5-29「長よ、我にも今は味方が居る」
それは、見上げるほどに巨大。
二足歩行の巨竜マガロと変わらぬ大きさの巨像。
槍を構え、太古の衣装を纏う猫科の亜人像の瞳に赤き光が宿った。
巨像が動き出した。
構えを解き、槍を床に降ろす。
目の前で両手を合わせるような仕草の後、頭を下げた。
続き、槍を拾って掲げ巨大な咆哮。
再び槍を構え、その場で留まった。
「礼節のある守護者……か。
……マガロ殿。
この戦い、一騎打ちのつもりか?
それとも、助力しても構わぬか?」
「グハハ、助力など無くとも我1人で一瞬で片付けてしまうがな!
しかし巨像とて我だけでは味気なかろう、戯れる時間を分けてやるぞガダル!」
「ふっ……マガロ殿が楽しそうで何よりだ。
だが、私が倒してしまっても恨み言は聞かぬぞ!
魔装……『狼王剣』……!」
巨竜に並び立つ狼の剣士が剣を高く掲げる。
マガロや巨像と同じ紅のオーラが剣に満ち、巨大な両刃の大剣へと姿を変えた。
剣に飾られた真紅の宝石が鼓動するように輝き、マガロの放つ赤いオーラと共鳴する。
「これは……」
「我が赤き加護よ。
その剣ならば受け取れると思ったが……間違いは無かったようだな。
……1人での戦いでない事、感謝するぞ」
「マガロ、今デレたのか?」
「デレたね、今。
戦士らしく戦う感じなのかなぁ。
でもボクは戦士じゃないし、クゥも戦士じゃない」
「そうだぜ、オレたちはオレたちらしく行くぞ。
マト、輝きの様子は?」
「周囲の壁画と、石像の持つ槍が強い光を放ってる。
絵と槍がお宝!」
「了解だ。その2種類は途中で盗めそうにねぇな。
なら、正々堂々……!」
「正面からかっぱらうよ!」
「お二人さんは無理しすぎねえで狙えよ。
ガダルとマガロは張り切ってるし、うちのピートもやる気満々だしな」
「大将の言う通り、やる気に満ちていやす!
それじゃあマガロさん、ガダルさん。あっしも混ざらせて貰いやす。
部族の長との喧嘩祭、剣闘士として参加しねえ訳にはいきませんぜ!
魔装展開……『銘刀の末』!!」
ピートも剣を高く掲げる。
それは赤く錆びた、ボロボロのショートソード。
ピートの周囲に何本もの壊れた武器の幻覚が現れ、剣へと吸い込まれていった。
一際強い閃光を放ったあと、錆びた剣は美しい鉄色へと姿を変える。
「キーヒッヒッ、皆さんが楽しそうで私も楽しくなってしまいますね!
キャアさん、他の森では空を舞うサメと戦う祭りもあるそうです。
キャアさんも、あの巨像さんと戦いたいですか?」
「きゃあ! みかん!」
「やりたいですか!
では、私は降りて……」
「きゃああ」
「わっ、ローブ噛んだらダメですよォ! お、降りちゃダメなんですかァ!?」
「きゃっ」
「マヌさんよ、キャアもマヌさんが居ると落ち着くみてえだ。
今は貸しといてやる、ちゃあんと世話してくれよ」
「アードさん!
畏まりましたよォ! キャアさん、上がります!
接近戦も補助しますから、自由に戦って下さいねェ!」
「きゃああああ!」
グリフォンが青き翼を開き、舞い上がる。
大広間の天井は、それでも見えない。
底なしの逆さま。
「俺は鐘でマガロさんの補助を軸に、全員に支援の魔装を使う!
自由にやってくれ!」
『おうよ!』
全員の声が重なる。
「行くぞ――長!」
マガロが咆哮と共に凄まじい足音を響かせて走り出す。
「オオオオオオ!」
石像からの言葉はなく。
ただ、込められた熱い意志で返答するかのような咆哮1つ。
同じく、巨像も走り出す。
だが、微妙な違和感がある。
マガロの初手は、渾身の体当たり。
駆け出した速度全てを乗せ、巨像を一撃で打ち砕こうと突撃する。
だがマガロが踏み込んだ瞬間、巨像は正面に居なかった。
その移動は巨像という姿から想像できないほど素早く。
マガロの横をすり抜け、背後へと回り込んでいた。
とはいえ、そのまま攻撃を受けるマガロではない。
巨像が纏う風の流れに反応し、振り向かず尾での追撃を狙う。
巨像もまたそれを察知、高く飛び上がりマガロを飛び越え宙返りして着地。
「……マト、耳がピンピンに立ってんな」
「違和感すごい」
「足音だろ?」
「うん。クゥ、あの巨像、足音ないよね……?」
「してねぇな。 揺れもしない。
あの身のこなしは速くて軽やかで……オレが見ても『すげぇ』ってレベルの動きだぞ。
マガロ達だけに任せられる相手じゃねえ。
族長だが何だかの再現ガーディアンだろうが、ヒトの大きさならまだしもマガロサイズでそれをされるとな……」
「デカいオルド町長」
「最悪だよ、ウチのじーさんがあのままデカくなったら隣町まで見えねえ手が届くわ!
