5-36「今まで語られていた歴史とは異なる話」
宴会の準備、とご機嫌に走り出すクゥにしがみつく。
「2日頑張ったのにまだまだ元気だねえ」
「マトォ……ジジイみたいになってるからよぉ……。
わーい! とか、うおー! にして貰っていいか?」
「うおー」
「気持ちがねえよぉ……。
厨房まで行って、ピートに様子聞くぞ。
走ってくから吹っ飛ぶなよ?
吹っ飛んだら宴会前に説教だからな」
「うおー!」
「マト、顔……くしゃくしゃだよォ……。
オレが悪かったって! んじゃ抱っこして行くからな」
「!? わっ!」
肩にしがみついていたハズなのに、気づけば両手で抱かれた特等席に。
掴まれた感覚もなかった。
やはり大盗賊、匠である。
「ご機嫌戻ったか?」
「機嫌悪くなんてないよ、真剣になっちゃっただけ。
気にしてくれたんだ。えへへ」
「ンなら何よりだぜ!
さて、着いたな」
食堂を抜け、奥の厨房へ到達。
子ども達が料理を運び出したり、皿を出したり、ワイワイと動き回っている。
もちろん、料理長はピートだ。
「おつかれだぜ、ピート!
森が手強くてちょっと遅くなっちまった、すまねえ!」
「……! クゥさん、マトさん! おかえりですぜ、怪我は大丈夫ですかい?」
「うん! クゥが守ってくれたので元気だよ!」
「いやいや、マトが派手にキックして助けてくれたからマトのおかげだなあ」
「ふふ、いつも通りで安心しましたぜ!
料理は着々と仕上がってるんで、ちょっと休んでいったらどうですかい?
戻りたてにバタバタすんのも……」
「うんにゃ、元気だから大丈夫だ!
飯、運べば良いのか?」
「ちびっ子達がやってくれるので大丈夫ですぜ!
外の机とか諸々を手伝ってやってくだせえ!」
「おっす、了解だ!
ピートもちゃんと休めよな!」
「終わったら大将がワイン1瓶くれるって言ってるんで、それで休みますぜ!」
「おうよ! ンなら、オレらは机並べて灯りぶら下げたりすんぞ!」
「わかった!」
2人で片手をヒョイと上げる挨拶。ピートも同じ動作を返してくれた。
結果的に、宴会前のお手伝いは外の会場の設営だ。
まずは机を並べて。
後は街から家へ、そしてマガロと石像の居る森へ繋がるように灯りをぶら下げて行く。
闇に潜む人拐いが存在する世界。
夜間の外出を避ける世界。
だからこそ、夜の宴会は灯りをたくさん灯す。
街が夜に呑まれぬように。
街の道にも提灯のような魔装のカンテラが吊るされ、町中が仄かに輝き始めている。
空の色が橙に近づいて来た。
この世界の空をふと見上げて思う。
太陽は1つ。
形も同じ。
月が2つ、とか、太陽の周りに惑星! みたいなファンタジーあるあるも無し。
自分の居た場所と何ら変わりない空だ。
その空に、ロープが何本も掛けられている。
祭りの夜にカンテラを吊るす場所。
「マト、オレの頭に乗れ! 届くかー?」
「うおー! 背伸び! すれば! とどいた!」
「おっしゃー!」
クゥの頭の上で精一杯背伸びをして。
バランスを崩さないように、魔装の灯りを引っ掛ける。
灯に照らされた街は、迫る夕闇の中で輝きを増し、まるで夜祭。
それよりも、ボクの世界のビアガーデンとでも言った方が近いのだろうか。
街の人達も楽しそうで。
と言っても、街全体が盗賊団のようなもの。
言葉も治安も悪く感じるけれど、温かい感じはサイコーなのだ。
空が赤から紺に変わる頃、街の設営もテーブルの設置も終わった。
料理も街中に運ばれ、残すは乾杯による開会宣言だけだ。
「それじゃあ……今日はオレの大事な弟子で8つ道具のマトにお願いしちまおうかな?」
クゥの頭の上によじ登り、小さなぶどうジュースの入ったグラスを受け取って高く掲げる。
「わかった……! それじゃ、行くよ~!
ニラルゲの森遺跡の宝探し大成功、おつかれさま!!
かんぱーい!!」
『乾杯!!!!』
声と同時に荒々しい大歓声が上がる。
どちらかといえば、お行儀の悪い歓声。
海賊や山賊の大騒ぎそのもの。
「っちゅーことで、おつかれだぜ!」
「おうよ! 帰ってきてくれて良かったぜ!
俺は本当に安心したぞ……。
お前さん達2人が消えた時、それはそれは大騒ぎでな?」
「大将が一番慌ててたですぜ」
「ピート! 言わねえで良い!」
「キーッヒッヒ、アードさんが一番最初にタパさんに『戦ってる場合じゃねえぞ』って話しかけてくれたんですよォ」
「マヌさんよ、もう終わった事だからよ。助かった、で良いじゃねえか」
「しかしアード殿、咄嗟に古代語を話されるとは流石だった」
「だからよぉ、魔装の起動で使うから嗜んでるだけなんだ。
一斉に褒められんと、どこ向いてて良いか分からねえだろ、いい加減にしろ」
「目ぇ逸らすにゃ背中見せねえとだもんな!
