5-35「ただいま!」
「すげーな、マガロ」
「森の景色、こんなに違うんだね……!」
「小さき物には見慣れぬ景色か?
我は森の中を見る方が大変でな、伏せぬと見えぬ事も多い」
「走ってる時、草むらで何踏んだか分からないって話か」
「なるほどなあ……」
眼下に広がる森を見て、つくづく納得する。
マガロの視点では、これが背の高い草むらくらいなのだ。
通った後、折れて倒れる木もある。
かつてマガロが住んでいた頃、この踏み荒らしも森のサイクルの一部だったのだろう。
「お、マト! あそこ見ろ! もうすぐ街だぞ!」
「わー! こんな風に森から見えるんだ!」
「我が居た頃、あの場所に街はなかったのだ。
先刻の石造りの建物、その付近に民が小さな村を作り住んでいただけ。
変わったものだな……」
「マガロ、街があるの嫌?」
「グハハ、嫌だと言った方が偉大な竜らしいか?
我に拘りはないが……地下に居るより心地は良いぞ!」
「お前も言い方下手くそだな……。
居心地が良いなら何よりだぜ、ありがとな!
ずっと居てくれて良いんだぞ」
走るマガロの頭の上だ。
目が合わないのを良いことに、クゥが鼻の下を指で掻きながら笑う。
照れ隠しする、良い奴……まさにそんな顔。
ボクは、クゥのそんなところも好きなのだ。
「ボクも心地が良いって言われて嬉しい! クゥとおんなじ。
ずっと居てね、マガロ」
クゥの肩で、同じように空を眺めて笑う。
「……ならば何処にも行かぬ」
「……ただでさえ邪魔だからどけって言ったらどけよな!」
「!? 失礼だぞ、盗賊め!
この我が居てやると言っているのに……!」
「2人とも〜!
居なくなると寂しいから居なくなるのはなし!
身体はデカいんだから、不便かけるけど協力してね!
いい?」
「承知した」
「おうよ!」
マガロの足音が繰り返されるたび、街が大きく見えてくる。
もう、時計塔もハッキリ見える。
街の端に巨大な石像が建っている……いや、立っている。
あれは長の像……本当に持ってきたんだ……。
「それでは、後一歩だな!
鮮やかに魅せてやろう、行くぞ……!」
マガロがご機嫌に咆哮し、全身に力を込めたのが分かる。
「馬鹿野郎、街に被害が出んだよ! 竜脚なんとかは使うなよ!」
「仕方ない、今日の所は許してやろう」
「……マガロ、街は揺れただけで大変だから大技は緊急時以外近くでやっちゃだめ」
「まったく、面倒な事だ。して汝らよ、着いたぞ」
ジャンプなどしなくとも、気づけば目の前にはオレンジ色の屋根。
クゥの屋敷へと戻っていた。
マガロの足音に気付き、建物から皆が走り出してくる。
降りやすいようと寝そべったマガロの頭から飛び降りるクゥ。
ボクも肩にしがみつき……これて、完全に遺跡から帰還した。
「戻ったぜ!!」
「ただいま!」
片手を上げるボクらの元に1番に走り込んできたのはアードだった。
「ったくよぉ! 心配かけさせやがって!
お前さん達、ケガはねえか? 無事か?」
「お、おい、そんな慌てんなって……うちのじーさんだってそんな顔しねえぞ……」
クゥが目を逸らした。やっぱり照れ臭いんだと思う。
悪人面で顔が怖いアードが、まるで父親のように眉を垂れてボクらの前で必死になってくれているから。
「だいじょぶ! 心配させちゃった……ごめんね!
クゥが助けてくれたし、マガロも来てくれたしちゃんと帰れたよ!
アードのおっさんもありがと、ボク達を探す準備してくれてたんだよね……!」
「……お、おうよ、マトさんよ。そんな目で見られると俺も照れるぞ。
無事で良かったぜ、クゥさんもな。
探す準備も整って、出発しようと思ったらマヌさんが連絡ついたって言うからよ。
帰ってきた時の準備を進めてたくらいだな!」
「ん? 帰って来るオレらに準備なんか必要か?」
「本当にお前さんはよォ……。
町長のじーさんがウキウキしてやがるぞ?
さっきもそこの『長』と話してやがったしな」
「まさか……打ち上げの準備かよ!?」
「当たり前じゃねえか、お前さんよ!」
笑顔のアードの横に駆け寄ってきたマヌダールが、鼻息荒く割り込んでくる。
「そうですよォ、全員が安全に帰れて、沢山のお宝が持ち帰れましたァ!
これで打ち上げしなかったら、いつするのですか!
ですがァ……2人とも無事で何よりですが、本人ですかァ?
寄生されてませんかァ? 生きてますかァ?
とっても心配ですが……大丈夫そうですねェ!」
「体から黄色い糸が出てるかも~。キノコかもしれない~!
マーさん、心配してくれてありがと!」
「マトくん、そんな植物を見たのですか?
