5-32「ライターっていうの、そのライター……」
「おうよ! 便利グッズはねェけど何とかなるだろ!
夜になる前に集めちまおう、やっぱ頼りになるな、マト~」
「撫ですぎだよぉ、お耳の毛がぺしゃんってなる」
「夜はやっぱり緊張するからよ、マト撫でてると安心するんだよ」
「うさちゃん達も一緒だから大丈夫だよ」
「うさちゃん……か。そうだな、人拐いはここに居るんだもんなあ。
オレのロトもポーチに居るし、夜の獣だけ気を付ければ良さそうだな」
「うん! では早速、真っ暗になる前にお泊まりの準備をしよ!」
クゥの肩から飛び降りて、間近で光っている木の枝を手に取りながら笑う。
「ん、なんか楽しそうだな? なんかあったか?」
「こういうの経験ないから、怖いけど楽しくなって来ちゃった」
「良いじゃねえか、ピンチを楽しめる方がうさちゃんやロトは喜ぶんだろ?」
「ぷぅ!」
「しゅっ!」
「喜んでるね……。
必要って聞いたものは、キラキラしてるからすぐ集まると思う!
木の枝が宝物になる事もあるんだね」
「お、その枝光ってるのか?
んじゃ焚き火用にピッタリって事だな」
「燃やしちゃうんだ……!
無くなっても宝物なんだねえ。キラキラしてる」
「焚き火もキラキラしちまうかもな!
んじゃ、集めるぞ」
「わかった!」
程なくして、辺りに落ちていたキラキラは全部集まる。
木の枝やら、しっかりした木材やら、岩やら……様々な自然の品々が「宝物」だと輝いていた。
近くに湧き水があったのも救いだった。
水も澄んでいるし、変な匂いもない。
ボクのキラキラも「宝物」だと言っている水……怪しい何かが溶け込んでいたり、毒なハズがない。
「森は土の中に根が張ってて、燃え移る事があるからテキトーに燃やすなよ?」
「火は任せる!
ボク、両手燃えちゃいそうだし……」
「そうだなあ、まだちっこいから火は大きくなってからにしような」
「ずっとこんなだと思うけど」
「おっきくならないでくれよな。
どっかの牧場でマトより遥かにデッカいウサギを見たことがあるんだ……。
肩に乗せられなくなっちまうだろ?
さて、薪も場所も大丈夫そうだな、火をつけるぞ」
「木でクルクルしたりするの? 火打石……?」
「くしゃくしゃにならないでその言葉が出てくるのは比較的ツラいぜ……お年寄りか……?
魔装展開……『火口箱』っと」
「ライターっていうの、そのライター……」
ボクの世界で見慣れた形。
四角くて、指でリングを回転させて摩擦で火を起こしボトルの油に火をつける道具。
ライター以外の表現が見つからないそれは、この世界でもライターだった。
「おうよ、マトのトコにもコレはあるんだな。
もしかしたら昔来たやつが残したのかもなあ。
お……燃えた燃えた。
さすがマト、よく燃える枝がしっかり集まってるぜ」
「えへへ~。ボク、焚き火始めてなんだ。
ボクの知ってる冒険者はね、こういう焚き火で味の薄いスープとか作って食べてた」
「今も、やってるやつはやってるみたいだけどな。
味が薄いってのも今ひとつピンと来ねえが……冷える魔装とかで食材運ぶのが普通だからなぁ。
ピートも持ってたろ」
「イメージとは違うけど、美味しくて楽しいほうが良いと思うから、良い!」
「だよな。火もついたし、寝るトコ作るぞ。
パパッと出来るから安心しろ。それにマトは俺が抱っこして寝るからな」
「1人で寝れるよ?」
両腕で輪を作ったクゥが、トーンを下げた声でおどろおどろしく返してくる。
「こーんなヘビが来て、ごっくんされちまうかも」
想像してしまった。
怯えや驚きは身体から一瞬で溢れる。
耳はピンと立ち、毛はポンポンに膨らみ。
ぎゅ、と両手を握ってしまう。
「お、びっくりしてら。
な? 怖いだろ? だから~、オレがしっかり抱えてるから大丈夫だ。
でも安心しすぎて熟睡すんなよ、マトも少しだけ警戒しててくれ。
そんだけポンポンに膨らむんだ、その感覚を頼りにしてるぜ?」
「わかった、任せて!」
「よーし。良い子だな~! 暗くなってきてる、今は焚き火を見つつ警戒しててくれ!
