5-34「うお、なんだこの派手な足!!」
「んんんんーーーっ!」
もはや声になんてならない。
振り子が巨大な子を描くかの如く、ロープに繋がれた身体が空を舞う。
虫もなんとか吹っ飛ばした。
クゥが着地すればきっと何とかなる。
一瞬の冷静。
興奮が後押ししていた勇気が決壊し、恐怖が全てを塗り替えていく。
見える景色はだんだん狭くなり、頭の中が空っぽになるような……。
「良くやったぜ! もう、大丈夫だからな!」
大きなはずの声が遠い。
そうか、大丈夫か。
良かった……そう思った時、ボクは意識を手放したみたいだ。
気づくまで、どれくらい経ったか分からない。
クゥの声が聞こえてきて……やっと、意識がはっきりしたと思う。
「……マトー?
うーん、打ちどころが悪いとか、ケガとかじゃねえよな……?
おーい……?
……どうする? マトなしで森を走るか? 今すぐ連れて帰るか……? どうやる……」
クゥの困ったような声。
起こそうとしているのか、頬をしきりにモチモチされている……。
「……クゥ、ほっぺとれちゃう」
「!! マト~~! 起きたか? 起きたよな?
どこか痛いか? 大丈夫か?? 無茶しやがって、頑張ったな……!」
「わっわっ! どこも痛くないよ〜、そんなにぎゅーってしないで~」
「おっ、おお……すまねえ、暫く目を開けなかったからマジで焦っちまってよ。
……良くやったな、助かったぜ」
大きな手のひらが、優しく耳と耳と間を撫でてくれる。
怖かった分の赦みたいなモノかも。
冷静に考えればクゥは小柄で、そんなに手は大きくないし、デカい背中でもない。
けれどボクにはとっても大きな宝物なのだ……とつくづく思ってしまう安心感。
「出来ると思わないと失敗するってクゥが言ってたから出来るつもりでやった!
けど、出来たら安心して怖くなって気絶しちゃったみたい……」
「最後、気絶しなきゃ満点だったのにな! 惜しかったなー弟子よ~。
ま、ちょっと寝てただけだ。充分及第点だぞ!
……すげー心配だったし、オレもびっくりしたけど」
「えへへ! もう大丈夫だよ。
今日のうちにゴールしなきゃだから、まだまだ頑張れるよ!」
「おー、やる気の顔だな。
よーし、マトが落ち着いたなら出発するか」
「うん、行ける!
それじゃ欲【宝の在り処】!」
クゥのあぐらの上で撫でられながら、目を凝らす。
輝く光の粒子は道のりを示す川となり流れていく。
やっぱり、道は2本だ。
「うーん、やっぱり2本ある」
「光の量とか、強さとかで何か判断できないか?」
「どちらかと言えば左のが多い気がする……かなあ」
「じゃ、そんなのは感覚だ! 左に行くぞ!
準備は良いか、弟子!」
「おうよ!」
「……やり直して良いか?
準備は良いか、弟子!」
「ン……。 わかった!」
「あー、それだよそれ!
安心したわ。
肩に乗って吹っ飛ばないようにしっかり掴まれよ〜」
「おうよじゃダメなんだ……」
「マトがやると可愛くないからよお……」
「はい……」
よちち、と肩へと上り定位置に。
しっかり掴まり、準備完了。
「うっしゃ、行くぜ!」
立ち上がって走り出したクゥに、進行方向を耳打ち。
倒木を越えたら左に、大きな実のなった気を右に。
銀色の湧水はキラキラしてるけど欲のキラキラではないから触れないように。
相棒はそれに従って、風のように森の中を駆け抜けていく。
「光の柱があの木の先にある……!
あそこだよ!」
「柱? ……まあ、そんだけ光ってるなら正解だな……!」
クゥがラストスパートとばかりに加速、思い切り跳ねて目標地点に飛び出す。
「うお、なんだこの派手な足!!」
「うわ、すっごい派手!」
「……!? んん!?
我の足が派手だと……? 鮮やかだと言っておるだろう、クゥ、マト!
やっと見つけたぞ、手間をかけさせおって!」
「やっぱ派手な足はマガロか。
悪ィ、手間かけた。
遺跡で崖の向こうの森に飛ばされちまって……」
「うわ、どうしたの!? 牙剥かないで!
マガロ顔怖いよ! 顔怖い!」
「本当に汝らは汝らか? もう食われた後なのでは……?」
「死体が動かされてる訳じゃないよ!
ボクらはソレを避けて迂回してきた!
赤い霧吐くやつだよね」
「……崖の向こうは我の領域ではなくてな、怪しげな生き物も多い。
傀儡となって彷徨い、夜な夜な仲間を食い荒ら……」
「マガロ、話長えよ……。大丈夫だって!
まずはマガロが無事で良かったぜ。 他のみんなは?」
「あの後、長も含めて汝らを探したが見つからず。
夜が訪れるので、マヌダールの術で街へ戻った。
我は森では迷わぬし、夜に怯える理由がない。
ゆえ、我だけ森で汝らを探し、アード達は町で汝らの救出の準備を進めている……という形だ」
「なるほど、だからキラキラが2個所に分かれたのか!
