5-28「早めにこの回廊、抜け出ましょう」
「問題発生、かも」
「くしゃくしゃの顔だな……。マト、どうした?」
「眩しすぎて、欲の光を追いかけるのがいっぱいいっぱいで」
「確かに壁まで黄金だからな。ある程度は分かるか?」
「うん、道のりは辛うじて。
ガーディアンのコアを見る、とか道中の小さなお宝を見つける! とかは厳しそう」
「ンなら、此処からはオレらの目でお宝探しだな!
道のりだけ変わってないか見ててくれ!」
「了解だよ!」
この先は、黄金の通路。
煌びやかな装飾が彫り込まれた、ギラギラと輝く神殿。
「それじゃ、進むか!
見てても目が疲れるだけだしな!」
クゥの言葉を皮切りに、皆が一斉に歩き出す。
キャアとマガロ、ガダルが見事にシワシワの顔。
輝きが強すぎて苦手なのだと思う。
ボクも目を細めないと、眩しさで全てを見失ってしまいそう。
きっとボクもシワシワだ。
「……クゥさんよ、罠とかの気配はあるか?」
「んー、経験的に言えば通路そのものが罠なんだけどよ。
感覚的には何も感じねえな」
「キーヒッヒッ、あまりにも派手かつ、自然とはかけ離れているので私も専門外で分かりませんねェ……」
キャアの背でマヌダールが周囲を真剣に見つめる。
通路は曲がること無く真っ直ぐ続き、壁の装飾に変化はない。
「なんと無く、違和感がありますよォ。
こんな場所にある黄金の道だから、でしょうかァ」
「そうだな、マヌさんよ。
俺もさっきから違和感だけが湧いてくるんだ。
釈然としないモヤモヤがな」
「大将、あっしも変な感覚がありやす。
景色が変わらないせいで進んでるか分からなくなってきましたぜ」
「……ピート殿、私もそれを感じていた所だ。
黄金で眩しく、壁の装飾は全く変わらん……その場で足踏みをしているような感覚になる」
「……確かになァ……」
クゥが顎に手を当てて小さく唸っている。
彼も違和感は感じているようだ。
だが、その正体には到っていない雰囲気。
珍しく渋い顔をしている。
「クゥ、くしゃくしゃになってる」
両手でクゥの顔をモチモチする。
「嫌だろ、くしゃくしゃ顔」
「確かに、嫌かも」
その時、一際大きな足音が止まった。
「汝らよ、我も強い違和感を感じる」
「マガロ?」
クゥと一緒に振り返れば、マガロもしっかりくしゃくしゃ。
眉間に刻まれた深い皺と、半分閉じた瞬膜。
趣きのある困った顔の恐竜おじさんは、大きな鼻息ひとつ呟く。
「……違和感。違和感かぁ……。
眩しいけど、ちゃんと見直す! なんだかボクも変な感じする!
欲【宝の在り処】!!
わっ……眩し……ッ……ンンッ」
今までに無いほど、ボクの顔はシワシワだろう……。
首輪から無理やり顔を引き抜こうとして、ぎゅむぎゅむになった柴犬が如く。
細めた目の中に飛び込んでくる、光の道しるべは前へ流れている。
確かに、前に流れている。
でも。
「後ろからも来てる……なにコレ……。
前に行って、後ろから来て、前に行って、後ろから来て……右。
右!?」
「よしよし、頑張ってるから。
くしゃくしゃになるほど頑張ってるから、慌てないでゆっくりでいいぞ。
無理すんなよ」
「う、うん、ありがとクゥ……。
飛んでいくキラキラが真っ直ぐ進んで、奥へと消えていくんだけどみんなの後ろ。
入ってきた方から戻ってくるんだ」
「む? 奥から手前へ……? 我に覚えがあるぞ。二ラルゲは迷いの森――」
マガロの大きな呟きが、黄金の小道に響く。
「迷いの森……ん! そっか! これループしてるんだ……!
前に進むと、ここに戻って来る。
あと2回この場所に戻ったら右側へ進むと、抜け出れる!」
「ははぁ、なるほどなマトさんよ!
同じ景色を繰り返したり、同じ場所に戻り続ける道……。
名高い者の墓場や、妖精の森なんて呼ばれる場所で見られるという、永久回廊か……!」
「おっさんが言うそれ、やべぇヤツじゃねえか……。
骨になるまで歩き回る、帰れずに野垂れ死ぬなんて言われるヤツだろ……。
ナイスだぜ、マト! やっぱ頼りになるな~!」
「えへへ! 違和感を皆が話してくれたから気付いたし、眩しくて辛かったから……。
いえい!」
ぽむ、とクゥとハイタッチ。
「っしゃ、ここから2週、しっかり見ててくれよな。
眩しいと思うけど、頑張れよ! くしゃくしゃマト!」
「むむっ……」
「本当にくしゃくしゃではないか……。
クゥ殿、早めに行くとしよう! 顔の皺は癖になるというのでな」
「ガダル、お前もくしゃくしゃなんだよ。
しかも目の下真っ黒だし、ふわふわじゃなくてくたびれてるだろ……。
ジジイ狼だぞ……」
「どんな顔なさってるんで?