貴重なモノですから、後で話を聞かせてくださいねェ。
ピートさんと子ども達が今ごちそうの準備をしておりますから、その席ででもォ!」
ガダルが合流する。
「……マヌダール殿、それは仕事の話になってしまうのでは……。
いや、しかし、子ども達も喜んでくれるやもしれんな!
そして良く戻った、2人とも!
マト殿、クゥ殿……本当に無事で良かったぞ!!」
「ジジイもガダルもお疲れだぜ!
心配されるのなんて滅多にねぇから……そんな顔されるとさ。
オレ……どうして良いか分かんなくなっちまうよ」
「クゥさんよ、お前さん、そんな顔するんだなァ。いいじゃねえか、笑っとけよ!」
アードが肘でクゥをグイグイと突く。
恥ずかしそうに髪をくしゃくしゃとするクゥ。
マヌダールとガダルともハイタッチ。
クゥに続いて、ボクも2人とハイタッチ。
アードは赦で自発的にボクに触れられない。
だから、飛び乗る!
驚いた髭面を、両手でモチモチしてハイタッチの代わり。
「これ、ハイタッチの代わり! 心配ありがとね!」
そう行って、クゥの肩へと跳ねて戻る。
他の2人が羨ましそうにしていたので、続いてもしゃもしゃ。
で――クゥが頬を膨らませている。
「もー、いっぱいもしゃもしゃしたじゃん!
クゥもずっとありがとね!」
しょぼくれた顔になる前に、両手でいっぱいモチモチ。
キラキラした笑顔は、欲を使わなくて宝物だってわかる。
「さぁて、主役も帰ってきたし……今から庭を飾って宴会だ。
ああ、そうだ紹介してなかったなぁ、長……タパさんをよ」
「長……アッ、石像さん!」
「紹介された火の竜族のタパだ。君達のお陰で目覚めることが出来た。
しかも、マガロと再び出会え戦えるとは思わなかった
感謝する!」
「……あれ、タパさん? 難しい言葉でお話する人では?」
「マヌダール氏より魔法を受けた。言葉は問題なく扱えるようになったはずだ」
マーさんの仕業か~! 流石、としか言えない。
「私達が古代イルイレシア語を会得する方法もあったのですがァ、それではタパさんが街の人と会話が出来ないと思いましてェ。
タパさんに魔法を使わせて貰いましたァ。
言語取得系の魔法が数が少なく、今私の知る範囲の本には記録がありません。
しばらく蔵書を増やすまで、言語を補助する魔法は使えぬことをご理解くださいねェ!」
「わかった!
えっと、タパさんはこれから此処に居るの?」
「そうして良いと、街の長が許可してくださった。
此処にマガロ殿の祭壇を移設し、私が守り手となるつもりだ」
「ン? ちと待て。えっと、タパ……か。
マガロの家を此処で作ってくれて、しかも一緒に居てくれるってことか?」
「そうさせて頂きたい。
街の長より、君がこの屋敷の長と聞いた。ここに祭壇を建てても構わぬだろうか?」
「お、おう、そんな偉そうなモンじゃあねえが……。
居てくれるならありがたい限りだ!
こっちからもお願いさせてくれ。
マガロもヒマしてるだろうし、強いが1人じゃあカバー出来ねえ事もあるだろうからな」
「待つのだクゥ、我は1人で充分に身を守れる。
そこの若長、タパの手など借りぬとも――」
「マガロ、今は私しか残っていない。
君が姿を消した理由を調べ、民達と壁画にして残した。
今度こそ、君を祀る民として守らせて頂こう」
「マガロ、きっとタパさんはマガロの宝物だよ。
タパさんからもそう。だから、ね?」
クゥの肩で小さくぴょん、と跳ねてマガロに手を振りながら笑う。
この竜もすぐ照れる。
唸り声をあげながら目を背けたあと、小さく頷いたのが見えた。
「して、ウサギくん。君がマトくんで良いかな?」
「う、うん! タパさん、名乗りが遅れてごめんなさい!
ボクがマト、彼がクゥでボクの師匠です」
「おっす、オレがクゥだ、タパ! 宜しくな!」
深々と頭を下げるボクの横で、ビシと指二本を額に当てて軽い挨拶をするクゥ。
彼らしくてちょっとカッコいい。
ボクも真似して、チャラい指二本敬礼みたいな挨拶に切り替える。
「これから世話になろう、マト、クゥ。
私もタパで良い!」
巨大石像が同じチャラいピースで返してきた。
これは古代の人が挨拶だと認識してしまったのでは?
「お、タパさんよ。
それ、若者の軽いやつが使う挨拶でロクでもないのだから、真似しねえほうが良いぞ」
「なるほど、若者の。ならば私も使っていこう! フハハ!」
マガロが巻き込まれて、ピースをやらされている……。
酷いシワシワの顔なので見なかったことにする。
「さて、宴会の準備だろ!
宴会前から楽しくて話しちまうけど……いい仕事の後はまずは宴会だもんな!」