おっさんやっぱすげえわ、仲良くなれて本当に良かった」
「改めて言うんじゃねえ、クゥさんよ。照れんだよ!」
「だが――アード、君の言葉は確かに私に届いた。
『|戦いを辞めろ、小さな勇者が消えた。私の話を聞け《ノダガ、コプリコモナカン、ヌチェユウ》』――。
あの言葉で完全に意識が戻った」
巨大な石像、古代の長タパが外壁に肘をつきながら微笑んでいる。
片手に樽……マガロと同じで酒は樽なのだろうけれど、石像って飲むの……?
「我も感心したぞ。アード、汝が止めねば我がタパを粉々に粉砕していた所だ」
「マガロ、まだその結果は出ていない!
私とて今までの族長のように敗北するわけではない、今度こそ!」
「グハハ、構わぬぞ! ならば今より祭を再開するとしよう!」
「来いマガロ! 欲【空統べる森鳥の勇者】!」
巨像の背に夕日に染まったような美しい橙色の翼が広がる。
舞い散る羽は鮮やかな赤とオレンジ。
一度羽ばたけば、巨像は空へと上がる。
「おい……嘘だろ……? あの体で飛ぶのか!?」
「えー……こんなコト、あるの~?」
「あるんだろうなァ……。マトさんよ、今タパさんはな?
昔の言葉で欲を使ったぜ……」
「ええ……そんなコト、あるんだ……」
「本気で来るか、タパよ! ならば我も酒が一樽飲み終わった所……盛り上がってきた!
相手になるぞ!……『竜脚跳躍』!!!」
凄まじい振動を残し、マガロが空へと跳ねていった。
森の上で太古の祭が再現されている。
もうあの2人は放っておこう……。
「ま、まぁ……あの2人は置いておいて、だ。
マトさん、クゥさんよ。
お前さん達が宝だと言った壁画は全て持ち帰り、この孤児院を囲むアルクバーグの壁に飾ってある。
大事な話は此処からだ。
あの壁画……面白え事が描かれてたのさ」
宴会の楽しげな顔よりも、もっと楽しげ。
アードの顔が悪辣なシワと、吊り上がった口角で歪む。
悪徳商人が影で取引を成立させる悪人顔そのものに。
「悪ィ顔しやがってよ、おっさん。
で、どんな話なんだい……?」
クゥがアードの顔を覗き込む。
あっ、これドラマで見たことある……! 裏取引の現場だ……!
「ボクも気になる! 面白いって……どんな?」
「昔話、が見つかったのさ。
――タパさんが暮らしてた頃のな」
「キーッヒッヒ、そうですよォ! 今まで語られていた歴史とは異なる話!
なんとォ……神様の話も出てきたのですっ」
「折角だ、持ち帰った壁画を見ながら話すのはどうだろう?」
ガダルの提案に皆が頷き、街の壁に並ぶ壁画へと歩き出す。
何枚、というよりは1枚の絵巻が繋がっているようなもの。
刻まれている物語を、ボクとクゥに皆が教えてくれる。
「まずこの部分。
どう見てもマガロさんっぽいデカい竜と戦ってる相手を見てくださいねェ。
彼らは冠の竜を封じたり、殺す者ですゥ」
「青い鎧の人たち?」
「そうですゥ。その人達が、この森へやってくる絵がコレですよォ。
この紋章は、古代イルイレシア王国の物。
けれど、その名では呼ばれていなかったそうですゥ」
タパとマガロ曰く、イルイレシアは世界を制圧した国が名乗った名前らしい。
本来の国の名は「ディルアーレ」
世界を作り出したという水の神「母なる海ルピル」を信仰していたとのこと。
「このディルアーレの神ルピルは、ミアレ王国で信仰されている神と同じですゥ。
私も世界の始まりは、この神が海を作って……と習ったのですがァ……」
「私もそう習い、シハでもルピルは信仰されていた。
だが――どうやら違うようで、な」
神の話は始めて聞いた。
だから良くわからない。だけど――この語り口、嫌な感じがする。
「勿体ぶって話すんじゃねえぇよ、マヌさん、ガダルさんよ。
マトさんはまだチビッコだからな、この世界の事は詳しくねえ。
要するに、だ。
俺達が『世界を作った神』だと習っていた奴は神じゃなくてな?
世界を狙う敵だったって話でな。
空から現れ海に広がり、この大地を糧に育つ竜が、その『ルピル』だ」
「……うわ……」
「マガロさんが虹の竜って名乗ってただろ?
7体居るらしい。そいつらが戦ってた敵が『ルピル』
本当の神様は、俺達が世界の破壊を企てる邪神として習う壊神ハルトラ。
『母なる海ルピル』を殺そうとしている方、って事でな……」
「おいおい……じゃあ、オレらが知る話はどこかで置き換わったって事か?」
「……置き換わったんじゃねえ。置き換えたんだよ、その国の奴らが。
世界を制圧するってのはよ、そういうことだろ――」