うわ……ガダルさん、やべえ顔ですぜ……」
「キーヒッヒ……ふわふわや鱗の皆さんの顔に良くないですねェ……。
早めにこの回廊、抜け出ましょう。
キャアさん、もう少し頑張りましょうねェ」
「きゃっ」
「我は眩しくなどないぞ。 我を祀る場所が豪華な事は良い……」
「おい、マガロ……。
偉いドラゴン様が、その顔で出てきたらお説教だと思うぜ……?
……マガロ見てると目が楽だな。
派手さがマシだ」
「派手とは何だ、言葉を覚えよ盗賊。鮮やか、と言うのだ」
「……みんな、マガロ見てて。
ボクが道はしっかり見てるから安心してね!!」
ぎゅう、と顔に皺を寄せ。
必死に光を追う。
ついに二周目に入った。
「結構来てるか?」
「うん、この週で右に曲がる予定。
クゥの感覚では何か感じる?」
「うんにゃ、何にも。景色はずっと同じ紋様の連続。
色や傷も無い。本当に同じ空間を進んでいるように感じる、な……」
「あと少しのハズだよ……」
「マガロ殿の顎の下の鱗、一枚逆さではないか。
噂の逆鱗だろうか?」
「ホントですぜ! オレンジの鱗が1枚、逆さまですぜ!」
「ったく、つまんねぇ物を探してねえで道に集中しろ、お前さん達……」
「つまらぬとは何だ! 我の逆鱗は弱点だぞ!」
「……キヒィ……マガロさんまで雑になってますねェ……。
弱点は顎の下と。……しかし、この回廊は体力と精神を的確に奪いますねェ。
単純ですが下手なトラップより厳しいですよォ」
「……おい、みんな止まれ。
マト、この先を右だな?」
「ん……ン! そう! なんでクゥ分かったの!?」
「そこの模様、一箇所だけ違うぜ。
ツタみたいな模様はずっと繋がってたはずだ。
そこでツルが終わって、逆から伸びてきたやつと絡んでんだ。
ったくよぉ、マトが居るから何とか気づけたが……これは長時間迷ったら森よりハマって危ねえな」
「流石師匠……!」
「にしし、オレは凄いんだからな?
さて……と、この場所、風の流れも香りも違うな。
目を閉じて歩いた方が感じ取れるかもしれねェ、目に頼るなって感じだなっと。
で、皆は待機だ。
――分かった時が、一番危ない」
「……そういう慎重な泥棒は掴まらねえんだ、全くプロは違うねぇ、クゥさんよ。
俺が言う事じゃねえが、気をつけな」
「おうよ――」
クゥが壁の前に立ち、何かの気配を伺っている。
目を閉じ風を感じ、匂いを嗅ぐ。
「マト、何か聞こえるか?」
「風の音……ひゅうう、って言ってる。
音の位置は正面、キラキラのとこ」
「……扉のタイプだな。開いた後、罠が動く可能性がある。
鍵の感じはない――よし、開けるぞ。
矢とか煙とか覚悟しとけよ!
アードのおっさんは魔装の準備頼んだ!」
踏み出したクゥが真っ直ぐ手を伸ばす。
黄金の壁に手が触れた瞬間、音もなく壁が左右にスライドして開き始める。
まるで自動ドアの如く。
扉が完全に開けば、天井が見えぬ巨大な広間が姿を現す。
中は石造り。
黄金も無く、ツタもない。
広間の周囲には多くの壁画。
きっと、意味があるもの……ボクは、この世界の歴史や伝承を知らない。
この絵は、きっとこの後、沢山の事を教えてくれるのだろう、と期待してしまう。
正面には、マガロと同じ大きさ……巨大な石像。
骨や牙で作ったチョーカーを首に巻き、腰布一枚で槍を構えた男性。
猫の耳と尾、人間よりではあるが獣人族に見える。
その指には虹色の光が溢れる指輪が輝いていた。
ボクはあの指輪を知っている。
この胸ポケットに入っている……シハの遺跡の地下で拾った指輪にそっくりなのだ。
「あれ……もしかしてガーディアン?」
「間違いねえな……あれは動くぞ」
「ガハハ、守護者が長の像とは!
なるほど――我が望むと思い、汝らは長を残したのか。
愉快、愉快だぞ。ならば、祭を今執り行うとしようか!」
マガロが嬉しそうに咆哮する。
「長……ねぇ。
そんな話してたな、業……人拐いを乗り越えて、強欲へと至る指輪を持ってる奴。
そいつの像があれで……祭ってのはなんだよ、マガロ」
「毎年、我を村へ招いた後……村の者達と戦う祭だ。
お互い殺すことはしないが――限界まで全力でぶつかり、願いを辺りへ満たす、というものだ。
巫女たちが我の為に考えてくれた……大事な行事だったのだ」
「聞いたことはあるぜ、マガロ。
密林の集落では壊神に戦いを捧げていた、なんて話をな。
そういう奴か?」
「……ちょうど壁にその物語が描かれている。
我がこの後に話そう。なんせ――長は、やる気満々のようだし、な」
石像の瞳が、赤く輝いた。




