさん、羽化するのかもしれませんよォ。
とても価値の高いサナギ……もしかしたら、貴重な蝶などになるかもしれません。
近くで見てあげてくださいねェ!」
瞬間。
サナギが美しい緑の閃光に包まれ、光の中で形を変えていく。
光の粒が溢れ出て、空へと舞い上がり。
その場に形作られるのは――。
「でっか!」
ボクは声を漏らしてしまった。
「うお、クソデカいな!! 蝶じゃねえじゃんかよ! ピート、これ……蛾だよな……?」
ばさり、ばさりと緑がかった白い翼をゆっくり羽ばたかせるソレは――巨大な蛾。
翼に巨大な瞳の模様を持つ、青白い鱗粉を纏う巨大な蛾。
翼の1枚でも、男性の手のひら2枚分くらいある。
ボクの世界の、ヤママユガを更に大きくしたような。
「戻ってから調べたのですがァ、この寄生する虫は宝石羽虫と呼ばれている存在ですゥ。
宝石を作る力を持つらしく……それが2匹も!」
「宝石を作るゥ!? な、ジジイ、この蛾はすげぇのか!?」
クゥが目を丸くして叫ぶ。
「まあ、俺も見よう。
欲【鑑定眼】――お……んんっ!?」
アードが欲で生み出した輝く羊皮紙を覗き込んで声を上げる。
「妖精宝虫だぁ……?
……ピートてめぇ、しっかり耳かっぽじって聞けよ!
この蛾は、鱗粉が結晶化し宝石を生み出す力を持つ……作られる宝石は宿主の持っていた成分で決まる。
巨大な宿主に住んでいた妖精宝虫は、多くの宝石を生み出す力を持ち……。
愛情を理解し、親へ力を貸す。
寿命は……長いことしか分からないようだ。
食べるのは宿主が居た森の水や土らしい」
「……難しくて今ひとつパっとしねえですが……可愛い蛾ちゃんをしっかり育てると、宝石を作るってことですかい?」
「そういうことだな」
「おうおう、それじゃぁピートにゃ、飯の他にも宝石を納めてもらわねえとなァ?
面白え宝を捕まえてきたもんだ!」
オルドの声に、少し引き気味だった周りも盛り上がる。
「きゃああん!」
我慢していたキャアが眼の前に走り出して来た。
首には美しいスカーフ。修復された布は美しい黄金に煌めく花の刺繍の入った物。
水色の毛並みに栄える、輝くドレスのよう。
「お、これもか? ほほう、立派な魔装じゃねぇか!
妖精の何とか……だったか、お前も中々良い物拾ってきたじゃねえか!
クゥんとこの一味は、しっかりやってんなァ!」
オルドがキャアへ手を伸ばせば、目を細めて体を擦り付けている。
親分の手は、キャアも落ち着くのだろう。
「で、マト。何やら自慢げな顔だな?」
「ボクのアリさんを見て欲しくて!」
「ギュイ……!」
ボクが手を振ると巨大な黒い甲冑が自然に歩いてくる。
首は無く、馬から降りたデュラハンの如く。
「オレがマトの代わりに絆を結んでるから安心してくれ、じーさん。
森に居た寄生アリだ。
今はシハのガーディアンの残骸を巣にして、マガロ不在の穴を守ってくれていた」
「ほほォ……! 面白え! 儂がコイツの親父になる、儂も覚えておけ!」
オルドが手を出せば、甲冑がハイタッチ。
アリさんも、立派に一味になりつつある。
「……他にも宝はあるんだろうが……クゥ、てめぇ、まだやってねえな?
今なら人も多い、どんなトラブルでも切り抜けられるだろ。
やっちまえ、てめぇの欲をよ!」