板とか立てて、壁作るからな」
「クゥは暗くても見えるの?」
「見える技もある、問題ねえよ」
そんな他愛のない会話。
一日の疲れで、ペタン、と尻餅をつくように座り込む。
草や枯れ葉、ふわふわの土が思ったより柔らかくてホッとする。
色々有ったけれど、今日も楽しかった。
マガロが長と呼ぶ石像の秘密を最後まで見れなかった事はとっても心残り。
だけど――皆と合流すればきっと全部分かる。
パチパチと爆ぜる焚き火の火花から、キラキラとした粒子が溢れている気がする。
それが焚き火のせいなのか、ボクの欲のせいなのかは分からない。
ただ、綺麗でホッとする輝きだ。
「マト~、問題が1つ」
「なーに? 水も火もある、寝るトコも今できたよね?」
「それは飯だ」
「あっ……」
「マトはそのへんの草食えるのか?」
「食べたことないけど、食べられるのかも……!」
「やめとけ! ウサギでも食べちゃいけないものはあるだろ……」
「クゥが聞くから~! 木の実とか食べられる草とか分からないの?」
「分かる。分かるんだけどよォ……分かることが危ねぇ気がするんだ」
こてん、と首を横に倒してクゥを見上げる。
「食える、と自己主張して体内に入って……咲いちまうさっきのサンゴみたいな草だったら?」
「うわぁ……こわいね……。
なんだか姿を偽る動物が凄く多いし、この辺り」
「だろ? なので、飯はちょっとしかないぜ」
「ちょっと、あるの……?」
「なーんと、高価なお菓子が手元にな?
アードのおっさんがくれてよ、ジジイが『疲れたら食うと良いですよォ!』
って言ってたやつ。
シハより南の森じゃないと素材が取れないんだと」
このタイミングで出してくる、疲労回復のお菓子。
アードのおっさんがくれた、というのは比較的高級品。
南の森……イメージ的に熱い。
ボクの世界の知識が古くから根付いていて、言わば別の方向に進化した世界。
なら、答えは1つだけだ。
でも、その名前なんだろうか。
「ちょこれーと」
「くっ……やっぱガキじゃねえな……。
今は『え~! なにもらったの? ずるいー!』とかが正解だぜ。
ウチのチビならそう言う」
「え~、ずるいー」
「今言うとな、欲張りな村娘みたいになってんだよ……ぐぅ。
ということで、ポーチの中におっさんの高級菓子がある!
腹は減るけど、今日はコレでなんとかすっぞ」
「わーい!
狩りして鍋とかやるのかと思ってた」
「アルクバーグの周りならまだしも、このワケ分かんない森の動物、食えるか?
ジジイが居れば『食べられますよォ!』判定が聞けるんだけどなぁ」
「んじゃ、今日は焚き火見て、お菓子食べて、交互に寝て、だね」
「おうよ!」
焚き火の隣には、小屋というには粗末だけれど、しっかり周囲が囲まれた場所が生み出されている。
指先の器用さや体力は流石大泥棒と言った所。
「ということで~! ほい、チョコレートってやつな。
すげえ面倒くさいらしいぞ、これ作るの。
専用の魔装とかあったり、店に伝わる道具とか技じゃないと出来ないやべえ菓子だ」
「……確かに……。
ボクが作れって言われたら、チョコレートの材料はチョコレートなんだ……」
「いや、それじゃ出来てねえだろ」
「溶かして型にいれたり、他の材料を混ぜてオシャレにしたりするの」
「なるほどなァ。 ほいっと、んじゃ半分」
包み紙からボクの世界っぽい。
まさにファンタジーの盗賊コーデのクゥが、包み紙を剥がして板チョコを割って渡してくれる。
これはこれで良いのかも、だけど。
ボクが渡せたら……もっと喜んで貰えたのかな、なんて思ってしまう。
これを伝えた先輩が、この世界の人々の笑顔に包まれていたらいいなぁ。
「ありがと! ん、おいち」
「いやぁ、高い菓子はすげえな! めちゃくちゃ甘いぞ……。
この手の美味いもの、おっさん隠し持ってるな……帰ったら宝探ししようぜ」
「クゥ~、怒られるよ」
「バレたらな!」
親指を立てながら、パキ、と音を鳴らしてチョコをかじる姿が何とも彼らしくて。
つい微笑んでしまう。
食事というには少しだったけれど、なんとも満足した時間だった。
クゥとゆっくり話せたし、雰囲気も良かった。
ピンチなのに、これはこれで幸せだったなぁ、と思う。
火の番、というのを交互にしつつ、焚き火の周りで仮眠。
気づくとクゥに抱っこされているので、自分の番の時、何度か眠っちゃってたかも……。
とはいえ、獣の襲撃なども無く朝を迎えることが出来た。
「起きてるか、マト~」
「うん。動けないけど」
「危ないからな~」
「寝ぼけてるよね、クゥ……。
んと、朝になったからチェックするよ」
ボクは抱かれたまま、目を凝らす。
薄明かり、白み始めた木漏れ日、といった所。
まだ、夜が少し化粧した程度の朝。
「欲【宝の在り処】……!
んッ!? ええ? えええ……」
「んにゃ、どうしたよォ……」
「2箇所に光が別れちゃってる」
「……ん……? んん!?」
「強いキラキラが2個所に別れちゃってる!
崖の向こうなのは同じだけど……あっちと、そっち!」
ボクが指差すのは左の端っこと、右の端っこ。
宝の位置が明確に2個所になってしまった――。