マガロ、あっちがアルクバーグの街であってる?」
ボクは光の標が示す、もう一つの道のりを指さす。
「うむ。そうだ。
汝の欲の力か……迷いの森と呼ばれたこの場所を一発で見抜くとは!」
「凄いだろ!」
「えへへ~」
「汝が凄いわけではないが……」
「でも、クゥが居るから崖も飛べたし! 夜も越えられたし! クゥ凄いんだよ!」
「にしし」
「……フン……」
「……! ここへ来てくれたマガロも凄いよ!」
「マガロ……その鼻の穴大きくするのやめたほうがいいぞ。
何かを期待して待ってる顔だろそれ、品がねえ」
「うるさいわ! このまま置いて帰るぞ!」
「帰れるもんなァ、マト?」
「そうだねぇ」
「ならば我の力で森を常に作り変えてやるぞ! グハハ!」
「面倒くせえおっさんだな本当に……。
冗談悪かったよ、森に残って探してくれて悪かったな。
街に帰るのに乗せてもらっても良いか?」
「うん、乗せて欲しい! おっきい背中良いよね!」
「……むぅ……ならば仕方ないな。
特別に我が力を貸してやらんでもない」
そう渋々と口で言いながら、嬉々として背に乗せてくれるマガロ。
頭に乗せてくれよ、せっかくだから! とクゥが走って登ってしまえばそれ以上文句を言うことも無く。
二足歩行の恐竜の頭から見下ろす森の海は、あまりにも広大だ。
その果てに、石造りの三角形の建造物。
あれは、きっと昨日探索したニラルゲの遺跡だ。
「マガロに見えるように作ったんだね、森の上に飛び出してる」
「……そうか、それが理由であのような!」
「それにデカくなきゃ入れねえだろ。
ちっこい入口でちっこい建物、無理やり入らないだろ、マガロ」
「うむ、そうだな。
長も待っていた、そう話していた」
ズゥン、という大きな足音が繰り返し響く。
巨大な生き物に乗って、大地を見下ろし進む……ゲームや漫画そのものの体験に、興奮を隠せない。
つい乗り出して辺りを見回すボクを、クゥが落ちないように支えてくれている。
「すごい……。
でっかい鳥も飛んでる」
「うお……でっかいな。
あれがヤベェって言ってた類の生き物だぜ。森の上からああして食べ物を探してる」
「ほう、街の盗賊でもそのような知識があるのか。
我が居るから近づかぬだけで、アレらはこの森の空を統べるもの。
樹上に出た汝ら小さき者は良き食べ物だろう」
「今、オレバカにされたのか?
んだよ、マガロ。オレだってそこそこには知ってるんだぞ。
ジジイ程じゃねえけど……。
ジジイ……そうだ、ジジイ、転移で飛んでこれるじゃねえか。
何で来なかったんだ……」
「ああ、その話は聞いているぞ。
汝ら2人がどんな場所で、どうなっているか分からない。
それを観測せず迎えに行く、呼び寄せるは危険と判断し準備に戻るとのことだった。
マトくんとクゥさんなら帰ってきますから、心配ないですよォと笑っていたがな」
「ジジイ、分かってんな……流石だぜ」
「うん。マーさん、やっぱり凄い先生だね」
「キーッヒッヒ! そうでしょう、そうでしょうとも!」
「……は?」
「今、声したよね?」
「我にも聞こえたが――」
「声を届ける魔法を使いましたァ!
マガロさんに使ったのですが、マトくんとクゥさんが褒めてくださっていて~!」
「……なぜ我に使った? マト達に使えば直接連絡も取れただろう?」
「危険ですよォ! 獣から隠れている時に、もしこの私の声が響いてしまったら大変ですゥ!
ですのでマガロさんと連絡を取り、今後の捜索の相談をしようと思ったのですゥ!」
「ジジイ、それも分かってんのかよ、頼れるな……」
「頼れる!」
「キーヒッヒッヒ! 褒められました、最高ですねェ!
それでは、私達は街で帰りを待つ事にしますよォ!
マガロさんとゆっくり戻ってくださいねェ!
長さんも楽しみにしているそうですよォ! では!」
「……? おいマト、聞こえたよな」
「聞いた。 長……?」
「うむ、長の像もマヌダールの転移で移動したぞ」
「……確かに、ボクは言ったけど……金貨一枚残すな、って」
「マトが長の石像に凄そうな価値を与えちまったから、その価値が跳ね上がって――」
「長の像、連れて帰っちゃったってこと~!?」
「そういうことのようだ。壁画も宝と聞いていたので持ち帰ったそうだ。
我の祭壇も街の横に作りたいという話でな、良いだろう?
グハハ、それでは、走って帰るとするか! 掴まっておれ!」
「おうよ、頼んだぜ!」