ってことで、オレらも支援に行く。
ただ、相手は武器持ちで機動力も高い。
1発貰ったらおそらくアウト……丁寧に豪快にいくぞ!」
「わかった!!」
「ぷぅ!」
「しゃっ」
「……鳴いてるぜ、ウサちゃん。オレのチビもやる気みてえだ。
使い所だ、そう言ってるんじゃねえか?」
「……分かった。クゥ、不幸の心構えはOK?」
「マトこそ、呪いはたっぷり準備できたか?」
言葉は要らない。アイコンタクトで微笑むと、クゥが走り出す。
ボクもしっかりと捕まる。
目を凝らし……宝を探る。
2人が小さな相談をしている間も、マガロ達の戦いは続いている。
宙返りから着地した石像は、身体を深く深く沈め込み、跳ねるように前へと走り出す。
1歩、2歩、3歩……そこから高く高く宙へと跳ね上がる。
空を舞うキャアとマヌダールの遥か上へと巨像は飛んだ。
「……上ですか……!?
石のガーディアンでこの動きは想像できない!
いかなる警戒をしても足りないくらいです!
キャアさん、一時的に距離を取りますよ!」
「きゃあん!」
「面白い、そう来るか!!!
グゥゥゥ……迎え撃つ……!
『竜脚跳躍』!!」
マガロが巨像を追い、空へと跳ね上がる。
凄まじい振動を残し、高く高く空へ。
「……ピート殿。準備は良いか?」
「ええ、ガダルさん。やはり狙いはそこですかい」
飛び上がった2人に反応し、ピートとガダルも走り出す。
「いかに素早かろうと! あの高度からの着地――確実に隙となる!」
「重ねますぜ、ガダルさん!」
「ったく、全員やる気じゃねえかよ……本当に面倒だぜ……!
魔装展開――シーアリア風穴遺物『祝福の烈風』!!」
アードが懐から取り出した緑色の鳥の羽。
掲げれば、無数の輝く小鳥へと姿を変え皆の元へと飛んでいく。
加速と跳躍の力を付与する願いの力が弾ける。
「――助かるぞ、アード……!
我の力も漲っておる! させぬぞ、長……!」
空へと跳び上がったマガロへと届いた願いが、高く速く、先へとその体を押し上げる。
「――『爆炎纏う赤竜の槍』」
巨像の声が上方から響く。
赤き業火を吹き上げる槍を掲げ今まさに投擲しようとした瞬間、マガロがその眼前へと辿り着いた。
「長よ、我にも今は味方が居る。
以前ならば間に合わなかっただろうが――そうはさせぬ!
『竜脚蹂躙』!!!」
両足から炎を噴き上げ、加速しながら巨像へと体当たりを叩き込む。
大技の構えに入っていた巨像は、回避叶わず。
技は放たれることなく、巨像はマガロの体当たりで地上へと落下していった。
上空で瞬いた赤き閃光と爆音。
そしてガダルの声。
地上の皆は察する。
巨像が落ちてくる、と。
キャアが強化を利用し超高速で降下、アードを足で抱えると空へと戻る。
ピートとガダルは空から落ちてくる巨像を目視。
落下した瞬間を追撃するため走り出す。
「『肉体超越』『限界超過』『超剛力』『超加速』!!」
「――ハァァァ――」
ガダルが動的なエネルギーを全身に纏い虹色に輝くのとは対象的に、身体を沈め大きく息を吐き出すだけのピート。
ただ、両者の集中は周囲の空気を震わせる程の圧そのものだ。
「マト、落ちてくるぞ。
総攻撃で仕留める……そんな空気だ。
準備しろ!」
「わかった!!
石像の輝きは槍だった。
でもあのおっきいのは奪取出来ない。
奪い取るべきはもっと大事な宝――」
「見えなくても、今は無くても。
『マトが有る』って言うなら――!」
「『クゥのもの』だよ!!」
「見せてくれてありがとな、ガダル。
今なら出来る気がするぜ――『超加速』!!」
アードの魔装による加速に、強化された加速を重ね。
その背に翼が開くように。
走り出せば、その姿は肉眼で捉えるのが難しいほど速く。
足元から溢れる粒子が残像のように残る。
地上で待ち構える2人の攻撃の後の隙を狙うなら、今は跳んで見下ろすのが正解。
「こっから超跳躍だああ!!!」
土煙を上げながらクゥが高く跳び上がる。
すれ違うのは落下してくる巨像。
すさまじい轟音が広間に響き渡り、砂煙が舞い上がる。
地上へと巨像が叩きつけられた振動は、遺跡全体を激しく揺らす。
「受けよ――『狼王の赤竜牙』!!」
ガダルの両手剣がマガロの竜脚が如く炎を吹き上げる。
美しい構えで振り上げ……斬り下ろす為走り込む。
「魔装再展開……こいつが本当の『銘刀の末』ですぜ!」
ピートの構えた剣が姿を変える。
それは宿る武器の魂の1つ、大斧。
両手斧へと変わった武器を担ぎ上げ、叩きつけようと跳ぶ。




