5-30「宝はボクが決めるんだ!」
炎纏う巨大な両手剣が、地面に叩きつけられた巨像へと閃く。
爆発音が連続で響き、弾け飛ぶのは槍を握ったその右腕。
同時に、無骨な両刃の斧も弧を描き鈍い炸裂音と共に左腕を弾き飛ばす。
「さあ……どう動く、石像よ!」
ガダルが流れる動きで燃える両手剣を振り回し、続く一撃で胴の一部を削り取った。
舞うような剣技はダメージを重ね続け、巨像胴部へ亀裂を増やしていく。
「このまま全身砕いちまえば動かなくなるんですかい?」
ピートは床へとめり込んだ大斧を力任せに引き抜き、再び担いで振り下ろす。
決して流れるような動きでも武器術でもない。
しかし、単純な破壊力――剛力による一撃は、敵巨像の胸部を砕くには充分だった。
胸部を形作っていた岩が飛び散り、巨像内部が顕になる。
オーラや魔法、気の力……分類は分からないけれど、人型をしたエネルギーが石像という鎧を着ている……そんな感覚。
「バトンタッチだ、クゥ殿!」
「こいつは物理攻撃じゃあダメそうですぜ、任せましたぜ!」
空の気配に気づき、2人が飛び退く。
超跳躍で空中に退避していたクゥが辿り着くタイミング。
「マト、やるぞ!」
「わかった! コアが無いなんて関係ない!
宝はボクが決めるんだ!
石像も遺跡もその弱点も……呪ってでも宝に変えてやる!
うさちゃん、やるよ!
強欲【曰く付けた秘宝】!」
胸ポッケから顔を出したうさちゃんの瞳が紅く輝いた。
吐き出した煙のような影が、
ボクの掌に収束し球になる。
球を握れば、影が弾けて下品に輝く黄金の煌めきへと変わり。
雪のように降る金色の粒子が、触れた巨像と床を黄金へと作り変える。
砕けた胸部から覗く場所に、赤き心臓のような宝石が生まれた。
「マトが宝だって言ったんだ、ンなら持って帰らねえとな!
デカくて手に収まらないから奪取できない?
悪いな――手に入ったか入らないかなんて関係ねえ、そもそも全ての宝はオレのもんだ!
ロト、全ての宝をチップにしてレイズ……引き出した幸運、世界に分けてやれ!
強欲【約束された幸運】!」
ポーチから這い出してきた影色サソリの瞳が緑に輝く。
クゥが伸ばした指先に影の玉が生まれ、中から鉤爪のついた黄金の鎖が飛び出してくる。
槍へ、壁画へ、石像へ、遺跡自体へ。
マトが宝だと示した全てに鉤爪が刺さり巻きつき、触れた場所にサソリの紋様を刻む。
所有権のマーキング……これにて、あたり一面がクゥの欲の対象。
全ての宝に等しい幸運が、この場の全員へと溢れる。
「ってことで、この宝は全部オレのだ!
宝の持ち帰り方はよォ、皆とその幸運に任せたぜ!」
クゥと肩に乗るボクが巨像の横に着地。
ガタガタと蠢く巨像から素早く距離を取る。
空から雨のように降る金貨。
黄金像と化した巨像は寝返りの如く横に転がる。
――切り落とされた腕が「たまたま横にあって」接続される。
壊れていた破片も、立ちあがろうと転倒した巨像に接触、再生される。
巨像は膝をつき、身体を起こす。
「敵にも幸運が届くのかよ!?
クゥさんよ、どうなってやがる……!」
アードが叫んだ。
「分からねえ! 皆に与える幸運は敵にも行くのか?
いや、オレが分けたいって思った者だけに……」
その時、巨像から声が響く。
言葉を持たなかったガーディアンの口が、動いた。
「……!?
君たちは誰だ……!?
|意識が戻った……だと……これは、これは奇跡なのか《チナヨト、ヒティノヌカ》……?
|目覚めぬ守護者として柱になったはず、幸運あれば再びと祈りはしたが……《オードシャヌノヌカ、コモクバラ、トガヌカオードニェナ》。
夢か? 私の声が聞こえるか……?」
「長さんがしゃべった」
「何言ってるか分かんねえはずなのに……意味が分かる気がするな。
ああ聞こえるぜ、お前はニラルゲの長で良いのか?
……会いたかった奴が今来るはずだ」
「ああ――そうだ、私は長……タパ・カ・ピィメティ。会いたかった奴……?」
巨像はよろめきながら立ち上がり、天を見上げた。
そして、声を張り上げる。
「その気配! マガロ……!?」
程なくして、金貨に埋まった床へ二足歩行の恐竜が着地する。
遺跡全体が大きく揺れ、床に転がる金貨が跳ね上がり再び雨のように降る。
「……!?
|その声……ただの石像ではなかったのか《タニア、キトコモノヌカ》!?
話せるのか!?
話せるのか……!!!
|まったく品のない黄金に輝きおって《ヨト、ヤカヤトレミラ》……!」
マガロの声が上ずる。
目を細め、嬉しそうに吠える声はいつもの何倍も楽しそうだ。
「お前さん達よ……強欲の力、洒落になってねえぞ。
こんな横暴……ん!?
クゥさんよ、お前さんのロト……目がすげえ光ってんぞ……」
「ん! ほんとだ……!
それに、ボクのうさちゃんの目も凄く光ってる!」
「お、おお!? やっべえぞ……これは……!」
ボクの影ウサギとクゥの影サソリの目が激しく輝いている。
大きな赦が降り注ぐ証――。
呪われた宝のボクと、悪運を受けるクゥ……両者への赦が執行される。
瞬間。
遺跡最終地点である、この部屋に仕掛けられていた転送装置が「なぜか」誤作動。
本来は外への転移として使われる予定だったものだろう。
青い光がボクとクゥを包んだ。
抗う時間なんて有るわけ無い。
気づけば……どこだか分からない熱帯の森の中にボクら2人だけが立っていた。
「クゥ、ここ」
「……おう、どっかにブっとばされて森だな。
うわッ……! 顔、くしゃくしゃだよォ……今くらいこう、キリっとしてくれ」
「だってー」
「そりゃ、そりゃ分かるけどよォ……」
「うさちゃんとロトちゃんが楽しそうにしてるから、これは……」
「悪運と、呪いの宝物の合わせ技だろうな。
とりま皆に合流を最優先だ。
諸々の荷物はピートが担いでて、後はキャアの鞍にくっついてんだ……野営も厳しいぜ」
「わかった!
皆に合流が最優先なら、ボクが道を探すよ。
宝物の位置は分かるんだ、教えて欲【宝の在り処】!!」
目を閉じて、静かに開く。
辺り一面に幻想的な光のオーブが浮かび上がり……ふわり、と風に乗る。
ホタルが一箇所を目指し飛ぶように、光達は流れていく。
輝く道しるべは川となり、森の奥へと進んでいく。
「あっち!」
「……居てくれて良かったぜ、マト」
頭に優しい手が触れた。
目を細めて、静かに身体を寄せる。
「ボクもクゥが居なかったら戻れないと思う。
1人じゃこんな森、走れないよ」
「んにゃ……そのよ。
オレでも不安になるんだよ、森とか得意な場所じゃねェしよ……。
だから、居てくれてありがとな。
地図とし、もな!」
「えへん、ボクは曰く付きの凄いお宝なので!」
「お、シワシワ治ったな。
じゃあ……こっから気合で皆に合流すっぞ!
オレは超跳躍が1回しか残ってねえ。
諸々カツカツでちっとヤバいな!」
「でも、なんとかしちゃうんでしょ?
なんだか楽しそうにしてるし」
両手でクゥの顔をもちもちする。
にしし、と笑って頭を撫で返してくれた。
「じゃ、出発だ!」
倒木を飛び越え、クゥが走り出す。
光の飛ぶ先を伝えながら、茂みや小さな川を越えて……先へ先へと進む。
時々聞こえてくる甲高い鳥の鳴き声に驚き。
湿気が溜まった息苦しい沼の横を駆け抜けて。
必ず皆の元へと辿り着ける安心感は、2人の背中をずっと押してくれていた。
けれど、2人とも戦いには向いていない。
何かと出会わなければいい、そう心の中で願ってしまったのだ。
「ぷぅ」
「しゅっ」
「わっ……! うさちゃんポケットから出ちゃだめ……うわっ、目光ってるじゃん!」
「おいおい、って事はオレのロトも……目光ってるな」
「クゥ、今なにか考えてた?」
「マトこそ。このままヤバい動物が出てこなきゃ楽だな……って……」
「同じこと考えてた」
森がザワザワと音を立てる。
このまま密林の散歩で皆と合流できるほど、赦は甘くなかった。
視線の先で揺れ動いているのは、石めいた質感の植物。
夕焼け色の幹は地上に有るベニサンゴと称するのがぴったりだ。
数が多い。
回り道をするのにも……前方全てがこの植物だ。
「クゥ、あのサンゴみたいなの……ヤバいかな?」
「サンゴならよ、マトの目で見たら宝になるんじゃねえか?」
「光ってないね」
「ってことは、サンゴみてえなヤバい奴……な気がするな……」
風が吹き抜けた。
揺れる木々の隙間から差し込む日が、オレンジに染まってきた気がする。
そして、サンゴのような植物も揺れ動く。
まるでポンプのように収縮を繰り返しているような――。
「マト、下は見るな」
「ん……あっ」
サンゴの根本に転がるのは骨の山。
サンゴが生えている場所を注視すれば、それは鹿やイノシシのような獣と人。
見慣れぬ衣を着た人……。
死体から何かを吸い上げて育つ存在……間違いなく、ロクでもない。
「見ちまったか……。マト、ポッケに入ってるスカーフ出して口に巻け。
これは吸っちゃいけねぇ何かを出すタイプに違いねえぞ」
そう告げたクゥも、ポーチからスカーフを出し口に巻く。
「わかった!」
マーさんが薬液を組み合わせて作った特殊なスカーフらしい。
多少の毒の吸い込みを防いでくれるようだ。
「様子を見ながら切り抜ける……!
戦って倒せるか、避けるべきか、回り道か……少しだけ様子を見るぞ。
目を凝らせ、マト!」
「うん!」




